第831話 犯人は玉(たま)

 ──犯人はお前だ!


 なんて言う名探偵もいないし、そんな状況でもない。そもそもオレの脳内で行われているサスペンス劇場だ。


 ……決して茶番劇ではありませんのであしからず……。


 オレの中でシーンは崖の上。主要人物が揃い、クライマックスだ。そろそろ終わらすかと、カップをテーブルに置いた瞬間、レイコさんが目の前に現れた。


「ベー様に危害を加えるなら容赦しませんよ」


 霊体でありながらその気迫は戦士のよう。ってか、黄金色に輝いてるのはスーパー変身ですか?


「……なるほど。その余裕はあなたがいたからなのね」


 妖艶な女の声が小部屋に響き渡る。


「勘違いなさらないでください。ベー様は神だろうが悪魔だろうが恐れたりはしません」


 神のような悪魔のようなオネーサンには、おしっこちびるくらい怖がるけどね。


「な、なんなんだ、いったい!?」


 公爵どのが説明をオレに求めてくるが、聞きたいのはこっちだわ。なにがどうなってんのよ?


 レイコさんが実体化(?)したので視界が遮られて見えないが、公爵どのの驚きからして、ここの主が姿を現したようだ。オレにも見せてー!


 退かすに退かせないので自分で体を動かした。どれどれ。


「……幽霊……?」


 声と同じく妖艶な美女がいたが、レイコさんと同じで半透明。自己主張が激しいタイプとみた。


 ……最近の幽霊は、存在感はねーのに存在力はあるは流行りか……?


「しかし、幽霊っているところにはいるんだな」


 感動も恐怖もしないけどよ。


「……幽霊よりそれで片付けられるお前の方が怖いよ……」


「人畜無害な村人に失礼な」


「人畜無害に謝れ! お前は人畜災害だわ!」


 なに、その酷い言い様は? オレは幸運の村人って有名なんだぞ。いや、頭の上にいるメルヘンが主だけどさ……。


「ふふ。さすがグレンに好かれるだけはあるわね」


 グレン婆と知り合いか?


「腐れ縁よ。あの女には煮え湯を飲まされてばっかりだわ」


 そのセリフからして、グレン婆よりは若そうだな。居候さんと同じくらいか?


 まあ、それ以上は怖いのでサラリとスルーするけどさ。


「オレのことを知ってんのかい?」


 グレン婆と交流があるようには思えねーが。つーか、そろそろレイコさん退いてよ。話辛いわ。


 お願いするも退けてくれないので顔だけ出して妖艶な美女幽霊さんと話を続けた。


「そんなには知らないわ。あそこには入れないからね」


 まあ、平和に暮らしたいってタイプには見えんしな。


「今さらだが、オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。ボブラ村の村人だ」


「家名を持っている村人なんていねーよ」


 うっさいな~。S級村人になると持てんだよ。


「ふふ。わたしは、このレヴィウブの主で、玉たまと呼ばれているわ」


 玉? それ、女の名前としてどうなのよ? まあ、人の……いや、幽霊の名前なんてそれぞれだけどさ。


「じゃあ、お玉さんか」


 見た目的には合ってないが、玉と呼ぶのもオレの中で憚れる。敬意を込めてお玉さんでイイだろう。


 ブヒッと吹き出すと、お玉さんが腹を抱えて笑い出した。


「幽霊は不思議だな」


「おれはそう言えるお前が不思議でたまらんよ」


 この状況で突っ込んでこれるあなたも不思議な生き物ですからね。


「……こ、こんなに笑ったのは久しぶりだわ。ええ。そう呼んでくれて構わないわ。お、お玉さんって、ふふ。あはは。あー可笑しいったらありゃしないわね」


 どこがツボか知らんが、本人が許してくれて喜んでくれるならなによりだよ。


「……玉……」


 お玉さんの行動に戸惑いを見せるマダムたち。よほどのことらしいな。


「ごめんなさいね。本当なら出て来る気はなかったんだけど、先に言われたら負けた気がしてね」


 さすが長年生きてる──いや、存在しているだけあって小僧の思考なんてお見通しか。先読み合戦は避けるべき相手だな。


「玉が認める相手ですか?」


 マダムがこちらを見る。なんか睨むように。


「いいえ。敵にしてはダメな相手よ。あなたに悟らせないように、わたしの存在を見抜き、危うく先手をとられるところだったわ。しかも、心が読めないんだから滅茶苦茶よ」


 人外ってすぐ人の心を覗くからな、プライバシーのために結界を纏わせてんだよ。魔眼対策込みでな。


「そこまでの相手ですか。なら──」


「言ったでしょう。敵にしてはダメな相手だって」


 それはこっちのセリフだわ。ご隠居さんを悪質にしたタイプだぜ、この美女幽霊は。


「わたしには、そう見えませんが」


「本人が言ったように、ベー単体では人畜無害でしょうね。でも、その周りはバイブラスト公爵が言った人畜災害だわ。なんなのこれ? 神の加護が霞むほどの守護に囲まれてるじゃない。こんなの相手なんてしたくないわよ」


 まあ、エリナやカイナ辺りがなんかしたんだろう。オレの行動を阻害しなけりゃなんでもイイがよ。


「オレもお玉さんを相手にはしたくねーな。スゲー厄介そうだし」


「ふふ。あなたにそう言われると、なぜか誇らしいわね」


 別に褒めてるわけじゃねーけどな。


「そんで、オレは合格かい?」


 なんの試験かは知らんけどよ。


「合格もなにもあなたを閉ざす門はないわ。レヴィウブはあなたをいつでも歓迎するわ。好きなときにいらっしゃい」


 それはなにより。ご贔屓にさせてもらうよ。


「まっ、仲良くしようや」


「ええ。あなたとは仲良くしていきたいわ」


 皆仲良く。平和が一番だ。

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