第829話 マダム

「……地下か……」


 魔術の光で昼間のように明るいが、重厚な煉瓦の壁や気温から地下であるのは間違いない。


「馬車を駐めるところだ」


 見渡せば確かに高級そうな馬車が駐まっていた。つーか、臭いがそれほどねーな。空調とかどうなってんだ?


「結構、金がかかってそうだな」


「入るだけで五十ラグは取られるからな。ちなみにここは特別会員専用で維持費に一万ラグ取られる」


 誰が来るんだよ、それ?


「いや、来てるか。随分と特別がいるな」


 ちょっとした地下駐車場くらいに広く、馬車も何十台と駐まっているぞ。


「商売が上手いヤツや無茶をするバカは多いからな」


 さすが帝国ってことか。小さい王国に生まれてよかったぜ。


「あ、ここのことは秘密だから収納鞄や無限鞄を使っても問題ない。幾人かはそれっぽいの持ってるからな。ただ、シュンパネや転移バッチは隠しておけ。あれは帝国でも厳しい法があるんでな」


 その割には使ってますよね、あなた。いや、オレもだけどさ。


「お前関連から流れるものは普通の魔術や魔法と違うから感知するのが難しいんだよ」


 まあ、出所が出所だし、理解不能なものばかり。わかれと言う方がどうかしてるわ。


「なるべく大人しくしてろってことで理解しておくよ」


 これでも空気を読むのには長けている。まっ、あえて破るのも長けているがな! とは言わずに黙っておこう。


「そんで、こっからどーすんだ?」


「まずは受付だ」


 と言うので公爵どのの後に続き、絨毯が張られた階段を上り、出たところは豪奢なホールだった。


 どこかで演奏しているのか、落ち着いた音楽が流れてくる。


「室内に噴水とか金かけすぎだろう」


 センスがイイのは認めるが、金を使いすぎだろう。儲けようとしてんのか損をさせようとしてんのかわかんねーなー。


「こっちだ」


 ホールの豪奢さに呆れてると、公爵どのが先に進んだ。待ってー!


 公爵どのの後に続くこと百メートル。やっと受付っぽいところに到着した。つーか、広いわっ!


 なんなの、無駄なほどの広さは? なにをコンセプトにしてんのか四百字原稿用紙三枚に纏めて教えやがれ!


「何人か隠れてましたね」


 後ろで静かにしていたミタさんが小さく呟いた。まったく気がつかんかったわ。


「相当の手練のようですね。気配消しが異常です」


 それをわかるあなたが一番異常だとオレは思うのですが……。


「まあ、それほど脅威って訳じゃねーし、ほっとけ」


 オレの考えるな、感じろが反応しないんだから問題ナッシングだ。


 それに、お客に気がつかれないように警備していると思えば、配慮が行き届いたお客に優しいところだって思えるしな。


「……まあ、ベー様のご友人方がアレですしね……」


 あなたの中ではアレ扱いですか。まあ、アレな連中だけどよ。


「ベー。こっちに来い」


 と、公爵どのに呼ばれて受付カウンターの前へ。チェックイン的なことか?


 なにか書くのかと思いきや、執事風の男がカウンター横の小部屋(もちろん、豪奢です)へと案内した。


 革張りのソファーに座るよう勧められ、遠慮なく腰を下ろすと、右側のついたてから侍女風のおねーさんが現れ、お茶を出してくれた。


 カップの中を覗くと、白い液体が入っていた。


「……白茶か。皇帝でもなかなか飲めないもの出すか」


「お前んちでは当たり前のように村人が飲んでるがな。つーか、お前んちで飲めないもんないんじゃないか?」


「あるよ、いっぱい」


 世界、どんだけ狭いんだよ。飲んだことのねーお茶なんて千単位であるわ。いや、世界に何種類のお茶があるか知らんけどさ。


 せっかく出してくれたので白茶をいただく。味は悪くねーが、うちで飲んだのとなんか違うな? 


「ミタさんわかる?」


 白茶をもう一杯もらい、背後で控えるミタさんに飲んでもらった。


「多分、できた年が違うのと産地が違うのだと思います。あと、加工が異なるのかと」


 まあ、それらが違えば別物──とは言い過ぎだが、レモンティーとアップルティーの違いくらいは出る。雑な説明でごめんなさい。


「コーヒーも売ってたりするのかい?」


 あったら買い占めたいが。


「お前のところと一緒にするな。南の大陸との交流が始まったのは最近だ」


 そうだった。残念。


「茶菓子はプリーナか」


 帝国の伝統的なお菓子で、ピーナツクッキーのようなものだ。


 サクサクして旨いんだが、口の中の水分を取られんのが難点だよな。まあ、だから茶菓子として出されんだけどさ。


 帰りに買ってくか。フェリエ、好きなんだよな、これ。


 サクサクとプリーナを食っていると、小部屋の奥にあったドアがノックされ、どぎつい化粧にどぎつい衣装で身を包み、豊満と言うより肥満に近い肉体を持つ夫人や婦人ってよりはマダムと言った方がしっくりくる女が入って来た。


 それを見て、オレは「だろうな」と納得した。

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