第732話 裏の領主

「国名は、それでイイとして、住んでるヤツはどのくらいいるんだ?」


 メイドの増え方からして相当な数になってるのは想像できるがよ。


「拙者の領域内では二万を超えた感じでごさる」


 二万か。移住者と考えたら多いが、国と見たら少ねーか。


「……小人やクレインの町を含めると五万くらいか……」


 どちらで考えようと、自給自足もできねー状態では変わりはねーよ。


「畑とかどうなってる?」


「第十二層にトウモロコシ畑やイモ畑を作ったでござるが、三十トンも採れてないでござるな。まあ、海からの幸と輸入でなんとかなっている感じでごさるよ」


 なんとか、ね。それはその日暮らしとなんら変わりねーな。飢饉が来たら一発で滅亡だよ。


「やっぱ、帝国から輸入しねーとダメか」


 あまり頼りたくはねーが、今は、あそこ以外調達できるところがねーしな。


 帝国と名乗るだけあって支配地はこの大陸で一番であり、このアーベリアン王国以上の穀倉地帯を八つも持ってやがるのだ。


 自分のところで消費し、飢饉に備えるくらいならアーベリアン王国にいても余裕だが、何万人もの胃袋を支えるには不可能だわ。


「世界貿易ギルドが育ち、エリナの──じゃなくてヤオヨロズ国が一端の国力を身につけるまでの数十年は他国に頼るしかねーか」


「同志の話では、あまりよくない政況のようでごさるな」


「今の皇帝がアホだからな」


 天下統一とか言うアホなら怖くもねーんだが、政治に無関心で家臣に任せきっりってアホだから頭痛いぜ。


 これが芸術やら女に現を抜かすしているならやりようはあるし、家臣団を口説けば(脅すとも言う)イイんだが、今の帝国を仕切ってるのは皇帝の弟ときてる。


 しかも優秀で向上心もあり人気もある。そのクセ、裏から支配するのが大好きと言うタイプだから嫌になるよ。


「関わりたくはねーが、ヤオヨロズ国の存在を認めさせるためにはイヤでも関わらなくちゃならねー。こちらの事情を悟らせず、帝国と対等だと思わせなくちゃならねー」


 ただでさえヤオヨロズ国の国民はほとんどが魔族だ。聖国や宗教国家からしたら十二分過ぎるくらい侵略理由になる。


「あの御仁や人外さんがいるのに、でござるか?」


「カイナが暴れたら帝国どころか世界が滅ぶわ。あと、人外は人の理から出た存在だ。人の世に口を出すべきじゃねー!


 いや、ご隠居さんとかおもいっきり口出してるじゃん! とか突っ込まれそうだが、あれは自分の住処を守るために口出してるまで。それ以外は不干渉にしてるよ。


「まあ、帝国のことは帝国にいってから考えるさ」


 オレの人生、なるようになる。ならねーときはまた別の手を考えればイイ。それがオレのやり方だ。


「シャンリアル領は、ヤオヨロズ国の壁であり、食糧庫とする。そうヴィ・ベルに指示を出すからエリナの方で人間の姿をした護衛を出してくれ。さすがに魔族を人前に出すわけにはいかねーからな」


 領内では自重しねーが、王都や他領には配慮しておくのが外交ってもんだ。


「内政でござるな! 任せるでござる。活きのいいのを用意するでござるよ!」


 なにかオレが思う内政とエリナの言う内政に隔たりを感じて仕方がねーが、まあ、丸投げ常習犯が気にすることじゃない。好きにやれ、だ。


「内政はともかくとして、まずは領主城を掌握しねーとな」


 城とは言ってるが、もはや廃墟レベル。これでよく逃げなかったヤツらがいるもんだ。


「忠義には忠義を。頑張った者には幸せを。その思いの結果を見せてやらんとな」


 裏の領主、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィングがな!

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