第797話 魔道具職人

「……なんつーか、魔道具ってより呪われた道具って感じだな……」


 展示された魔道具を一通り見て回ってからの感想だ。


 まあ、全てが全てそうではないが、欲しいと思うのはほんの僅か。他は、敵を殺す目的で作られたようなものばかりであった。


「つけた者の魔力を封じる指輪は、まあ、罪人や規制には使ってもイイとは思うが、外したら爆発するとか、えげつないにもほどがあんだろう」


 だったら一思いに殺してやれよ。苦しめるの前提じゃねーか。


 傀儡の針とか毒を精製する壺とか、欲しくもねーし、触りたくもねーよ。つーか、廃棄しろや。


「そうできればいいのですが、魔力の込め方が尋常ではないので封印もままならないのです」


 だったら売るなよ! どっかに仕舞っておけよ!


「ベーの鞄に入れて置いたら?」


 嫌だよ! ただでさえ先生から面倒なもん持たされてんだからよ。ってか、あなたも無限鞄を持ってるじゃん。しかも、伝説の魔王が創ったものって話じゃん。仕舞うならあなたの鞄じゃん。


「嫌よ! 気持ち悪い!」


 いや、あなた、それをオレの鞄に入れろと言いましたよね? ここにある魔道具よりえげつないよ!


「ご購入しますか? お安くしますよ」


 オレとプリッつあんの会話を聞いて購入する意思が生まれると思ってんなら、あなたも結構えげつない性格してますからねっ!


 怒りマックス。暴れたろか? と思ったが、ふと疑問と言うか、思いつきみたいなものが待ったをかけた。


「どうかなさいましたか?」


 ちょっと待ってね、コンシェルジュさん。今、頭を整理するからさ。


 ………………。


 …………。


 ……。


 よし、纏まった。


「コンシェルジュさん。魔道具、幾つか買うよ」


「ベー様?」


「どうしたの、いったい? なにかに呪われた?」


 あなたにね、とは言わないでおこう。呪いより酷いなにかを食らいそうだから……。


「ちょっと試したいことがあんだよ」


 呪われた道具、オレの結界で解除できんじゃね? と思ってしまったのだ。


 百五十万円の毒の香りを放つと言うイヤリングを買い、結界で包み込む。


 考えるな、感じろでイヤリングに込められる呪いだか魔力を感じ取る。


 ……魔力と意思が溶けたような、混合した摩訶不思議なものがあるな……。


 こちらに流れて来るのを排除しながらそれを感じ、結界に触れると細かく分裂するようにイメージしながら結界を縮小。そして、無に還した。


「レイコさん、わかるか?」


 感じたそれに似ているレイコさんに尋ねてみた。


「……そ、そんな、完全に消えてるですって……!?」


 驚愕するレイコさん。ってことは成功ってことか。オレの結界、超優秀。


 何個かやると、コツをつかみ、二十個もやったら一瞬で解除できるようになった。


「呪術師にレアチェンジしたかな?」


「と言うか、呪解師にレアチェンジしたのでは?」


 レアチェンジを知るあなたは何者よ? 謎の多い幽霊だよ、レイコさんって……。


「まっ、だからなんだって話だけどな」


 ただたんに思いついたことを試したかっただけ。話が逸れただけだ。


 解除した魔道具を無限鞄に放り込み、辛うじて役に立つだろう魔道具も購入した。


「そんなもの買ってどうするの?」


 以前、真珠の指輪を作ったときに指輪入れに指輪型の魔道具を詰めていると、プリッつあんが頭の上から下りて来て、指輪入れの中を覗いていた。


「観賞用さ」


 先生に錬金の指輪や魔力の指輪をもらってから指輪集めにちょっと嵌まってしまったのだ。まあ、自分で作ったものを入れてるだけだけどな。


「変な趣味」


 イイの。趣味は人それぞれ。口を出さないのが礼儀だよ。


「魔術攻撃系の指輪ですか。確か、三百年前に流行りましたっけ」


 突っ込みはしないよ。だって幽霊だもん!


「魔術攻撃の指輪があるんなら魔術防御の指輪も欲しいな。メイドさんたちに持たせたいしよ」


 うちのメイドさん、銃を標準装備してるから防御盾があった方がイイんじゃねーかなと思うのだ。指輪なら邪魔にもならんだろうし。


 ……ってか、こーゆー指輪って防水仕様になってんのかな……?


「それはいいですね。護衛メイドに持たせたいです」


 うち、そんなメイドまでいたの!? つーか、誰を護衛すんだよ? うちの家族、殺そうと思ったら軍団で来ないと無理だと思うよ……。


 一番弱いオカンには、オレがこれでもかってくらい結界を施しているしな。


「コンシェルジュさん。カイナーズホームに魔道具職人っていねーの? いたらいろいろ作って欲しいんだがよ」


 今後のことを考えたら魔道具は必要になってくるし、魔道具の技術も高めておきたい。これ以上、電化製品に浸食されたくねーしよ。


 ……電化製品に囲まれてのスローライフとかオレの趣味さじゃねーし……。


「魔道具、買ってもらえるんですか!」


 なにやらコンシェルジュさんがマジな顔で迫って来た。な、なによ、いったい?


「あ、ああ。日々の暮らしに必要なものとか、便利な魔道具なら幾らでも買うよ」


 これから拠点が増えるし、これから造る飛空船にも設置したいしな。


「もしかして、フじゃなくて、アじゃなくて──」


「ハルさんですよ」


「あ、うんうん。ハルさんハルさん。ハルさんが魔道具職人なのか?」


 その喜び様からしてそうとしか思い様がねーよ。


「はい! 魔道具職人です。でも、仕事がなくてコンシェルジュしてました」


 いろいろ大変だったことは想像できるが、職人が営業に転職するとか、思いっ切りがイイね、あなたは……。


「でも、コンシェルジュさんに依頼出しても大丈夫なのかい?」


 魔道具職人だったとは言え、領分が違うだろうに。


「大丈夫です。すぐに配置転換の要望書を出しますから!」


 あ、うん、そっ。まあ、カイナーズのことはカイナーズの領分。オレが口出すことじゃねーしな。


「じゃあ、こう言うのを作って欲しいんだわ」


 と、目を輝かすハルさんに、魔道具の要望を出した。

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