第916話 真の最強

 たまに、自分が超能力者じゃないかと思うときがある。


 未来視のような勘のよさ。本質を見抜く感じ方。自分でもドン引きするくらいだ。


 だがまあ、それらを否定するつもりはねーし、隠す気もねー。あるのなら遠慮なく使わしてもらいます、だ。


 先ほど下りた場所から布を伝って地上へと上がり、ズボンの右ポケットから殺戮阿を抜き放つ。そのまま石で組まれた橋の欄干へと振り下ろした。


 竜すら撲殺できる殺戮阿吽にかかれば橋の欄干など積み木を崩すより簡単ーーどころかやり過ぎた! 


 危うく崩れ落ちるのを慌てて土魔法で修復した。あっぶねー!


「なっ、なにいきなり破壊活動してんだよ!? ガイジかっ!?」


 ある意味、間違ってはいないので突っ込みはしない。オレも他人がいきなり橋を壊したらそう叫ぶわ。


 ただ、言わせてもらえばやったことに意味はある。


 それがなにかはあちらさん次第。さあ、どうすると待つが、一向に近寄って来る気配はない。ってか、潮が引くようにいなくなったな。


「ケッ。根性のねーヤツらだ」


 殺戮阿をポケットに仕舞い、根性なしどもを吐き捨てた。


「……あ、あのー、なにがなにやらさっぱりなんですが……?」


「ったく。お前の野性はどこに行った? 気配くらい読めるようになれ」


「なんのバトルファンタジーだよ! 気配なんか読めるか! つーか、どんな修羅道を辿って来たんだよ、この自称村人がっ!?」


「村人は常に魔物来襲や飢えと戦ってんだよ」


「戦って勝てねーから村人なんだよ!」


 なんの偏見だよ。この世界の村人は強かでしぶとい生き物だわ。


「……いや、もうなんでもいいよ。つーか、なんなんだよ、いったい……?」


 肩を落とす茶猫。あんまり不思議な動きしてるとレイコさんに解剖されるぞ。


「猫、おもしろいですね」


 ……本当に解剖とか止めてくださいよ、レイコ教授……。


「マフィアのヤツが因縁か脅しに来たからこちらの力を示したんだよ」


 それでもお話しましょうってんなら喜んで受けるが、相手の実力を知って逃げ出す雑魚に割いてやる時間はねーわ。


「強いヤツに背を向けるのもイイ。へりくだるのもイイ。それが弱者の生き残る知恵だからな。だが、自分を強者と勘違いしているアホはこっち来んな、だ」


「……それは、お前に力があるから言えんだよ」


「アホか! 力と心は別物だ。一緒にすんな」


 オレから言わせれば、ただ力の強いヤツなど怖くはねーし、神(?)からもらった能力を使うまでもねー。ちょっと頭を使えば十二分に勝てるわ。


「猫になったとは言え、お前は世界最強の猫だ。普通の人でも勝てるだろうさ。そんな世界最強の猫がなんで下水道暮らししてんだよ? その力を使えば人並み以上の暮らしができんだろうが」


 できてねー時点で「力があれば」なんて言いわけなんだよ。力がすべてじゃねーと自ら証明しんだよ。アホが。


「…………」


「世界最強の最大の敵ってなんだかわかるか?」


「……わかんねー……」


「世界最弱だよ」


「はあ?」


 意味わかりませんって顔をする茶猫。


「自分が弱いとわかっている者は賢い。知識があるとかじゃねーぞ。頭が悪くたって要領のイイヤツはいるだろう。強者に媚びて甘い汁を吸うヤツもそうだ。まあ、オレの好みには反するが、オレはそう言うヤツを賢いと思う。だが、ただの強者は、そんなヤツらを弱者と侮る。ゴミ以下としか見ず、そいつに心があるなんて夢にも思わねー。そんなヤツをお前は賢いと思うか?」


 オレは思わねー。世界最強のバカとしか見えねーよ。


「確かにオレたちには通常の人にはない力がある。だが、完璧かと問われたら「はい」とは言えねー。最強を覆す最強はどこかにあるんだよ。それを知らず、力に溺れ、自分を最強だと勘違いするバカは自滅する。自分より下だと思ってたヤツに負けるんだ」


 人は人である者に勝てもすれば負けもする。


「不完全だからこそ力に頼るな。過信するな。常に鍛え、常に考え、常に努力しろ。自分を動かすのは自分だけ。心から沸き起こる衝動なんだよ。ナメたこと言ってんじゃねー!」


 まあ、それも前世の記憶と経験があったからこそ、と言われたら反論のしようもねーが、それを活かせねーヤツには言われたくねーわ。


 あるものは使え。腐らせるな。鍛えろ。自分の力だと誇れるように力を支配しろ。力があるからとほざく負け犬など鼻で笑ってやれ。


「力と心が合わさったとき、人は真の最強となれんだよ」


 いや、こいつ猫じゃんって突っ込みはノーサンキューね。

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