第886話 オシャレ族

「ゼルフィング家のメイドは、至急水輝館にいって慰労会の準備をしろ!」


 と、執事さんに叫び、事情はミタさんにサクッとお任せ。その間に自分の部屋へと戻った。


 机の引き出しから浮遊石(小石サイズ)をすべて取り出し、無限鞄へと放り込んだ。


 続いて保存庫へと向かい、アマテラス用にと作った盥サイズの植木鉢を何十個と無限鞄に放り込む。


「そんなものどうするの?」


 頭の上の住人さんが不思議そうに尋ねて来るが、それは後でのお楽しみ。つーか、いたのね、君。すっかり存在を忘れてたわ。あ、今更ですか。あ、うん、そうだね……。


 部屋から出て玄関に戻ると、ミタさんの説明がいき届いたようで、大きな鞄を抱えたメイドさんが十人ほど揃っていた。


「まずは先発隊を送ります」


「館は大丈夫なのか?」


 命じておいてなんだが。


「お館様より許しは得ました。準備が整い次第、全メイドを水輝館に送ります」


 ん? 親父殿は残るってこと、か?


「はい。夫婦で楽しむから好きにしろとのことです」


 まあ、親父殿は初婚。新婚気分を味わいたいのだろう。なら、夫婦水入らずでちちくり合えだ。


「ミタさんは、先にいって指示を頼む」


「ベー様はどうするのですか?」


「花を連れて来る」


 本当なら人魚の歌姫を連れて来てコーラスでもしてもらおうかと考えたが、あそこの湖、豪華客船を浮かべるほどの深さはないし、豪華客船でやるのも違うような気がする。


 前世の力を使うのではなく、今生でのものを使って皆の記憶に残したいのだ。あ、こちらの世界にも花火はありますよ。地味なものだけど。


「あたしもお供します」


「無理。入れるのはオレだけだから」


 あそこは摩訶不思議空間で摩訶不思議な生き物が集う場所。入るには門番に気に入られる必要がある。でないと、酷い目に合わされるのだ。


「危険ではないのですか?」


「チャコの故郷だ、大丈夫だよ」


 まあ、侵略者には危険で、おっかない連中だがな。


「わたしは?」


 いく気満々のプリッつあんが尋ねて来る。


「……たぶん、大丈夫だろう……」


「はっきりしない返事ね」


「あそこに入ったのはオレだけだし、外界と隔離された場所だがらな、同じ妖精種でも歓迎されるかはわかんねーんだよ。ただ、プリッつあんとは話が合うと思うぞ、あそこの連中もオシャレ好き……って言うか、自分を華やかにするのが生き甲斐だからよ」


 ちょっと旨趣が変わったような気がしないでもないが、深く追求するとオレのせいじゃね? って思うからサラリと流しておきましょう、だ。


「オシャレ好きなんだ。チャコもカナコもオシャレじゃないから花人ってあんなかと思ってたわ」


 アレを基準にしたら全花人から抗議が押し寄せるぞ。


「そうだ。なんかオシャレに関したものを持っていけば受け入れられるかもな。下手したら同族扱いされるぜ」


 アレと同族扱いされて嬉しいかはわからんがよ。


「なら、デザイン画でも持っていこうかしら?」


 デザイン画?


「わたしもデザインを考えてるの!」


 あ、うん、それはスゴいデスね。ガンバレー。


「ちょっと持って来るから待っててよ!」


 どこにあるかわからんが、転移バッチでどこかへと転移していった。


 ……ほんと、メルヘンはよーわからんわ……。

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