第729話 領主城
と、言うか、スピードに特化させたゼロワンとファミリーカーにしたゼロフォーでは勝負にもならねーよ。
「なんだ、負け惜しみか?」
ケッ。そうだよ、負け惜しみだよ! やればなんでもできる天才野郎めっ!
神(?)から三つの能力をもらった者としては、他人の才能に嫉妬することはねーが、努力したことで負けるとなると悔しい思いはする。
結界カーはハンドルや操作レバーで操れるようにしてあるから、センスがあるヤツには勝てねーが、自分で造って一番長く使ってるのに負けるとか、ほんと、天才って卑怯だぜ。
まあ、努力は天才を上回ると信じるが、別にカーレーサーになりたいわけじゃねーし、スピード狂でもねー。勝まで努力するなんてしねーよ。
「なあ、ベー。これ売ってくれ。気に入った」
「それはオレ用に造ったものだ。シート……座席に違和感あったろ?」
結界シートだから簡単に調整できるが、車体を小さくしてるから公爵どの体には狭いだろうよ。
「あー確かに。安定しなかったな」
「最近造ったゼロファイブをやるよ。スポーツカー……って言ってもわかんねーか」
見せた方が早いと、無限鞄からゼロファイブを取り出してデカくする。
「……カ、カッコイイ……」
まるで一目惚れしたかのように、うっとりとした声を出す公爵どの。まあ、このフォルムには惚れるわな。オレも初めて見たときは惚れたもの。
いろいろ問題があるので明言は避けるが、ゼロファイブはカウンタック的なフォルムをしている。
年代や形式も避けるが、まあ、あのフォルムをして、ガルウイングにしたスーパーカーだとイメージしてください。
「操作は同じだが、馬力──ゼロワンの四倍くらい強力にしたから扱い難い。けどまあ、公爵どのならなんとかすんだろう。今回の礼だ、もらってくれ」
帝国では世話になるんだし、その報酬ってことでイイだろう。
それに、乗ることを考えねーで造ったものだし、造って満足もした。無限鞄の肥やしになるところだったもの。乗れんなら乗ってくれ、だ。
「相変わらず気前がいいよな、お前は。これ、飛空船一隻分くらいするんじゃないのか?」
「銀貨三十枚もかかってねーよ」
見本で何台か買ったが、それは部屋の飾りとなってるし、材料は激安のカイナーズホームで買ったもの。結界に錬金の指輪はタダ。技術料を取るほど技術なんて使ってねー。
それで金を取るとか詐欺かぼったくりだよ。
「……わかった。ありがたくもらっておくよ……」
持ちつ持たれつの間柄。気にすんな、だ。
ゼロファイブに乗り込むと、殊勝な顔はどこへやら。新しいオモチャを手に入れた子供のように破顔した。
「じゃあ、また後でな!」
バビュンと弾丸スタートして、どこかへと消え去った。
「注意一秒怪我一生。お土産は無事故でイイよ、我が友よ」
なんて安全標語を送るが、安全設計された我が作品に死角なし。竜に踏まれても大丈夫っ!
なんてイレギュラーな公爵どのはこのくらいにして、本題に入りましょうか。
改めて領主の城を見上げる。
いや、城は城だが、随分と朽ちた城であった。
領都……と呼ぶほどデカくもなければ発展もしてねーが、一般的な伯爵領となれば五万人都市にはなるんだが、我がシャンリアル領は、一万人いるかどうかの規模だろう。
でもまあ、田舎の町、と見たらそれなりに活気はあるし、そう寂れてもいねー。毎日朝市が立つし、冒険者ギルドや商店街もある。
バリアルの街ほどではねーが、麦以外の野菜も作ってるので、買い物にはちょくちょく来るところだ。
「……門の外から見ても朽ちてんなーとは思たが、中から見ると更に朽ちてんのがわかんな……」
廃墟の一歩手前って感じだな。
「誰もいねーのかい?」
門番すらいなかったがよ。
「代々仕えている者が十人ほどいます」
本当に廃墟になる一歩手前だな。
「自業自得とは言え、よく領主でいられたな、領主さんは」
事情を知り、こちらに好都合な状況なので、文句も皮肉もないが、よくこれで反乱とか起きなかったもんだ。完全に無政府状態じゃねーかよ。
「税は取れたら取る。取れなければ取らないでいましたから」
真面目に払ってたうちの村はバカみてーだな。
まあ、それも今更か。早々に潰れていたら領主を抱え込むこともできんかったし、支配することもできなかったんだからよ。
「とりあえず、立て直しは後にして、領主さんの奥さんに挨拶せんとな」
打算の関係とは言え、オレの義理の母となるんだからよ。
領主さんを先頭に、メイドさん四人を引き連れて領主城へと入った。
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