第917話 目が点

 来るときとは逆に帰りは、先頭をドレミ、真ん中オレ、最後尾に茶猫だった。


 まあ、だからなんだと言われそうだが、猫じゃないのに猫らしいドレミはなんなんだろうと疑問に思ったまでです。


 どんよりする茶猫がうっとうしいが、人も猫も考えたいときはあるもの。そっとしてやるのが人情よとばかりに放置してやる。


 これと言った問題もなく城に到着。前みたいに恥ずかしいやり取りをし中へと入った。


 ……ってか、毎回やらないとならないのか、あれ……?


「お帰りなさいませ、ベー様」


 顔パスになんねーかなと考えていると、お世話さんが出迎えてくれた。あい、ただいま。


「第三夫人に話があるんだが、会えるかい? ダメなら後にするが?」


 急ぎってほどでもねーしな。いや、オレ的には、ですが。


「聞いて参ります」


 んじゃ任せたと、用意してもらった部屋へと向かった。


「お帰りなさいませ」


 ミタさんや他のメイドさんに迎えられ、ソファーへと腰を下ろした。まずはコーヒーを一杯くださいな。


「三兄弟はどったの?」


 他にもいないのはいるが、いなくてもイイので聞いたりはしません。


「別室で休んでおります。呼びますか?」


 どうする? と茶猫を見るが、自問自答に忙しいようでソファーの下で丸まっていた。


 ……無意識だと猫の行動になるんだ……。


「いや、そのまま休ませててイイよ。まだいろいろあるしな」


 なるようになる。まったりのんびりいこうぜ、さ。


 部屋でコーヒーを堪能していると、なにやら外が騒がしい。なんだい、いったい?


「ベー!」


 と、ドアが勢いよく開かれ、公爵どのが現れた。


「なにがあった!」


 現れるなり意味不明な詰問。なんだい、いきなり? 長い説明は求めねーからざっくりと説明しろや。


「カティーヌを呼び出しただろう。大概、お前が誰かを呼び出すときは問題が起こったときか、大問題が起ころうとしているときだからな」


 そうか? 考えたことねーからよくわからんわ。


「まあ、確かに問題と言えばそうかも知れんが、そう深刻なことじゃねーよ」


 だから安心しろよと言ったらさらに深刻な顔をされた。なんでだよ!?


「……人魚の問題も片付いてねぇのによ……」


 あ、いたね。人魚さん。すっかり忘れったわ。ダーティーさん、生きてるかな?


 水輝館に帰ったら湖を一周してみるか。ドレミにお願いした調査も気になるしよ。


「──ベー様! いったい何事ですか!?」


 なにやら駆けて来たのか、息を切らす第三夫人。オレ、急かすように言ったっけ?


「なにを勘違いしてるか知らんが落ち着けや。ミタさん。二人にお茶を」


 城主(第三夫人)と当主(公爵どの)に言うの変だが、それも今さら。この部屋の主として進ませていただきます。


 ミタさんが淹れた紅茶を飲むと、二人は落ち着いたようで、いつもの調子を見せた。


「帝都にいってたんじゃなかったのか?」


 本題に入る前に軽いおしゃべりでもしましょうじゃのーの。


「いってたよ。ついさっき帰って来た」


 なにやらオレの出会い運が発動しちゃった感じかな?


「人魚の問題は、そんなに芳しくねーのか?」


 つーか、帝都に関心を示すヤツなんていんのかい?


「大き過ぎる帝国の弊害だ。危機を危機として捉えていない。宰相府すら右から左に流しおったわ」


 公爵どのの言葉を、かよ。そりゃ終わってんな。


「まあ、イイじゃねーか。ちゃんと話は通したんだし、後はバイブラストで解決しちまえよ」


 責任回避はちゃんとしたし、余計な口出しも入らない。実に都合がイイじゃねーか。


「そう言えるのはお前だけだ。報告をなかったことにして責任を追及してくるのが宰相府だ」


「公爵どのにイイ言葉を教えてやろう。真実は見えてこそ。見えなきゃ誰も気がつかないってな」


「それ、悪党の発想だわ!」


「さらにイイ言葉を贈ろう。毒を以て毒を制す。悪党には悪党の理論で対抗しろ、だ」


 打ち負かしたいのなら正義を語ればイイ。だが、制したいのなら悪党を語れ。よりよい毒(悪党)が勝つんだよ。


「……お前は一生村人でいてくれよ……」


 言われなくともオレは生涯村人だ。


「まあ、人魚の件は追々考えるとしよう」


 それでイイんじゃね? 事は起きるときに起きるし、流れるときに流れる。無視してなけりゃなんとかなるさ。


「……で、カティーヌになんの話だ?」


「第三夫人に、ってよりは公爵どのに話だな」


 そこで言葉を切り、コーヒーを一杯。あーうめ~。


「カティーヌ。これは、相当厄介なことがあるときの展開だ。心を強く持て」


 いや、そう深刻になられると話し辛いんですが。


「いったいなんなのだ?」


「下水道にタコがいる」


 簡素に説明したら目を点にする公爵どの。あれ? わかり難かった?


「ベー様。タコでは伝わりませんよ。グラーニと言わないと」


 あ、そうか。オレ的にはタコとしか認識できねーが、バイブラストの者にはグラーニって魔獣で認識されてんだったな。


「訂正。領都の下水道にグラーニがいる。それも産卵できる個体が。下手したら群れでいるかもな」


 と、話したら二人ともさらに目が点。聞こえてる?

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