第730話 愛ってなんですか?

「アル、お帰りなさい」


「ただいま、セシア」


 愛し合う二人が抱き合い、熱いキスを交わした。


 ……愛はかくも偉大なものであった。


 ──完。


 ………………。


 …………。


 ……。


 って、終わんねーかな、この世界。もう、イイ人生だったと死にてーよ。


 ポケットからスマッグを出してぴっぽっぱっ。


 トゥルルルー。トゥルルルー。トゥルルルー。ガシャ。


「──はい、こちら子どもお悩み相談室でござる」


「愛ってなんですか?」


「愛とは自由でござる。老いも若きも男も女も自由に愛し合うでござる。ちなみに拙者は、その愛を応援するでござるよ」


 ブチッ。


 と、スマッグだか血管だかを切る。


「どうかしましたか?」


 すまん。オレに時間をくれ。いや、誰かオレに精神安定剤をください。この理不尽を飲み込める寛大な心をくださいな……。


 なんだろう。なんなんだ、これ? オレはこんな愛を求めてたんじゃねー。


 もっと純愛で、いや、この二人にしたら純愛なんだろうけどさぁっ、こんな純愛なんて想像できるか、こん畜生がっ!


 あのとき、領主さんをカッコイイと思ったオレの純情を返せ! 愛した者を救うチャンスを与えた決断を返せよっ!


 今、このときほどプリッつあんがいてくれと願ったことがねーくらい、精神が崩壊しそうだわ。世界の中心で「助けてー!」と叫びてーよ。


 微かに残る精神力を使ってリダイアル。


 トゥルルルー。トゥルルルー。ガチャ。


「はい、こちら子どもお悩み相談室でござる」


「た、助けてください。今にも心が折れそうです……」


「受け入れるでござる。愛は自由だと……」


 スマッグだが精神だかを切る。


「だ、大丈夫ですか?」


 いえ、全然大丈夫じゃないです。死にたいです。いえ、もう死に体です。ここでオレは死ぬんですね……。


 トゥルルルー。トゥルルルー。トゥルルルー。と、涙で濡れる視界に、スマッグが鳴り、チカチカ光っている。


 ……あの世から死亡報告ですか……?


 そんな報告なくても、もう直ぐオレは天に召されますよ。あー来世はもっと平々凡々に、悠々自適に、今生よりは穏やかに暮らせますように……。


 オレの物語、完……。


「──なんて、終わってられっかよっ!!」


 ふざけんなっ! こんな最後なんて認められっか! 最悪な最後だわ! ちっともイイ人生じゃねーよ!


 クソがっ! 領主さんの人生で、オレに関係ねー愛だが、やるんならオレの見えねーとこでやれよ! オレにかかわんなよ!


いや、お前の自業自得だよ! って突っ込みが欲しいよ! プリッつあん、心の底からカモーンだよっ!


「マスター。プリッシュ様からです」


 ……え? プリッつあん?


「なんかよくわからないけど、ベーの悲鳴が聞こえたんだけど、どうしたの?」


「あ、あのね、夫人が夫人じゃなくてね、男なの。それもエリナの世界なの。もうイヤなの……」


 涙が止まらないよ。プリッつあんに会いたいよ。


「……え、えーと、ならベーの世界にしちゃったらいいんじゃないの? どうしたらいいかはわかんないけどさ……」


 オレの世界? オレの世界、ね──!!


「──プリッつあん、愛してる!」


 スマッグだか混乱だかを切る。


 ぴっぽっぱっ。トゥルルルー。トゥルルルー。ガチャ。


「現在この番号は使われておりません。番号をもう一度ご確認の上──」


「──三秒以内にここに来い! 来なけりゃ一秒でそっちに行って二秒でお前の世界をぶっ壊す!」


 今のオレなら神であろうとぶっ殺す自信がある。


「お、乙女の外出には時間がかかるでござる……」


「お前の選択肢は四つ。一つ、ここに三秒で来る。二つ、ここに二秒で来る。三つ、ここに一秒で来る。四つ、消滅する、だ。好きなのを選べ」


「それ、死へのカウンダウンでござるよっ!」


 当たらずとも遠からず。お前、死に体じゃん。


「一秒で選べ。二秒後には──」


「──来たでござるよ!」


 即決できる汚物でなによりだ。侮蔑しかねーけど。


「あれ、なんとかしろ」


 領主さんと領主さんの愛する……美青年を指差した。


「なんとかってなにをするでござるよ?」


「お前に任せる。なんとかしろ」


「なんの無茶ぶりでござるかっ!?」


「お前なら男を女にするくらいわけねーだろうが! あれをオレの心が健やかになるような関係にしろ!」


「……え、えーと、二人の同意とかは?」


「そんなものねー! オレの心が全てだ、こん畜生が!」


 傲慢? 身勝手? 人権無視? うるせー! 文句があんならかかって来いやっ! オレはオレの心を守るためなら冷酷無比でも悪辣非道にもなってやんよっ!


「え、えーと、このジャイ〇ンがそちらの受けを──ではなく、セシアさんを女性にしろと命じてるでござるよ」


「女性になれるのですか!?」


「本当ですか!?」


 なにやら美青年さんと領主さんが食いついて来た。


「なれるでござるよ。普通に」


 なにが普通かは知りたくもねーんでサラッとスルーです。


「お願いします! セシアを女性にしてください!」


 エリナの足元に縋りつく領主さん。


 あ、うん。あとは適当にやってよ。オレはもう関わりたくねーんでマンダ〇タイムにするからさ。終わったら教えてよ。


 あー、今日もコーヒーがうめー!

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