第890話 違和感

 オレが目指している慰労会は、癒やしだ。


 まあ、前世と違ってストレス社会(時代か?)ではねーので、鬱になるようなヤツは……いるか? いや、いたとしてごく僅かだろう。


 じゃあ、なんで癒やしかと問われると、丸投げしてごめんさない! 皆苦労してるね! って感じたので、その張本人(原因とか言っちゃダメだからねっ)としては、その疲れた心や体を癒やしあげたいと思ったわけですよ。


「悪いとは思ってるんだ」


 いや、まったく、これっぽっちも思ってません。それどころか益々のご活躍に超絶に期待しておりますです! 疲れたらわたしめが癒やして差し上げますんで!


「悪辣なんだか優しいんだかわからないわね」


 人は、悪辣で優しい生き物なのさ。ってか、暇なら手伝いなさいよ。


「慰労会の計画がベーの頭にしかないのに、どう手伝うのよ?」


 チッ。使えねーメルヘンめ。日頃のエスパーぷりを見せやがれ。


 なんて、猫の手にも役に立たねーメルヘンなど、本気で期待しちゃいねーわ。


「ドレミ。今、分離体いくつ出せる?」


「二体がやっとです」


 少ねーな。いろはは?


「同じく二体です」


 はぁ? なんでよ? いや、その体でさらに分離できるってのも謎だがよ。


「各所に分離を置いているので、緊急用に二体は残しているのです」


 まあ、オレの記憶では、もう数十色くらいみている。もはや、ドレミ隊からドレミ団にチェンジアップしているのだから、これ以上はさすがに無理か。


 ……いやまあ、それができている時点で滅茶苦茶なことなんだがな……。


「必要であれば分裂体に要請しますが?」


 どんな要請すんだよ!?


「いや、イイ。自力でなんとかする」


 これ以上、スライムはいらねーよ。つーか、これ以上の珍生命体や非生命体はノーサンキュー。オレは普通の生命体に囲まれたいよ。


 超絶能力を持つクセに、なんの役にも立たねー珍生命体に非生命体に構っている暇はねーとばかりに、一人でがんばる。


 鉢に入った花人を会場や湖面、見栄えするところに配置する。


「どう言う意味があるの?」


「夜になってからのお楽しみだ」


 慰労会は夜。それに合わしているのだよ。


「ベー様。よろしいでしょうか? カイナーズホームの営業の方がお会いしたいそうです」


 営業とかいんのかよ!


 ファンタジーな世界で違和感しか感じねー名称だな。いや、カイナーズホーム自体が違和感の塊だがよ……。


「わかった。連れて来てくれ」


 そう返事すると、スーツを着た赤鬼さんがやって来た。


 ……カイナーズホームは違和感を売りにしてんのか……?


「お初にお目にかかります。わたくし、タザエモンと申します」


 なんつーか、鬼族の名前は特徴的だな。


「おう。おれはベー。よろしくな」


 営業となんて派遣の営業員ぐらいしかしゃべったことねーが、鬼が営業スマイルとか、逆にコエーわ。


「挨拶早々で申し訳ありませんが、打ち上げの打ち合わせをしたいのですが」


「ああ、花火な。さすがにすべてをお任せはできねーか」


 と言うので、打ち上げは湖の反対側で。合図するんでいつでも打ち上げできるようにしててよ。


「いや、完全に丸投げよね! 営業さん、メチャ困ってるよ!」


「ダメだな、プリッつあんは。仕事は専門家に任せたほうが上手く行くんだぜ」


 素人が下手に口出すと失敗どころか事故のもとである。


「……わ、わかりました。では、こちらにすべて権限をいただいたと言うことでよろしいでしょうか?」


「おう。ただ、ケガがないように頼むぜ」


 せっかくの慰労会。ケガ人とか出してケチはつけたくねーからよ。


「はい。安全第一でやらせていただきます」


 おう、頼むよと鬼の営業さんに任せ、会場作りを再開させた。

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