第887話 豊作の洞窟

 デザイン画を持って来ただろうプリッつあんが、オレの頭の上にパイ○ダーオン。


「発進よ!」


 なんだろう。共存体から乗り物扱いされているようや気分でいっぱいなんですが……。


 いや、オレもメルヘンを盾扱いしてるからお互い様か。どっちもどっちな共存体だな、オレら。


「あ、ドレミといろは、ピータとビーダは残れな」


 左右にいる(からいつも気に懸けててね)スライムと、ベストの内ポケットから二匹のトカゲを出してミタさんに預けた。


「マスター」


「ワリーがお前らは館で待機だ。絶対について来るな。これは絶対だ」


「説明をお願いします」


 と、なぜかミタさんが説明を求めて来た。強めな口調で。


「花人の天敵がスライムとトカゲだからだよ」


 他にもいるが、スライムとトカゲが花人にとっての二大天敵なんだよ。


「ぴー!」


「びー!」


 なにやら異議ありとばかりに鳴く二匹。いや、自分らは竜だと主張するのはわかるが、あなたたち、見た目、完全にトカゲですからっ!


「その主張はわかるが、花人と敵対したくねーんだ、我慢してくれ」


 スライムとトカゲ……じゃなくて、護竜を説得して花人が住む場所へと転移した。


「……この洞窟に住んでるの……?」


 訂正。花人が住む場所へと通ずる洞窟の前へと転移した。


「いや、この洞窟を越えた先にあるんだよ」


「転移バッチで行けないなんて地下にあるの?」


 別に転移バッチは、閉鎖された場所に転移できないってことはねー。ただ、その場所を強くイメージしないとダメなだけ。まあ、謎仕様なことには違いはねーけどよ。


「いや、空の下にあるんだが、なぜか空から行けない謎の場所なんだよ」


 ルククで何度も探したが、どうしてだか見つけられず、他のルールからチャレンジしても辿り着けないのだ。スライムやトカゲと言った天敵は侵入できるのに、だ。


「不思議なところね」


 不思議な存在から不思議扱いされる花人族。オレから言わせればどっちも不思議だわって突っ込みてーわ。


 ……まあ、逆突っ込みが来そうなので口にはしねーがな……。


「いくぜ」


「あ、ちょっ、洞窟は安全なんでしょうね!?」


「B級村人なら問題はねー」


 C級以下は絶対に入ったらダメだけどな。


 洞窟に入ると、霧のような靄のようなものが薄くかかっている。


「なに、このもやもやしたもの?」


「体にとってもワリーものだな」


 現実逃避したい人には、イイかも知れんけど。


「……こんな不気味なところに入ろうと思う気持ちもわからなければ、それでも進もうとするベーの考えが意味不明だわ……」


「考えるな、感じろが働いたんだよ。この先に欲しいものがあるってな」


 元々、ここを見つけたのは薬草を探してのことだ。


「花人族の影響なのか特徴なのか、花人族が住む周辺は植物が豊作で多種多様なものが生えてんだよ。通常では考えられないほどにな」


 異常ななにかがあるって考えるのが当然であり、薬師なら求めるのが必然だ。


「なんか凶悪そうな蜂みたいのが飛んでるわよ」


「あの蜂が集める蜜は絶品だぜ」


 まあ、この洞窟でしか見ない蜂なので、そんなに蜜は採れないのが残念だぜ。


「おっ。デカい巣を発見!」


 季節に関係なく巣を作ってくれる蜂で、定期的に採りに来てたが、最近は忙しくて採りに来れなかったからこんなにデカくなったんだろう。


 感謝を込めていただきますと、八割近く採り、結界で絞ってビンに詰め、無限鞄へと放り込んだ。


「いかんいかん。今日はこんなことしている場合じゃねーんだよ。次にしろ、次に!」


 調合は難しいが、熱冷ましに適したキノコに手を伸ばす己に叱咤する。


 まったく、C級村人には死の洞窟だが、B級村人以上には豊作の洞窟なんだから参るぜ。いや、ある意味、誘惑の洞窟か。なかなか先に進めねーんだからよ。


「ベーにかかれば竜の巣でもお宝の穴ね」


「竜の巣は正真正銘、宝の穴だよ。あいつらの体は全てが役に立つからな」


 たまに賢い竜だと、金銀財宝を集めてたりするから笑いが止まらんぜ。


「……なんなの、この自称村人は? 意味わかんないわ……」


 失敬な。洞窟ならなんでも入るわけじゃねー。考えるな、感じろが働いたときしか入らねーわ。


 メルヘンの悪態とお宝を我慢して洞窟内を進むこと数キロ。やっと前方に光が見えて来た。


「いや、途中で戻りなさいよ。なぜ突き進めるのよ!?」


 うっさいなー。なにかを感じたから進んだんだよ。ワリーか。


 ハイハイとおざなりに応えながら洞窟を抜けた。


「相変わらず、謎なところだぜ」


 まるで不思議な国の……なんだっけ? ウーでもなくてサーでもなくて……いや、なんでもイイわ。


 こちらに向けて両肩の砲塔を構える花人に向かって両手を挙げた。


「あら、ベーじゃない。お久しぶり」


 ほっと一安心。この門番、たまに容赦なく撃って来るんだよな。


「おう、久しぶり。花菖蒲さん」

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