第888話 交渉成立

 花菖蒲の両肩にあるの、なに?


 とばかりに、プリッつあんが、目を大きくしてオレに無言で問うて来た。


「茎らしい」


 はぁあ? なに言ってんだ、テメー!


 とばかりに凄んで来ますが、事実、茎なんだよ。まあ、その茎からなにを飛ばしているかはまったくわかんねー。つーか、考えたくもねーわ。


「今回は、どうしたの? また、おもしろい服でも持って来たの?」


「いや、今日はオシャレなメルヘンの紹介と、頼み事があって来た。園長に会えるかい?」


 花園と呼ばれているから、長は園長と呼ばれているんです。


「オシャレなメルヘン?」


 これだよとプリッつあんを差し出した。


「わたしは、プリッシュ。ベーの共存体よ」


 へ~。オレたち共存体なんだ~。もう初めて聞いたくらい新鮮だよ。


 たぶん、オレが知る共存とは違うんだろうが、それも今更。持ちず持たれずなオレたちでイイだろう。


 なんかお互いのインスピレーションが働いたんだろう。会って数秒でオシャレ談義に花を咲かせた。花人だけに~。


 なんてつまんねーことを考えながら、花園へとお邪魔させてもらう。


「しっかし、本当に変わったもんだぜ」


 初めて来たときは、湿地帯な感じで、花人もなんかくすんでいたものだが、今や夢と魔法の王国も真っ青。どこぞのテーマパークより色鮮やかに発展していた。


「入場料取るだけで大金持ちになれるぜ」


 オレの貧弱な語呂では語れねーほど鮮やかで、季節とかいろいろ無視して花を咲かせていた。


「あら、坊や。久しぶりね」


「おう、久しぶり。今日もキレイに咲いてんな、薔薇夫人」


 別に結婚しているわけでもなけりゃ夫人でもねーが、見た目的にそんな感じがしたので、そう呼んだらなぜか気に入ったようで、薔薇夫人と名乗るようになった赤い薔薇の花人さんだ。


 ……夫人って言うよりキャバ嬢だな……。


 ナンバーワンよりオンリーワンを地でいく花人たちに挨拶しながら花園の中心──世界樹の下へと向かう。


 花園の世界樹は、リュケルトのところの世界樹とは違い、こちらは五メートルもない低い樹だ。だが、性能(?)はこちらが上。清浄な空気に満ち、軽い気管支炎なら一時間で完治するほどだ。


 ……結界で溜めて気管支炎の患者で実験しました……。


 ここは空気ですら薬となり、薬師としては喉から手が出るくらい薬の材料が揃っているのだ。


 また脱線しそうな意識を振り払い、世界樹の下で咲くラフレシアみたいな花の前へとやって来た。


 季節どころか地域すら無視したような花だが、遥か太古(オレの勝手な想像ね)からここで咲いている、一種、神のような存在だ。まあ、性格は超軽いけどさ。


「こんちは、園長さん。今日も元気に咲いていてなによりだ」


 なんかもう毒々しいキノコにしか見えねーフォルムだが、花人の間では最高の色合いを見せているらしい。


 ……ちなみに、臭いも毒々しいデス……。


「いらっしゃい。そうでもない。近頃大地の力が弱まって来たせいか、油断していると根が枯れくるんじゃよ」


「歳のせいで栄養の循環がワリーんじゃねーの?」


 神に近い存在とは言え、生命体なのは確か。体の不調くらいあるだろうよ。


「いや、体に問題はない。大地の力が薄くなっておるのじゃ」


「精霊力や魔力と言ったものじゃなくか?」


「精霊も魔力も満ちている。大地の力が薄くなりつつあるのだ」


 精霊力はともかく、確かに魔力は充ち満ちている感じはする。


「……大地、ね……」


 竜脈うんぬんならどうしようもねーが、大地の栄養がねーって言うんならやりようはある。ってか、その起死回生の手を持っている。


「それ、なんとかなると言ったらどうする?」


 花人との交渉は、単刀直入のようで回りくどいが、取引相手としては信頼できる種族でもある。


「なんとかしてもらう」


 それですぐにやってはダメだ。これは交渉であり取引でもあるのだからな。


「水花と白雷花、紅桜、白椿、水仙の何人かを他の土地に移したい。もちろん、土地の豊さはオレが保障する」


 園長に命令権のようなものはないし、決定権もない。ましてや園長が支配者って訳でもない。だが、神に近い存在の言葉には不可思議な力がある。まるで神託かのように園長の言葉に、他の花人は従うのだ。


 ……まあ、例外はある。チャコとかな……。


「そいつらに声をかけてくれるならこれをやろう」


 無限鞄から泥ダンゴのような地竜のフンを取り出し、崩して園長の周りに撒いてやった。


 しばし、なにかを味わうような表情となり、突然、身震いしたかと思ったら、髪なんだか帽子なんだか、頭に咲く花びらが色鮮やかに輝き、殺人的な臭いを噴き出した。


 ……結界を纏ってなけりゃ悶絶死だろうな……。


「なんと言う力に満ちた土なんじゃ!」


 いや、フンですけどね。いやまあ、排泄しない花人には関係ねーか……。


「まだまだある。声をかけてくれるか?」


「よかろう。その者たちに声をかけよう」


 交渉成立。花人ゲットだぜ!

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