第728話 イニシャルベー

 領主さんの方は人員が揃ってから再開するとして、だ。


「ヴィ・ベル。まずは資金と収納鞄を幾つか渡しておく。カイナーズホームで必要なものを買ってこい。あと、ドレミ。エリナにシュンパネとスマッグ、領主城と通信できるようにしろと伝えろ」


 なにも持ってねーでは話にならねー。金と力の他にも道具も必要不可欠だ。


「畏まりましたと分裂体から返事が届きました」


 さすがバンベル。超万能生命体の親玉だ。


 無限鞄から金貨や銀貨、サファイアやトパーズと言った宝石、オレである証しの魔剣バットを渡した。あとはカイナーズホームで揃えろ。


「では、買い物にいって来ます」


 どうもオレの顔と体で上品にされると体が痒くなってしょうがねーな……。


「……もう村人の資産じゃねーな……」


 いや、村人の資産だよ。と言っても反論されるだけなので、肩を竦めて流した。


「領主さん。用意が整うまで時間がかかると思うし、一回帰るかい? 帰るなら確認のためにオレもついて行くが」


 一度いけば次回からは転移バッチでもシュンパネでもいける。


 まあ使わなくても領都は馬で三時間の距離。ゼロワンを飛ばせば三十分もかかんねーだろうよ。


「はい、一度帰らせていただきたい。妻の様子も気になりますし」


「寝込んでんのかい?」


 居候さんのことだから後遺症は残さねーと思うんだが。


「いえ、長い間動かなかったので体が固くなっていて、付き添いの者がいないと起き上がるのも困難でして……」


 その言い方からして、付き添いの者は少数、イイとこ一人か二人ってところだろう。まったくいなかったらここに来てねーだろうしよ。


「わかった。介護と世話を任せるヤツを四人連れていく。執事さん、再びカモーン!」


 ──ハイ、出て来るわけありませんね。さすがに選別を他人任せにはできませんって。


「しゃーねー。メイド長さんに頼むか」


 メイド長さん、カモーン!


 と、ドアを開けて叫ぶと、「はーい!」と返事がして、メイド長さんと髪がウニョウニョしたメイドさんと狼っぽい顔をしたメイドさんがやって来た。


 ……オレんち、どんだけ種族の坩堝となってんだよ……。


「お待たせしました。なんでございましょう?」


「いきなりでワリーんだが、領主夫人の介護と世話するメイドを四人、選んでくれ。大至急で」


 サプル直下のメイド長さんに頼むのは筋違い(か?)だとは思うが、メイド長さん以外に頼めねーんだから頼るしかねー。


「畏まりました。大至急用意致します」


 できるメイド長さんは、できねーとは言わない。外に出てゼロワンを用意する時間で四人メイドさんを選出した。


「まだ完全に仕込んではおりませんが、ゼルフィング家のメイドとして過分なく働き上げるでしょう」


 ご挨拶しなさいと、四人のメイドさんが名乗りを上げた。領主さん、覚えた? オレは領主さんとメイド長さんが知っていればどうでもイイや。


「親父殿、ワリーが、領主さんとこに行って来るから公爵どのの相手を頼むわ」


 ゼロワンに興味津々な公爵どのを引き剥がし、親父殿に引き渡した。


「ま、待て! なんだこれ!? カッコイイじゃねーか! どうなってんだこれ? どうすんだこれ?」


 まあ、カッコイイのは認めるが、車にも興味……って、ほとんど飛空船と変わらねーか。飛んでるしよ。


「帰って来てから教えてやるから留守番してろ」


 なんて聞くような男なら公爵と言う立場で飛空船に乗ってねーか。


 説得するだけ時間の無駄と、一緒にいくことにした。


 ゼロワンの操り方を教え、庭を軽く一周させ、イイようだったので空を飛ばし、陽当たり山を一周させた。


「おもしれー!」


 それはよかったな。じゃあ、領主さんを乗せるからしっかり後をついてこいよ。


 ゼロワンを公爵どのに取られたので、空母にいるとき作ったゼロフォー──ワンボックスタイプの車を無限鞄から取り出し、デカくさせた。


「メイドさんたち、乗りな」


「ベー様、荷物は如何致しましょうか?」


 見ればメイドさんたちの両手にはぎっしり詰まった旅行用ケースが握られていた。


「あ、なにも持っていかねーわけねーか」


 全然気がつかんかったわ。さすがメイドさん。抜かりはねーか。


「量も量だし、小さくして持っていくか」


 無限鞄や収納鞄があるから荷台まで考えなかったわ。ゼロシックスから考えて造るとしよう。


 荷物は小さくして無限鞄に仕舞う。車の中に入れて転がると大変だからな。


 メイドさんたちを後部座席に座らせ、シートベルトを着用させる。ちょっと飛ばすんでな。


「公爵どの。ちょっと飛ばすが、ついて来られないときは戻れよ」


 と、親切に忠告してやったのに、なぜか挑発と受け取った公爵どの。なんでだよ?


「フフ。冒険公爵と名高い我に言うではないか。よかろう。その名が伊達ではないことを教えてやろう」


 いや、ほんと、なんでそうなんだよ?


「まあ、イイ。だったらオレの前に出てみな」


 勝負がしたいと言うなら相手になってやるよ。結界マスターベーが真の運転を見せてやる!


 上昇モード全開。即座に飛行モードⅡに切り替え、フルスロットル。さあ、誰が一番か教えてやるよっ!


 そして、なんのイニシャル物語だよ! って突っ込み大募集です!

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