第804話 道造り
「……順調ですね……」
「そうだな」
背後の呟きに、こちらも呟くように答えた。
スタート直後は燃えに燃えていた。もちろん、オレら以外の参加者は、だ。
エンジンを高らかに鳴らし、誰もがフラッグが下ろされるのを今か今かと待ち、フラッグが下ろされると同時に弾丸スタートで飛び出した。
熱いね~と、他の参加者より十五度はがり低めのオレは、三拍くらい遅れてゼロワン改+キャンピングカーを発進させた。
元先生のうち……と言ってイイかは謎だが、まあ、壁の中はそれなりに平坦で、車を走らせてもパンクはしないくらいには走りやすいだろう。
だが、壁の向こうは荒野だ。大地は起伏に富み、大小様々な岩石が転がっている。車で走るにはちっとばかり厳しいと見ていた。
出てすぐに挫折かな~と読み、結界で車体を強化してやろうと思っていたのだが、公爵どのは断ってきた。なにかあるんだろうと流れに身を任せていた。
「いつの間に道なんて造ったんだ、カイナの野郎は?」
まあ、道は道でも悪路レベルの道で、それほど平らでもなければ真っ直ぐでもなかった。
岩を避けるためにS字カーブにしたり、凹凸を回避するために大きくカーブしたものが山脈に向けて続いている。
「ドレミ。ヴィアンサプレシア号は見えるか?」
スタート直後は上にいるのは見えたが、今は運転に集中してるのでわからんのだ。カーブ多すぎ!
「はい。辛うじて見えます。約一キロ先の上空を飛んでいます」
つーことは、その下辺りに公爵どのたち先頭集団がいるって事どろうよ。まったく、速いね~。
「しかし、門から出て三十分。変わり映えのしねー光景だな」
大地は茶色く、空はどんより。ドライブ日和にはほど遠いぜ。
「もう何百年も前からこんな光景です。千年前は、緑が生い茂っていたそうですが」
環境の問題か、それとも気候の変動か、はたまた人為的なせいか、オレには想像もつかんな。
「生き物もいねーな」
竜とかはいんのによ。
「今は昼ですから。夜になればワームやサソリ、カルバなど、夜行性の魔物が出て来ますよ」
「魔大陸はおっかねーな」
食えるなら資源になるが、ワームとかサソリとか食う気にはなれんよ。まあ、他に食うのがなけりゃ食うけどさ~。
「でも、魔石は採れますよ。サソリは小さい割には質はいいですよ」
ほ~。サソリから魔石ですか。それは夜が楽しみですね。
「狩る気満々ですね。毒、えげつないですよ」
ほーほー。毒も採れますか。なかなか優秀な資源ですな。甲殻とかも有効に使えそうだ。
「まっ、機会があれば、だがな」
今は道を造るのが優先だ。
カイナが道を造ったとは言え、こんなカーブの連続では誰も通らねーよ。視界だってワリーのによ。
「マスター。前方に大岩があります」
上空にいる分離体からの報告に本体が答える。
「あいよ」
ゼロワン改の前にはドリル型の結界を創り、まっすぐ進むオレの邪魔をするものを粉砕しているのだ。
ちなみに土魔法で道をならしているため、よそ見できんのです。結構集中力がいるんだよ。
小さい岩を粉砕していくと、視界を塞ぐくらいの大岩が現れた。
「ドリル変形! 回転速度、ア~ップ!」
ドリルにイボが生まれ、回転数が毎分二千回に上がる。いや、回転数はテキトーですけどね。
ゼロワン改の速度は約六十キロ。もう激突と言っても過言じゃねーが、我が結界に壊せぬ岩ない。くたばれや~!
と、大岩を粉砕。土魔法で破片を砂へと変えた。
「ヌハハハ! 何人たりとも我を塞ぐことはできん!」
「塞いでたの岩ですけどね」
もー! プリッつあん見たいなこと言わないの。あ、そう言や、プリッつあんどうしたっけ?
「ちょっと見て来ますね」
と、後部座席に座っていたレイコさんが座席にのみ込まれていった。あ、幽霊でしたね。そりゃ物体をすり抜けるか。
……いまいち幽霊のスペックがわからんな……。
「瓶の中で寝てました」
「あ、うん、そう。そのままにしておこう」
寝る子は寝かせておけ。起きてきても役には立たねーんだからよ。
立ちはだかる岩を次々と粉砕し、道をならしていくこと三時間。小腹が空いてきた。
……やはり、土魔法も三時間使いっぱなしだと魔力や体力が消費するんだな……。
「ドレミ。昼食にするから手頃な場所はあるか? 広場にできそうなところがイイんだがよ」
「はい。でしたら、約三キロ先に手頃な広さがあります」
「んじゃ、そこで昼食にするか」
もう少しだと運転に、結界に、土魔法にと意識を集中させた。
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