第733話 ここに誓おう

 残った者たちを呼ぶ前に、コーリンたちが作ってくれた貴族風の衣装に着替えた。


 自作の手鏡をプリッつあんの能力でデカくして姿見にする。


「……なんのコスプレだよ……」


 なんて突っ込みたくなるほどコーリンたちの衣装がコスプレすぎる。


「お似合いですよ」


 ときたま憑かれているオレですら見えなくなるレイコさんが、脇に来てオレの姿に笑顔を見せていた。


 ……なんだろう。いるのはわかってるのに存在すら忘れるときがあるんだが……。


 いつものことじゃない。と、プリッつあんがいたらそんなこと言われそうだが、これはあれか? プライバシーがないための弊害か?


「ちゃんと貴族っぽく見えてんのか?」


 似合わなくてもイイからそれっぽく見えてたら受け入れるよ。


「似合ってますよ。あと、髪型をなんとかすれば完璧です」


 髪型な。まあ、あとでカイナーズホームで整髪料を買うか。今はイイや。


「今回はこれでいく。ドレミ。ヴィ・ベルに整髪料も買うように伝えてくれ」


「はい。わかりました」


「あと、メイドさんたち。オレの後ろに控えてくれ」


 畏まりましたと、四人のメイドさんがオレの背後へと立つ。


 ちょっとはったりがすぎると思うが、形や雰囲気は大事。威圧しないていどに相手にオレの存在感を示す。と、以前、男爵どの(そう言やしばらく会ってねーけど、元気にしてるかな)が言っていた。


「ほんじゃ、いきますか」


 領主城の謁見の間(的な)なところへと向かう。


 もはや廃墟と言ってもイイところなので殺風景……どころか軽くホラーが入っているが、そんなもの我が土魔法の前では更地と変わらぬ。


 謁見の間(的な)を見回し、左足を床にドン。それで朽ちかけた壁やら穴が空いた床が新品同様に修復された。


「……メチャクチャですよね、ベー様って……」


 レイコさんが背後で呟くが、それに反応せず、謁見の間(と呼べるところになりました)にいる家臣たちに笑みを見せた。


 こんなになっても領主城に残った強者つわものたち。オレの土魔法に目を大きくさせながらも騒ぐことはなかった。


 謁見の間を進み、領主さんと……領主夫人(吐血しそう)の間に入る。


「まず、皆に謝りたい。これまで領主として、主として、至らぬところが多くあった。いや、今でも至らぬ領主であり主でもある。頭一つ下げただけでは許されないだろうが、どうかわたしに頭を下げさせてくれ。すまなかったと言わせて欲しい」


 領主としても主としても失格なことばかりだが、人としたら好感が持てる男だ。ま、まあ、認められないところも多々ありますけど……。


「わたしからも頭を下げさせてください。皆に苦労をかけてごめんなさい」


 領主……夫人(吐血しそうです)も頭を下げさせて謝罪した。


 家臣たちはびっくりし過ぎてなにもしゃべれないようだが、そこに憎しみや不満はないようだ。


 違う世界の常識が身についているからか、この時代の忠誠心とか仕事への態度とかわからんが、ここにいる家臣たちの忠誠心や仕事への態度は相当なものらしい。素直にスゲーと思うよ。


「──とんでもございません!」


 と、家臣たちに目を戻すと、執事風の老人が一歩前にでていた。


「我々はシャンリアル家に忠誠を誓った者。最後まで主とともにするのが務めでございます。謝罪など不要でございます」


 他の誰かがそんなこと言っても興味を持たねーだろうが、この状況を知ってから聞くと泣けるセリフになるんだから不思議だぜ。


 他の家臣も当然だと、シャンリアル家の臣だと口にする。


「……すまない……」


 領主さんも家臣たちの忠誠心に当てられたのが、目に涙を浮かべながら謝り続けていた。


 この場を崩すのもワリーので静まるまで待つ。だってオレは空気を読める子だもの。


 感動劇場を眺めながら家臣たちを一人一人観察していく。


 ここにいる者は十三人。領地と城の大きさを考えたらいないも同然だが、なんの奇跡か各所一人ずつ残ったようだ。


 城を見る執事さんと侍女長的なおばちゃん。下働き風のおねえさんやおにいさん。老文官さんたちに老武官さんたち。辛うじて領地経営に必要な者たち。


 ……この人たちのお蔭でオレは生きて来れたんだな……。


 領主さんの罪は重い。断罪されてもしょうがねー。が、それはそれ。これはこれ。家臣たちの努力は紛れもない事実。オレたちが生かされた真実。報われて当たり前の存在だ。


 場が冷め、家臣たちの目がオレに集中する。


 言葉を出そうとするのを抑えつけ、領主さんを見る。


 理解した領主さんは、浮かぶ涙を払い、領主としての態度を見せた。


「皆に紹介する。わたしたちの息子だ」


 家臣たちの目が見開くが、そりゃ当然だ。だって、領主……夫人(吐血しそうです)が男だってわかってるんだもん。


「疑問に思うのも当然。わたしやセシアとこの子に血の繋がりはない。だが、わたしはこの子に救われた。セシアを救ってくれた。ただの男の救いに手を差し伸べてくれた。そして、この有り様を見ても見捨てないでいてくれる。わたしたちの子となってくれたのだ」


 領主さんと領主……夫人(もう吐血してもイイですか?)がオレを抱き締めた。


 空気が読めるヴィ・ベルくんとしては応えなくてはならない。心の中で吐血しながら二人の肩に腕を回した。


 なにが満足したかは一生知りたくねーが、二人が涙を流しながら離れた。


 根性だせや、オレ! と叱咤激励して二人に笑顔を見せ、一歩前に出た。


「……まず名乗る前に言わせて欲しい。わたしの故郷を守ってくれてありがとう」


 深々と頭を下げる。


「そして、あなたたちの前で誓おう」


 ここに来る前にメイドさんたちに渡した結界旗をオレの背後に広げた。


 この領地に生まれ、いろいろ苦労はさせられたが、この領地の紋は結構好きだった。


 太陽と麦を飾ったシンプルな紋だが、この地域を表していてオレは気に入っている。


「この領地はわたしが継ぐ。そして、皆が守ってくれた故郷を幸福で満す。わたし、ヴィ・ベルが皆の忠誠と努力に誓う。わたしは、シャンリアル家を、いや、そこに住む者たちを幸福にする!」


 もちろん、どんな手段を使っても、な。ククッ。

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