第893話 見ている者へ ここまでが書籍13巻

 挨拶はそのくらいにして、飲んで食って日頃の疲れを癒しやがれ! と、各自の行動に任せた。


 オレも腹が減ったので、皆の中に入り、おしゃべりしなから慰労会を楽しんだ。


 オレの腹は小さいのですぐに輪から外れ、休憩用に創った結界椅子に座り、腹ごなしにコーヒーを飲んでいた。


「隣、よろしいかしら?」


 ゼルフィング商会の面々を眺めていたら、婦人が輪から外れてやって来た。


 どうぞと、コーヒーカップを掲げて承諾する。


「ミタレッティー、紅茶をお願い」


 うおっ! ミタさんいたのね!? 全然気がつかんかったわ。


「はい。蜂蜜はお入れしますか? べー様の秘蔵です」


 オレ、秘蔵にしている蜂蜜なんてあったっけ?


「今回は遠慮しておくわ。甘いもの食べすぎちゃったから」


 ふ~ん。婦人も甘党なんだ。知らんかったわ。


 ミタさんが淹れた紅茶を飲む婦人を視界の隅に入れながら、オレもミタさんにコーヒーを淹れてもらった。


 ……この万能メイド、日に日に淹れ方に磨きがかかって来てるよな……。


 なんか最近、グレン婆からもらったコーヒーよりミタさんが淹れたコーヒーを飲んでいるのが多いぜ。


「……どうして慰労会をやろうとしたんです?」


 突然の問いに、意味がわからず空中を眺めていたか、なんとか意味を理解した。気になるのかい?


「ゼルフィング商会を実質指揮している者としては多いに気になります。べーは誰とでも商売するんですか」


 まったくもって反論できないので沈黙を守った。


「……別に深い理由はねーんだがな……」


 本当に思いつきであり、ついでのようなもの。九割以上はゼルフィング商会の従業員を労るためにやったのだ。


「その思いつきを教えてください」


 気が進まねーな。大した理由じゃねーのによ。


 渋るものの、一歩も引かない婦人に諦めた。ったくよー。


「思いつきなんだ、多少の後付けは許してくれよ」


「構いません。多分、それがべーの本音でしょうから」


 そんなものかね? いいわけだと思うんだがな。


「まあ、なんつーのかな、オレは自分で思う以上に周りから見られてんだなーと思った訳よ」


「今さらですか?」


 ハイ、今さらですがなにか?


「まあ、別に見られたからってオレはオレのために動くし、自重するつもりもねー。好きにしろだ」


 オレの目標はイイ人生だったと言って死ぬこと。そのためなら妥協はしねー。


「多分、この慰労会も見られているだろうな」


 ギョッとした婦人が周りに目を向けた。


「そんなわかりやすくは見てねーよ。まあ、見ているのは人外級のヤツらだろうよ」


 オールフリー。見たきゃ見ろって感じにしていたからな。


「み、見られているのは理解できますが、なぜ見せているのですか?」


「それは見ているヤツら次第。オレの関知することじゃねーよ」


 ただまあ、誘導はするがな。


「では、どう見せているのです?」


 ……フフ。さすが婦人。オレの考えなどお見通しか……。


「仲良くやってますよ、って感じかな?」


 ざっくり言えばそんな感じだ。まあ、長く説明しても、目的はそれだがよ。


「種族が違がかろうが、育った環境が違がかろうが、努力次第で仲良くなれるってのを見せてんだよ」


 別に理想を語りたいわけじゃねーし、これを押しつける気もねー。それぞれの主義主張を叫べばイイさ。


「笑ってイイぜ」


「いえ、笑いません。笑ったらわたしの努力も否定してしまいますから。ただ、それはべーがいたから可能だったのです。他の誰でも真似はできません」


「オレができたのなら他のヤツにもできるよ」


 前世の記憶があるから特別にやれたかも知れんが、それを引き継げるヤツはいる。そのための婦人であり、魔王ちゃんや勇者ちゃんだ。


「オレは百年も生きられないが、次に託せるヤツは育てられる。平和に仲良く、オレが安らかに生きられるために、な」


 すべてが自分のため。偽る気はねー。


「ふふ。べーらしいです」


 優しく微笑む婦人。そこは見損なうところだと思うんだがな。


「──マスター」


 そう言おうとしたらメイド型のドレミが現れた。なんだい?


「そろそろ花火を上げたいとのことです」


 あ、花火な。すっかり忘れったわ。


「んじゃ、やってくれと伝えてくれ」


「わかりました。では、開始してください」


 誰と電波交信しているのは謎だが、それに返事するかのように花火が打ち上げれた。


「な、なんですか、あれは!?」


 花火を知らない者にびっくりか。まあ、それを説明するのも野暮。驚愕が感動に変わり、打ち上げられる花火に夢中となった。


 オレも花火へと意識を向け、打ち上げられる花火を楽しんだ。

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