第891話 七色変化

 慰労会の場所は、別荘の庭園と湖畔、そして、湖面とした。


 はぁ? 湖面? とか疑問に感じた方もおろう。だが、我が結界術を使えば問題ナッシング。まるで透明な氷の上を歩いているかのような神秘さだぜ。


 湖面には白雷花を設置する。


「さあ、白雷花。光れ」


 白雷花は、水を吸うとき発光する特性を持つ。


「へ~。キレイじゃない」


 ただ、白雷花が食虫植物じゃなかったら、オレも素直にキレイだと思えたんだがな……。


「そうだな。キレイだな」


 知っているのはオレだけ。そして、今宵限りのお披露目。あとは、人の目が届かないところで食虫ライフをお過ごしください、だ。


 イイ感じに浮かぶ白雷花たち。まずは環境に慣れているってところかな?


「おっと。見とれてる場合じゃなかったわ」


 紅桜には空中に浮かべ、光を当てて場を華やかにし、白椿は広場の周りに置いて暗闇と光の境界線を演出する。


 踊るように揺れる水花はテーブルに置いて目を楽しませ、香り豊かな水仙は場を落ち着かせてもらう。


 自己主張の強い花人だが、鮮やかに咲くことを突っ突けば、意外と素直に動いてくれるから助かるぜ。


「ベー様。陽が傾いて来たので料理を出してもよろしいですか?」


「あ、そうだな。もう出してもイイか」


 つーか、ゼルフィング商会の面々は集まってんのか? 姿がまったく見えねーんだが?


「ベー様が会場作りをしているのでテントを設営して待機していただいております」


 え、そうなの!? まったく気がつかんかったわ。


「そりゃワリーことしたな。待ちくたびれてんだろうよ」


 早いヤツは朝から来てるだろうし、もう待ちくたびれて萎えてんじゃねーか?


「いえ、ゼルフィング商会が一同に会することが初めてとかで、この機を活かして情報交換をしているそうです」


 まあ、この時代、百キロも離れたら別世界みたいなもの。各地にある支店の者が一堂に会するなんて一生に一回あるかどうか。よほどのことがなければ無理だろうよ。


「ってか、ゼルフィング商会の支店っていくつあんだ?」


 ハイ、無責任な代表でスンマセンです。


「フィアラ様が掌握しているのは、本店があるボブラ村を混ぜて六ヶ所です」


 オレが掌握してないのが笑えるよね。


「意外と多いんだな」


 ハイ、お前が言うな、ですね。アハハ。わかってますって。


「あまりフィアラ様を困らせないでください。なんにでも全力を出そうとする方なんですから」


 オレより婦人を知っているミタさん。いつの間にそう言えるまで交流してたのよ?


「フィアラ様のお世話をしているメイドは、あたしの配下です」


 そうなの? ゼルフィング家のメイドはよくわからん形態してんな。


「まあ、自分を変えるのは自分だ。変わりたいと願うなら自力でなんとかしろだ」


 他人にできることなんてほんの僅かしかねー。本人が望んでこその我が人生よ。


「料理を出したらゼルフィング商会の面々を会場に入れてくれ。あ、酒や果汁もな」


 ゼルフィング家のメイドさんたちの手際よい仕事ぶりを眺めていると、外に通じる門から婦人やゼルフィング商会の面々が入って来た。


 身内の会なので、着飾った者はいないが、風呂に入ったのか、誰もが身ぎれいになっていた。


「サプルが露天風呂を造らせたのよ」


 誰によ?


「カイナーズホームの営業さんによ」


 鬼のか?


「ううん。別の営業さんよ。サプルの専属とか言ってたわよ」


 だ、大丈夫なのか? あのときみたいに百三十億円とか止めてくれよ。


「大丈夫じゃない。カイナのおじさまが用意してくれた営業さんとか言ってたから」


 あの野郎、うちの妹を甘やかし過ぎねーか? 我が儘になったらどうしてくれんだよ。


「サプルはベーの妹なだけあって好きなことには妥協しないけど、それを当たり前とは思ってないみたいよ。まあ、たまに暴走することがあるらしいけど」


 兄であるオレよりサプルに詳しいな、このメルヘンは……。


「ベーは聞き役専門だからよ。もっとおしゃべりしなさいよ」


 別に口下手じゃないが、女相手におしゃべりとか拷問だわ。五分もしないで死ぬ自信があるぜ。


「……ときどき、ベー様とプリッシュ様の謎会話にはついていけないときがあります……」


 そこは考えるな、感じろダヨ!


「ベー。慰労会とやらは始まりですか?」


 いつものキッチリした服ではなく、サマードレス(?)のような軽いものを着ていた。


「ああ。始まりだ。つーか、どうしたんだい、その恰好は? スゲー色っぽいじゃねーか」


 大人の女が出せる独特の色気。ほんと、女はいくつになっても七色変化だぜ。


「ふふ。ベーにそんなお世辞が言えるとは思わなかったわ」


 失敬な。オレは女を褒めることはできるわ。


 ……煽てたり、機嫌をとったりするのは苦手だがよ……。


「オレが言っても説得力はねーが、婦人はもっとオシャレに気をつかうべきだな。たぶん、婦人は歳を重ねるごとにキレイになる女だ」


 若いときは、凡庸な容姿だが、歳を重ね、周りにもまれ、苦悩を色香に変える稀有なタイプなんだろうよ。


「できれば同年代で会いたかったぜ」


 なんて考えても無駄なことだが、女がキレイになっていく姿を見れることは、なによりも素晴らしい人生だろうよ。


「……まったく、あなたは女を誑かし過ぎます……」


 そんなことができたら前世のオレは、もっと輝いていたものだったろうよ……。


「女は自ら輝いてこそ。男の言葉なんかに左右されるな」


 それがイイ女の証だ。

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