第830話 主
小部屋に入って来たマダムは、こちらを見てニッコリ笑った。
「お久しぶりね カイ様」
一瞬だけオレに目を合わせたが、すぐに公爵どのに目を向けた。
「ああ。いろいろ楽しいことがあって来られなかったよ。申し訳ない」
「カイ様がここを忘れるくらいなのだから、相当楽しいことがあったのね」
「相当どころか想像を超越した楽しさだったよ」
まあ、魔大陸にいって車でレースするとか想像できたら凶人の域。友達止めるわ。
「ふふ。ここを営む者としてはちょっと癪だけど、カイ様がそんな笑みが見れるのだから貴重な経験をさせてもらったわ」
見た目はアレだが、実に上品な動きをみせるマダムである。
白茶を飲みながら公爵どのとマダムの世間話を聞いていた。
さて、諸君。ここで問題です。
いや、諸君って誰だよって突っ込みが聞こえたが、それはサラリと流します。
これはいったいどんな状況なのでしょうか?
会員となるための面接。ブッブー。外れ。
先ほど公爵どのが言ったよね。商売が上手いヤツから無茶をするバカが多いって。ってことはそんなバカすら受け入れてるのに面接もないだろう。
じゃあ、会員の為人を見るため。ブッブー。それも外れ。
たぶん、ここは紹介がないと会員になれないところだ。だったら紹介人がその為人を教えるはずだ。
でも、ウソを教えるかもよ? 無茶をするバカすら入れるのにウソを言われたからって断る理由にはならんでしょうが。
一般的……と言ってイイかわからんが、特別なところの会員になる選別法はその二つしか思い浮かばん。しかし、ここは特別中の特別なところ。そんなありきたりなことをするとは思えない。
なら、なによ?
オレの答えは選別だ。おっと、石を投げるのはよしとくれ。まずはオレの話を聞いてください。
選別って言っても、なにを選別するかはそれぞれだ。品位を大事にするなら下品な者は省くし、金を持っている者だけを選ぶなら貧乏人は排除するだろう。
そう考え、公爵どのの話を聞いて、目の前にいるマダムを見ると答えはおのずと見てくる。
ちなみに、目の前にいるマダムは人外だ。いや、見た目でそうだと言っているわけじゃないからね。これまで人外に触れてきた経験と考えるな、感じろが、もう人外しかありえねーと叫んでいるのだ。
人外さんが一般人を怖がるわけはないし、帝国の権力にも屈せずやっているとなれば、人外を選別しているってことだ。
たぶんだが、人外の世界にも縄張りとか敵対関係ってものがあるんだろう。前に協定やら縛りがあるとか言ってたからな。
人外が人外を察せられぬなんてことがあるのか? との疑問もあるが、この小部屋を見渡せばあると思うしかねーだろう。
そう言う答えが出ると、さらなる問題が出てくる。
人外を探るなら、探る方も人外であることを隠さねばならない。なぜならば人外を偽るほどの猛者なら選別している者が人外だとわかるからだ。
人外を偽ることもできねーようでは人外としての格は下だ。選別者としては失格だろう。
人外と悟られないようにする人外なんてそういるもんじゃねー。強ければ強いほど隠し切れないからな。この世界の人外、存在力だけは消すに消せねー質だからよ。
目の前のマダムは、人外であることを隠してはいない。それどころか存在力を全開にしている。それはなぜだ?
んなもん、選別者を隠すために決まってる。
小部屋にいる人は、侍従風の男。侍女っぽい女。マダム。公爵どの。ミタさん。そして、オレだ。
この中に選別者はいる。
いや、小部屋の外から選別しているんじゃねーの?
かも知れん。だが、人外を偽るほどの人外なら遠くで見るよりは近くで見た方が選別しやすいだろう。そのために、なんか仕掛けがありそうな小部屋に入れてんだからよ。
と、思わせるほどの人外だな、ここの人外どもは。ここに入ってからそう言うふうに導いているぜ。
さて。さらに問題です。
ここの主は誰でしょうか?
ヒントは選別者ではなく主ってこと。人外であることを隠せるだけの人外ってこと。
君に解けるか、この謎を!
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