第798話 自由気ままな二人

 ハルさんに、魔道具の要望を何十と出していると、視界に入っていた猫型ドレミが人型へとトランスフォームした。


 どうした? と思いながら話を続けていたら、ドレミがスマッグを差し出して来た。


「公爵様からです」


 公爵どの? がなんで?


 よくわからんが、スマッグを受け取る。もしもし?


「お前どこにいんだよ! どこにもいくなって言ってただろうが!」


 なにやらご立腹な公爵どの。なにを怒って……あ、もう三日過ぎて……たっけ? 暴虐さんとの対面からすっかり忘れてたわ。メンゴ☆


「カイナーズホームにいるよ。ちなみに、オレは守れない約束でもする主義だ」


 予定は未定と同じ理論だな。


「知ってるよ、クソが!」


 罵声とともに通話が切れてしまった。なんだよもー。


「まあ、イイや。ハルさん。暖房の魔道具も欲しいな。外でも使えるように一定空間のみ暖めることができるヤツをさ」


 公爵どののことは頭から放り投げ、ハルさんとの話を続けた。


「ここにいやがったか! 捜したわ!」


 思う限りの要望をハルさんに託し、ちょっと疲れたのでフードコートでプリンアラモードをいただいていると、なにか息を切らす公爵どのが現れた。どったの?


「……ほんと、お前は自由気ままに生きてるよな……」


 あなたも結構自由気ままに生きてるじゃん。公爵ってそんなに暇なの?


 崩れ落ちてる公爵どのに構わず、残りのプリンアラモードを食した。あ、ミタさん。ブラックコーヒーお願いします。


 ここのブラックコーヒー、結構イケるんだぜ。あーうめ~。


「で、落ち着いた?」


 自分の中で折り合いがついたのか、向かいの席に座る公爵どの。ミタさん。公爵どのにもブラックを。


「旨いな、これ」


 やはり味の違いがわかる公爵どの。もう一杯いきねー。


「そんで、車の置き場はできたのかい?」


 約束は忘れてたが、約束したことは忘れてないよ。


「ああ。場所は確保できた。すぐいけるか?」


「ん~~いや、まだだな」


 なんか今はいけない気がする。


 自分でも不思議なのだが、たまにいく気になれないときがあり、それでも無理矢理いくと、決まってよくないことが起こるのだ。


「……たまにお前って、未来が見えるんじゃないかと思うときがあるよ……」


 オレもそうなんじゃねーかなと思うときがあるよ。タイミングがよすぎるからな。


「まあ、いいさ。お前が動くときが最良のときだからな」


 理解のある友達で助かるよ。


「でも、動けないのか? 車を走らせたいんだがな」


「走らせるくらいなら大丈夫だろう。オレは動く気はないが、公爵どのは動いてもイイんだからよ」


 オレが動きたくないんであって、公爵どの動きまではわからんよ。これは、自分に働くものなんだからよ。


「そうだな。なら、魔大陸にでもいってみるか? ラリー車なら走らせられんだろう」


 魔大陸にいく分には別に気にならねー。あくまでも公爵どののところに行く気になれんだけだし。


「……魔大陸って、魔族がいるところだよな……?」


 今はこの大陸にもいるけどね。


「まあ、間違ってはいない。今、とあるところで竜人さんたちと物々交換してんだけど、ラリーするにはおもしろいところだと思うぜ」


 まあ、ラリーをする人には、だけどよ。


「つーか、ラリーってなんだ?」


「そう面と向かって説明を求められると、答えに詰まるが、まあ、車競技の一種、かな? ある場所からある場所へと時間や速さを競ったりするものだ」


 多分、そんな感じのものだったような気がする? 運転するのは好きだったが、レースとかラリーとか見るほど大好きってわけじゃなかったからな。詳しくは知らん。


「ほぉう。それはおもしろそうだな」


 冒険公爵の血に火がついたようだ。


「ミタさん。あの場所からシーカイナーズの港までの道はわかるかい?」


 サプルが戦闘機に乗ってやってこれたんだから何千キロも離れてはいねーだろう。まあ、戦闘機がどれだけ飛べるか知らんけど。


「道はありませんけど、多分、五百キロは離れてはいないかと思いますよ。スカイチームの行動範囲は五百キロ内なので」


 相変わらずカイナーズに詳しいメイドだよ。


「そのスカイチームとやらに飛行機を出してもらえるかな? シーカイナーズまでの目印って言うか、ナビを頼みてーんだがよ」


 さすがになんの情報もなく走るのは不可能だろう。ってか、あの地では自殺行為だわ。


「少々時間をいただければカイナーズ本部で聞いて来ますが?」


 本部なんてあったんだ。まあ、なにをするとか想像できんけどさ。


「ワリーがちょっと聞いて来てくれや。あの場所からシーカイナーズまで公爵どのと競争したいからよ」


 すぐ動けない詫びと、久しぶりにドライブしたくなったんでな。


「わかりました。聞いて参ります」


「あ、コンシェルジュさんも呼んでくれ。ラリー車を選びたいからよ」


 オレは結界車を使うけど、公爵どのはラリー車を選ぶだろう。タイヤから伝わる振動やハンドル操作が好きそうだしな。


「なら、先に車売り場にいってるぜ!」


 そう言うと、車売り場へとダッシュしていった。あなたの方が自由気ままに生きてんじゃんよ。


 ブラックをお代わりしてからオレも車売り場へと向かった。

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