第731話 ヤオヨロズ
「所謂、性同一性障害でござるな」
マンダ〇タイムをしていると、エリナがしれっと同席してそんなことを言った。
テレビでそんな言葉を聞いた記憶はあるが、それがどう言ったものかは知らねー。
ただ、なにも知らねーヤツが無闇に語ってイイもんじゃねーことだけはわかる。なので、そっかとだけ答えておいた。
カップの中のコーヒーからすぐそこで行われているラブストーリーに目を移した。
どんな苦労があったか知らねーし、立ち入るつもりはねーが、オレのわがままに苦しんでなけりゃなによりだ。そう言う趣味だったら後味ワリーからな。
「ヴィどのは、なんのかんのと言い、優しいでござるよな」
「エリナのクセに生意気なこと言ってんじゃねーよ」
ラブストーリーからまたコーヒーに目を戻し、残りをいっきに飲み干した。
「ちょうどイイ。これからの話をしておく」
空のカップにコーヒーを注ぎ、エリナには……って、お前、なに飲むの? つーか、強制的に来させたが、なぜに喪服? いつものジャージじゃねーんだな?
「体を幾つか用意してあるでござるよ。着替えるのが面倒なので」
着替えに関しては口出しはしねーが、面倒だからって体を用意するってどうなのよ? まあ、口はださねーけどさ。
「あ、拙者、日本茶派なのでお構いなく」
と言うと、どこからか急須や湯飲み茶碗、煎餅と言ったエリナの部屋でよく見たお茶セットが現れた。
「……お前、見た目は西洋っぽいのに中身は渋いのな……」
ジャージや喪服姿しか見たことねーが、顔つきや体つきは日本人離れしているのだ。
「クォーターでござるからな。中身は祖母の影響でござる」
あの趣味も祖母の影響ならオレは罵詈雑言を口走るぞ。
「……家族はどうしてるでごさろうか……?」
ふ~ん。こいつでも家族とか気になるんだ。家族より自分を優先しそうなタイプに見えんだがな……。
オレも前世の親兄弟ことは気にはなるが、もはやどうしようもねーこと。できることは幸せを祈ることだけだ。
「……まったく、拙者の生き甲斐を理解せぬ母でござったよ。あのお祖母さまの娘とは思えんでござる!」
ん? あれ? なんかオレが想像した方向から外れた感じなんですが? つーか、祖母よ。この汚物がこうなった原因はお前のような気がしてならないんですけどっ!
なんか追求したいけど、嫌な答えしかねー感じなので全力全開でスルーしておこう……。
「ジオフロント計画はカイナに、って、そう言や、エリナってカイナに会ったことあるっけか?」
カイナにはエリナのことを言った記憶はあるが、会わした記憶はねー。ってか、ジオフロントはエリナの領域なんだから会わない方が不思議だろう。
「あの御仁の姿は何度も見ているのでござるが、会いに行こうとするとなぜかいないのでござるよ。なんででござろう?」
うん。おもいっきり避けられてますね、それ。
あ、そう言や、カイナと出会ったとき、エリナは苦手だとか口にしてたっけ。羨ましい……。
あの頃に戻ってオレよ逃げろと叫びたいが、戻る手段もねーんだから諦めろだ。エリナはともかく、バンベルとは友達だしな。
「……なんでござろう。なにやら寂しい気持ちになったでござる……」
そのまま寂しさで死んでくれ。そして、来世はまっとうに生まれてください。可能であればオレと絡まない時代でありますように。
「それより、このシャンリアル領を手に入れて、お前の国の門とする」
「あ、ちょっとよろしいでござるか?」
と、エリナが口を挟んできた。なんだい?
「拙者の国と言ってるでござるが、支配するけど統治せず、でござるから、違う名前にして欲しいでござる。エリナの国とか小っ恥ずかしいでござるよ」
そう言うもんか? まあ、確かに自分の名前が国名とか、嫌がらせにもほどがあるわな。オレなら「それ、なんの羞恥プレイだよっ!」って力の限り叫ぶぞ。
「じゃあ、なんて名前にする? 言っとくけど、オレの名をつけたらぶっ殺す」
オレの国じゃねーのにオレの名がついたら、その日に革命戦争起こすからな。
「死にたくないのでとうの昔に諦めたでござる。で、考えに考えて八百万の国。漢字がないのでヤオヨロズ国としたいでござる」
ヤオヨロズ、ね。まあ、多種多様な種族が集まるところだし、それでイイんじゃねーの。支配するけど統治せず、と言っても、ジオフロントはエリナの領域。繁栄も衰退もエリナ次第。エリナが最終的に決めるのだ。なら、最初もエリナが決めろ、だ。
「なら、今このときからお前の国は、ヤオヨロズ国だ」
ってか、どうやって広めたら宜しいんで?
「あの御仁に伝えれば宜しいのではないのでごさろうか。仕切ってるのはあの御仁ゆえ」
あ、まあ、当人と協力者そっちのけでやってる第三者ってのもどうかと思うが、任せっ切りのオレらが言うな、だよな。
「そうだな。会ったときに伝えておくよ」
適材適所。かどうかはわからんが、当人や協力者が伝えるより、早く、確実に伝わるんだからカイナさん、よろしくね、だ。
「あ、どうせならカイナ国でもよかったな」
「そうでござるな。八割方、あの御仁の力ゆえ」
と、スマッグが震えた。
え? バイブにしてたと思いながら画面を見ると、メール着信なるマークが。そんな機能あったんだと、ドレミさんに開いてもらった。
「なんでござる?」
「カイナ国反対。ヤオヨロズ国に賛成、だってよ」
この汚物と言い、カイナと言い、オレのプライバシー完全無視だよな。まあ、見られてどうこう言う性格でもねーけどよ。
つーか、頭の上や左右、背後にいる段階でプライバシーもクソもねーよ、こん畜生がっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます