第805話 豊富な大地

「ん?」


 昼食の準備をしてると、頭になにか当たった感じがして、反射的に上を見た。


「……雨、か……」


 ぽつらぽつらと雨粒が落ちてくる。


「魔大陸にも雨が降るんだな」


 イメージ的にも見た目的にも雨なんて降らないと思ってたよ。


「滅多には降りませんし、よく降って小雨程度です。この感じでは霧雨くらいでしょうかね」


 そうなんだ。それでは草木が生えねーか。


「ちょっとでも植物が自生したら、まだ救いはあるんだがな」


 見渡す限り、ペンペン草も生えてねーよ。


「いえ、植物は生えてますよ。あそこ、見えますか?」


 レイコさんが遠くを指差した。


 目をすぼめて見るが、よくわからん。結界双眼鏡を創り出して再度見る。


「もうちょっと下です」


 オレが見ている場所がわかるのか、そう指示を出すレイコさん。今さらながら幽霊はどう言う機能のもとに見てんだろうね?


 まあ、幽霊の神秘はともかく、下ですね。


「はい、そこです。周りの岩に擬態しているのでわかり難いですが、短い棘がたくさん出てるものがあるの、わかります?」


 短い棘がたくさんね……。


「──あーハイハイ! わかったわかった。これな! 確かに岩に擬態してるわ」


 日頃から薬草摘みや山歩きしてなけりゃ見抜けねーぜ、これはよ。


 遠くてサイズはわからんが、オレの考えるな、感じろからして拳大のものだな。


「サボテンの一種かな?」


「ご主人様は、ホファと呼んでます。プルム系の流れを組んでいるらしいですよ」


「先生がそう呼んでいるのなら、なんか薬の材料になるのか?」


「薬と言うか、虫除けですかね? ホファの液体を大地に撒くとワームが寄って来ませんから」


 魔大陸のワームがどれほどのものかはわからんが、オレらが住む大陸のワーム(子どもの腕くらいで一メートルほどある)にも効くかな? ワームって、なかなか退治し辛いんだよな。


「ホファって、結構生ってるものなのかい?」


「はい。キュシュンジャーの主食で、家畜の飼料となるものですから」


 竜人さんたち、あれを食ってんだ。ん? 家畜って?


「ベー様にわかりやすく言うと、亀ですかね? 海にいるのとはちょっと違いますけど」


 陸亀か? まあ、ファンタジーの生き物。そのちょっと違いは、まったく違うになるんだろうよ。


「じゃあ、竜人さんらが飲んでる酒は、その亀から作るのかい?」


「はい。と言っても亀の乳から、ですけど」


 亀の乳? 魔大陸の亀は哺乳類なのか? どんな進化を経てきたんだよ。


「そんじゃ、採らないほうがイイな」


「そうですね。この辺まで採りに来ますから」


 自分で採るより採ってもらい、物物交換したほうが楽だし、今回は試し用にいくつか採るだけにしよう。


「気をつけてください。サソリがいますから」


 大丈夫。レーシングスーツには結界を施してある。竜に噛まれたって安心だぜ。


 まあ、油断大敵なので用心のために朧を出してホファへと向かって歩き出した。


 警戒しながら進んでいると、どこからかカサカサと、なにかが掠るような音が耳に届いた。


「……サソリかい?」


「ですね。サソリは肉食で、キュシュンジャーの肉を好みますから」


 あの竜人さんを食うのかい? どんだけ強いんだよ?


「魔大陸のサソリは群れで獲物を狩るのかい?」


 前世のサソリは単独行動だが。まあ、サソリにそれほど詳しくはなかったけどさ。


「いえ、単独で獲物を狩ります。縄張り意識が高いですから」


 群れじゃないのならそれほど脅威ではねーな。まあ、オレの結界と土魔法の前では群れでも脅威じゃねーけどよ。


 朧を構え、辺りを見回す。


「狙ってますね」


 もちろん、レイコさんではなく、オレを、だ。


 ……まあ、幽霊を食べる生き物がいたら見てみたいけどよ……。


 カサカサと言う音が高くなり、右手から真っ黒の巨大……でもねーサソリが現れた。


「微妙なサイズだな」


 前世のサソリと比べたらアホらしいほどデカいが、ファンタジーな世界だと、一メートルサイズは微妙であった。


「集団ならまだしも、一匹なら脅威ではねーだろう?」


 試しに朧をサソリに向けて引き金を引いた。


 パン! キュン! と、発射音と同時くらいにサソリに直撃した弾丸が弾かれた。


「硬いな」


 もう鉄だよ、サソリの甲殻は。


「確かにナマクラではサソリの甲殻には通じねーな」


 下手な竜の鱗より硬いんじゃね?


「はい。しかも口から毒を吐き、尾は変幻自在に動きますから」


 レイコさんがそう言うと、サソリの口から霧状の毒が吐かれた。


 ……そう言うことは早く言ってよ……。


 まあ、結界で頭を覆っているので問題はないけどね。


 毒が効かないと理解したのか、それがサソリの狩りの行動かは知らんが、ゴムのような尾が左側から襲って来た。


 だが、レーシングスーツに施した結界に弾かれる。


「捕縛」


 で、終~了~。サクッと脳天に結界刀を突き刺してご臨終させ、無限鞄に仕舞った。


「他にはいそうかい?」


「たぶん、いないと思いますよ。結構、縄張りが広いですから」


 なら、ホファを採りにいきますか。


 ホファの元に辿り着き、じっくりと観察。頭に叩き込んだところでホファに触れる。


「見た目と違って、柔らかいんだな」


 なんかブヨブヨしてる。


「ホファは水を溜め込む植物ですから。まあ、飲めはしませんけど」


 例え飲めてもワームを近寄らせないものは飲みたくねーな。気分的に嫌だわ。


 潰すのが怖いので結界で包み込み、採取した。


「コレ一つだと、三百ミリリットルもなさそうだな。五、六個ほど採るか」


 そのくらいなら竜人さんも怒らんだろう。


 辺りに目を向け、近くに生るホファを五個採取し、ゼロワン改+キャンピングカーへと戻った。


「イイ始まりだ」


 なにもないと思っていた魔大陸が結構豊富なことにホクホクし、まだ見ぬお宝に心を踊らせた。

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