第865話 自然は大切に

 リュケルトにはワリーが、一旦、掘っ立て小屋を片付けバラさせてもらう。イイか?


「構わんよ。お前が造ってくれるなら雨風に苦労することもないだろうしな」


 ってなことなので、遠慮なく片付けちゃいます。あらよっと。


「な、なにしたの!?」


 一瞬で消えた掘っ立て小屋に、レディ・カレットがびっくらぽん。


「無限鞄に一旦仕舞ったんだよ」


 解体するより無限鞄に入れたら一瞬で退けられる。あとで解体して別利用するんでな。


 まずは、土魔法で土地を均し、土台を築く。基礎はしっかりとしないと傾くからな。


「なんか手慣れてんな」


「何度もやってるからさ」


 もう土木建設業でもやっちゃおうって思うくらい手慣れたものよ!


「木で造るのか?」


「いや、石を組み立てて造る」


 木はサリネの領分。なんだが、最近、家具作りが忙しいとかで、家は作ってないそうだ(ミタさん談)。


「そう言や、この辺に石が採れるところはあるか?」


 肝心なところを忘れてたわ。


「石か? どのくらいの石を使うんだ?」


「贅沢を言えば石の山があると楽だが、なければ岩、いや、小石でも構わんぜ」


「小石なら河原にいけば腐るほどあるぞ」


 河なんてあったんだ。空から見たときは全然気がつかんかったわ。


「まあ、木々で隠れているからな」


 確かに、この秘境の木々は、五十メートル級のがほとんどで、枝葉が密集してたっけ。


 とりあえず、小石を拾いに河原にいってみた。


 河は結構幅があり、対岸まで四十メートルくらいあり、水量も凄いものだった。


「魚とかいんの?」


「ああ。デカいのがいるから気をつけろよ」


 デカいの? とか首を傾げた瞬間、ワニのような口を持つ巨大魚が飛び出して来た。ジュラ紀かよ! いや、イメージだけどさ。


「秘境、コエーな!」


 魔大陸も結構なジュラシック度が高かったが、ここはさらにスゲーな。同じ大陸とは思えねーよ!


「他にもあんな凶悪そうなのがいんのか?」


「ああ。肉食のが多いからおれらは滅多に近づかないな。ただ、コルガムって魚の鱗が鏃に適してるからたまに来るヤツはいるぜ」


 ほ~。鱗が鏃に、ね。


 結界を最大にして河を攫い、引き上げた。お、大漁大漁!


「……お前、滅茶苦茶過ぎるわ……」


「どれが鏃に適した魚だ?」


 四、五類いるが、どれも鱗のある魚でジュラシック度が高かった。つーか、豊富な河だな。生存競争とかどうなってんのよ?


「それだよ。銀色の鱗と赤い鱗があるヤツだ」


 なんかピラニアっぽいものを指差したので、それ以外はリリースした。なんか、食えそうな気がしないんでよ。


「鋭い歯をしてんな。なに食ってんだ?」


「そこまでは知らんよ。お前のように簡単に捕まえられねーんだからよ」


 まっ、そりゃそーだ。


「この鱗を鏃にすんのか? 加工しねーと使えんだろう、これ?」


 鱗は確かに鏃に向いてるかも知れんが、皿のように湾曲している。これではまっすぐ飛ばんだろう?


「曲がる矢用だよ。ただ、真っ直ぐだけでは芸がないからな」


 いや、まっすぐ飛ぶための風切り羽だろうが。意味あんのかよ、それ?


「そこの調整も一流の狩人の技さ。おれにはできんけどよ」


 そんなことできんのエルフくらいなもんだよ。並みの射手には飛ばすこともできんわ。


「せっかく捕まえたのに使えねーな」


 無駄に命を奪っちまったぜ。オレ、痛恨の反省。


「なら、おれにくれ。いや、売ってくれ。欲しがるヤツはいるからよ」


 売ってくれとは商人じゃねーか。よし、安く売ってやるよ。ってか、なにで払うんだ?


「生命の樹の葉でどうだ?」 


「生命の樹? そんなの生えてたのかよっ!?」


 世界樹より知名度は劣るが、薬師界(?)では有名な樹で、回復薬の質を五倍から七倍ほど効能を高めてくれるのだ。小人族の国にはあるらしいが、世に出回るなんてこと、滅多にない。見かけたら即買いが基本だぜ。


「お前が利用法を教えてくれたから探してみた」


 ほんと、こいつの行動力には頭が下がるよ……。


「わかった。それで取引しようぜ」


 薬師として効果が上がるのは一生の命題。貴重なものが手に入るのなら即決だ。


 鱗を残らず剥ぎ、身は河へポイ。オレの代わりに美味しくいただいてちょうだいな。


「収納鞄に入るか?」


「大丈夫だ。劣化しないのは倉庫に移してあるから収納鞄に余裕はあるからよ」


 倉庫まで持ってんのかい。お前、スゲーよ。


 なんて驚きはしたものの、大商人になる片鱗は何度も見たのですぐに納得。リュケルトが鱗を収納鞄に詰めている間に、オレも小石を無限鞄へと詰め込んだ。


「いろは。無駄な殺しはすんなよ」


 いくら襲いかかって来るからって河を沸騰させるような攻撃は止めなさい。自然は大切に、だよ。


 ちなみに、レディ・カレットは、終始、ポカーンでした。

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