第803話 スタート

「ここは?」


「魔大陸だよ」


「……説明は?」


「副長さん、よろしく~」


 大老どのへの説明を副長さんに任せた。


 え? なにがどうなってんだって? メンドクセーな。カイナーズホームで魔石買って、停泊中のヴィアンサプレシア号を小さくして、魔大陸に持って来て、元に戻して、副長さんを連れて乗船。で、副長さんに丸投げした訳。わかった?


 まあ、わかんなくても知らん。あとちょっとでスタートなんだ、ゆっくりしてらんねーんだよ。


 キャンピングカーへと戻り、無限鞄からゼロワン改を取り出した。


 改? いつの間に? との疑問に答えよう。昨日の夜にやったんです。


 え、納得いかないって? 知らんがな。オレは人の見えないところで動くのが好きなんだよ。納得できないんならスルーしろ。鍛えたらスルー神のご加護を得るからよ。


「ミタさん。ゼロワン改とキャンピングカーを繋ぐぞ」


 キャンピングカーの中にいるミタさんに声をかけた。つーか、なにしてんの?


「あ、はい! ちょっと待ってください!」


 中からそんなことを言ってきた。掃除でもしてんのか?


 しばらく待つと、レーシングスーツに着替えたミタさんが出て来た。どーゆーこと?


「わたしも参加します」


 なんで?


「賞金が一億なんです!」


 賞金? 一億? え? このレース、マジでやるものだったの? 


 完全にお遊び感覚なんですが、オレ……。


「ミタさん、金に執着ある性格だったっけ? ってか、必要なら渡してる金から使えばイイじゃん。そのために渡してんだからさ」


 サプルのように何千億とか使われたらさすがに困るが、十億二十億なら使ってイイよ。それだけのことしてもらってんだしよ。


「そう言う訳には行きません。公私混同はメイドとして忌むべきものです!」


 別に公私混同でも構わんよ。公私混同でいろいろやってもらってんだし、もうミタさんは家族なんだからさ。


「まあ、ミタさんがそう言うなら構わねーけど、一億円なんてどうすんの?」


 金なんて必要な生活してるようには見えんけど。つーか、オレ、あなたに給金なんてやってないよね?


「村の再興に使いたいんです」


「村? って、ダークエルフのか?」


 それともジオフロントに村を造るってことかい?


「はい。元の場所に再興したいんです」


「やると言うなら止めはしねーが、戻りたいのかい、魔大陸に?」


 ミタさんがそう決めたらオレは応援でも支援でもいくらでもするが、メイド業はイイのかい? なんか最近、メイド業に目覚めたような感じだったが……。


「はい。長年あそこで暮らしていた長老や老人は戻りたがっているんです。あたしも故郷がなくなるのは偲びないので、せめて再興する資金をと思いまして」


 なんだ。ミタさんが、じゃなくて老人たちのことかよ。紛らわしいな。


「そのくらいならオレが出しても構わねーぜ。魔大陸に発展したところが生まれるのは大歓迎だからな」


 万が一、ヤオヨロズ国が失敗したとき、国民を受け入れてくれる先があるのは助かる。ダークエルフが先陣を切ってくれるならいくらでも出すぜ。


「いえ、なんでもかんでもベー様に力を借りてたら種族としてダメになります。自分たちの力で再興してこそ、ダークエルフはその先にいけると思うんです」


 ほぉ~。なかなか立派なこと考えてるじゃねーか。ミタさんって、結構指導者とかに向いてんのかもな。


「そっか。まあ、ガンバレや。で、なにで出場すんの?」


 万能メイドに不得手はないだろうが、参加者を見ると結構強者が揃っている。公爵どのも強敵だろう。


 オレ? アハハ。凡人になにを期待してんだよ。天才どもに勝てるなんて夢見てんじゃねーよ。


 ……これが馬での競争なら負けねーんだがな……。


「あたしは、これで出ます」


 と、オフロードバイクを出した。


 あまりバイクには詳しくねーが、ちょっと華奢じゃね? これで悪路とか走れんの?


「スピードより状況把握が大切ですし、途中には山や谷がありますから軽い方が小回りが利きます。飛ばせるところでは換えますから大丈夫です」


 まあ、ミタさんがそう言うならそうなんだろう。結界車を使うオレには参考にならんしな。


「んじゃ、優勝目指してガンバレや。オレはオレのペースで走るからよ」


「すみません。我が儘言って……」


「こんなの我が儘にもなんねーよ。ミタさんが好きなようにやれ。オレの専属メイドならな」


 好き勝手できねーようではオレの好き勝手にはついて来れねーからよ。


「はい! ありがとうございます!」


 パン! パン! パン!


 と、銃声が轟いた。野蛮な合図だな。


「スタート十分前! 参加者はスタートラインについてください!」


 カイナじゃない誰かが拡声器を使って指示を飛ばした。


 まあ、あれも参加すんだろうと軽く流し、ゼロワン改とキャンピングカーを繋ぎ、指示された場所へと移動する。


「ってか、オレのナビゲーターはドレミか」


 人型にはなっているが、レーシングスーツに身を包んだドレミが座っていた。いつの間に変わったのよ? 気がつかんかったわ。


「はい。ナビはお任せください。上空に白と黒を飛ばしておりますので」


 窓を開けて空を見たら、メルヘン機が二機、飛んでいた。なんか反則と思うのは気のせいか?


「ま、まあ、気楽にいこうぜ」


 優勝は二の次三の次。目的は道を造ることなんだからよ。


「スタート十秒前! 九、八、七、六、五、四、三、二、一、ゴー!」


 櫓に立つ、水着姿の鬼のねーちゃんが、フラグを切り、プ、プラなんとかレースが開始された。


 さて。どんなレースになりますかね?

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