第764話 裏切り
で、次の朝。なにか圧迫されてそうな感じがして目覚めた。
……知ってるかもしれないパンツだ……。
確信はないが、前にこの大人パンツを見たような気がする。つーか、もっとおしとやかなのを穿きなさいよ。あなた、見た目は十六、七歳なんだから。しかも、それが似合うセクシーな体型でもないでしょうに……。
「やっとお目覚めのようね」
はい。昨日はグッスリ眠らせていただきました。お陰で気分爽快。あと六十年は生きられるぜ。
共存体どのがなにやらお怒りのようだが、今のオレには新緑の風に吹かれて心はとっても穏やか。百烈拳を食らってもまったく揺らぎがねーぜ。
じゃれるプリッつあんを軽くあしらいながら着替え、洗面所でスッキリサッパリ身だしなみ。今日のオシャレワンポイントとして左胸につけている転移バッチを右胸につけてみよう。
「意味あるの?」
「全然ない」
ちょっとした気分転換だ。あと、つけてないようなときもあるからご指摘不要でっせ。
なにか不機嫌なご様子なメルヘンさんを頭に乗せ部屋を出ると、ミタさんとフミさんがいた。なんか久しぶりだね、フミさん。って名前だよね?
「おはよーさん。どうしたんだい?」
「おはようございます。飛空船の事を尋ねたいそうです」
飛空船?
「次の飛空船建造はどうなっていますか?」
なにか責める口調のフミさん。オレ、なんかした?
「ヴィアンサプレシア号の次に飛空船を造ると言う話でしたが?」
お、覚えてたのね。なかなか記憶力がよろしいようで……。
「あ、ああ、あれね。そう言や、まだ
背後のドアを悟られないように閉めようとしたら、頭の上の住人さんがニヤ~と笑いながら下りて来た。
……な、なんですのん?
「フミさん、船なら中あるわよ~」
すぐにメルヘンの口を塞ごうとするが、ヒラリとオレの手から逃れ、フミさんの頭に仁王立ち。
「皆の者、獲物は中じゃ。かかれ~!」
と、どこにいたのかフミさんの部下たちがわらわらと現れ、オレの部屋へと押し込んでいった。
え? あ、え? ええぇぇぇぇっ!
両腕両足をフミさんの部下につかまれているため、動くことができず、ただ、狼狽えるだけ。いや、振り払おうと思えば振り払えるが、それをしたらオレの立場はわるくなる。
いや、もうなってんじゃね? と言う傷に塩を塗るような追及はご勘弁を。受け入れたくない真実は更に人を苦しめるんだからね。
「ありましたー!」
中から誰かが声を上げると、フミさんが「よし」と頷いてオレの部屋へと入って行った。
いつの間にか解放されたオレは、床へと四つん這いとなり、襲い来る消失感と戦った。
部屋の中からは大きくて出せませんとか、解体して運びましょうとか話し合っているようだが、今回は錬金の指輪で製作していたからヴィアンサプレシア号よりは大きくなっている。
ケケッ。持ち出されないように保険はかけてたさ。
「わたしに任せなさい。大きくするも小さくするも自由自在よ」
あ、プリッつあんがいたんだった!!
くっ、くそー! まさかプリッつあんが敵に回るとは考えなかった。まさか身内に裏切られるとは……。
「……いや、当然の帰結かと……」
そんな感想なんていらねーんだよ。専属メイドなら慰めろや!
「プリッシュ様、ご協力ありがとうございました」
「いいのよ。またなにかあったらわたしに言いなさい」
「はい。その際はよろしくお願い致します」
フミさんの言葉に、部下たちもお願い致しますと声を合わせて返事をした。
ザッザッザッと、まるで軍隊の行進のように去っていくフミさんたち。オレ、雇用主だよね……。
「まあ、この館のメイドは、サプル様を頂点としてますから」
ちなみにわたしめの順位はどこでしょうか?
「そんなもの一番下に決まってるじゃない。家に一番いないんだから」
まったく持って反論できぬ。だが、それならなぜに皆さんはプリッつあんに従うのよ。なんか別格扱いされてね?
「当たり前よ。わたしはちゃんと皆とおしゃべりして仲良くしてるもの」
オレのコミュニケーション不足。ってか、このメルヘン、どんだけコミュニケーション能力が高いんだよ! あなただって家にいないじゃん!
……いや、オレの頭の上にいないときも多いけどさ……。
「自業自得よ。ふんっ」
と、家主を置いて食堂へと飛んでいった。
しばし床を見つめていたが、我慢しきれず笑いが零れる。
クックックッ。まだまだ甘いな、メルヘンよ。奪われた飛空船は試作の試作。錬金の指輪を使う練習よ。奪われたところで痛くも痒くもないわ。
それに、新動力炉も殿様にお願いしてある。
「……悪い顔してますよ、ベー様……」
「おっと。内緒だよ」
ミタさんまでに裏切られたらオレ、号泣しちゃうからね。
「プリッシュ様にはいろいろ恩義はありますが、わたしは、ベー様のメイドです。優先すべきことは心得ております」
優先されてない方が多いような気がしないでもないが、いや、それはきっと気のせい。オレの筆頭メイドは主を大切にしてくれるメイドだと信じているよ。
もっとミタさんを大切にしようと思いながら食堂へ向かった。
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