第864話 商人リュケルト

 再会を喜んだのち、リュケルトにレディ・カレットを紹介した。


「よろしくね、リュケルトさん」


「ベーの知り合いならリュケルトで構わんよ。レディ・カレット──ってか、レディってなんだ?」


「高貴な女のことだ。地位や名声ではなく、心意気が尊い女を指す」


 テキトーな説明だが、正確な意味など前世の記憶があるヤツしか知らないこと。多少意味を違えても文句は出まいて。


「まあ、なんでもいいよ。ベーの名づけは理解できんからな」


 ハイ、そんな感じで流してください。


「で、そっちのは、自己紹介なしか?」


 左右にいるメイド型ドレミと西洋人形型いろはを見るリュケルト。気になるんなら自己紹介するが?


「いや、いい。お前の付属なんだろうからよ」


 概ねそんな感じだな。付属が多い今日この頃だけど。


 挨拶も終わったので里へと向かうことにした。


 リュケルトが住むエルフの里に来るのはこれで四度目……なんだが、なんか垢抜けた感じがするのは気のせいかな?


 以前来たときは、獣の革や毛皮を纏ったスタイルだったのに、なんかオシャレな布の服を纏い、オシャレな髪飾りなんかしちゃったりしているんですけど。


「アバールの店で土産に買ったら女どもが色気づいてな、せがまれて買いにいくうちに、なんか行商人認定されてしまった」


 いつの間にそんなことになってんだよ。ってか、そんなにちょくちょくうちの村に来てたのかよ!


「最近、お前、村にいないし」


 ハイ、そうでしたね。村人なのに。


「しかし、変われば変わるものだな。少し前まで原始的な生活を送っていた種族とは思えねーな」


 エルフってそんなんだったっけ? 自然と共にとか言ってたのによ。完全に文明開化してんじゃねーか。


「おれもそう思うよ。あの頑なさはどこ行ったんだよって叫んじまったくらいだ」


 開国派的な立場のリュケルトが完全に置いていかれてる感じだぜ。


「なんか納得いかねーもんがあるが、まあ、あるがままを受け入れよう」


 否定しても仕方がねー。この流れを上手く利用しよう。うん。


「人だけじゃなく、村も変わったな」


 以前はツリーハウス的な住まいだったのに、石組みの土台に木で家なんか造っちゃったりしてるよ。ってか、誰が造ったんだよ? 妙に上手いじゃねーか!


「嫁が欲しい男ががんばってんだよ」


 エルフも家を持ってこそ一人前であり、イイ家を持つことが男としての格を示すらしい。なんか、そんな鳥いたな……。


「リュケルトは、家を持ってんのか?」


 前はツリーハウス的な家に住んでたが。


「家って言うか、店だな。行商人認定されて、仕方がなく造ったんだよ。あれだ」


 リュケルトが指差す方向に、掘っ立て小屋的なものがあった。センスねーな。


「しょうがねーだろう。おれは、不器用なんだからよ」


 その分、コミュニケーション能力は高い。あ、なるほど。よくよく考えたらリュケルト、商人向きな性格してんな。今の今まで気がつかんかったわ。


 不器用なりにがんばったようで、造りはしっかりしていて、雨風は余裕で凌げそうだった。


「オレが造ってやるよ。つーか、いっその事、商人になっちまえよ。エルフにも商人がいたほうがイイからよ」


 革命家より商人のほうが、何倍も時代を築いていくものだからな。


「アバールにも言われたが、あんなやり手の商人を相手に立ち回れねーよ」


「大丈夫だよ。あんちゃんは、イイ商売をするのがモットー──じゃなくて、自分も儲けて他人も儲けさせる主義だ。一方的な搾取はせんし、ちゃんと商売を教えてくれるよ」


 今は商人仲間が欲しいとき。多少の苦労はしても面倒は見てくれるさ。


「……なら、やってみるか。今さら狩りで生きられねーしな」


 リュケルトが自分で言ったように、エルフとしてのスペックは他より落ちる。村での地位はかなり下だと言っていた。


「やったれやったれ。リュケルトは商売の才能がある。将来はエルフ初の大商人として歴史に名が残るぜ」


 これは煽っているわけじゃなく、リュケルトなら可能だと思うから言っているのだ。


「お前の才能は、すべて商人になるためにある。誰が認めなくてもオレが認める。お前は、知る人ぞ知る商人になる」


 オレが無理矢理にでもそうさせてやるさ。オレのためにも、な。クックックッ。

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