第714話 筋肉マンと筋肉レディー

 バルナドとの当てっこ勝負は、僅差でオレが勝った。


 しかし、あんな三流品の槍で百メートル先の硬球に当てるとか、マジハンパねー男だぜ。一流品だったらオレが惨敗してたわ。


「スゲーな、まったく。どんな身体能力してんだよ」


 野球センスには絶対の自信はあるし、今生になってからも練習はして来た。だが、バルナドに勝てたのは、五トンのものを持っても平気な体があったからだ。でなきゃオレが勝つなんて絶対にあり得ねーわ。


「それはこちらのセリフです。ベー様の身体能力、いや、その感覚と言うのでしょうか? 一瞬で見極める才能は恐ろしいものがありますよ」


 ほー! 五トンのものを持っても平気な体じゃなく、野球センスを突いて来やがったか。やるじゃねーか、バルナドさんよ。


「フフ。褒め言葉として受け取っておくよ」


 いや、オレからしたら褒められてるのと一緒。気を悪くする理由なんてなにもねーさ。


「久々にスカッとしたぜ」


 本気じゃねーとは言え、心地良い疲労感は得られたし、イイ運動だった。なにより楽しかった。


「やっぱ、勝負は燃えるな」


「ええ、そうですね。久々に心が熱くなりましたよ」


 バルナドもスカッとした顔で笑っていた。


 その爽快感を胸にアイスコーヒーでもいただきますかと振り返ると、なにやらギャラリーがいっぱいた。ど、どーしたん?


「ベー様! 我々にもやらしてください!」


 と、三メートルはあろう黒鬼さんがギャラリーから出て叫んだ。だ、たから、どーしたって言うんだよ! 説明プリーズだよっ!


「どうした軍曹?」


 バルナドがオレの横に立ち、黒鬼の軍曹さんに尋ねた。つーか、カイナのヤツ、見た目で階級決めただろう。


 ──ぶふっ。鬼軍曹ってか! カイナ、サイコー!


 なんて笑いは相手に失礼なので心の中で笑っておきましょうね。 


「副司令官殿! 我々にもやらしてください! 副司令官殿ばかり楽しんでズルいです! 我々にも楽しみを分けてくださいよ!」


 スッキリ爽やかイイ汗かいた。な、状況を過ぎて冷静になると、アレ、なにがおもしろいん? とかお前言うセリフじゃねーよとお叱りを受ける謎が浮かんだ。


「いや、分けろと言われても……」


 と、オレに助けを求めるバルナドさん。部下なんだから自分で解決しろよ──と言うのは酷か。その状況を打開できなくてくすぶってたんだからな。


「的当てなら銃とかでやればイイんじゃねーの?」


 前にカイナが的を打ち出す機械を使って銃の訓練してたぞ。アレでもできんだろう。


「……銃は、その、あれでして……」


 黒鬼軍曹さんが言い淀み、視線を反らせる。ギャラリーに目を向けると、こちらもオレの視線から逃れた。


 まあ、なんとなくは理解した。つまり、カイナの下には下ったが、カイナの同志にはなれなかったってことね。


「カイナ様には感謝してますし、カイナ様の命令なら喜んで従います。ですが、その、我々は、脳筋と言うやつですので……」


 うんまあ、見た感じ、どいつもこいつも筋肉野郎──おっと。筋肉レディーもいましたか。こりゃ失礼。


「訓練で体を動かすんじゃねーの?」


 これだけの筋肉マンと筋肉レディーがいるんだ、結構な運動してんだろうよ。


「はい。訓練はしておりますが、あくまでも体を鍛えるためのものです。娯楽にはなり得ません」


 まあ、それを娯楽の域まで高めているのはボディビルダーくらいなもの。ここにいる者らは鍛えた肉体を使いたいってことだろうよ。


 ん~~。そうなると思い浮かぶのはサッカーとかラグビーのような激しいスポーツだが、自分らで脳筋と言ってる連中にルールとか覚えられるかは謎だ。つーか、オレがルールを知らねーよ。


 野球はそれこそ無理だし、乱闘になる未来しか想像できねーわ。だからってこいつらが楽しめる個人戦なんてなんも思い浮かばねー。つーか、ケンカにしかなんねーよ。


「……団体戦で体を使うもの……あ、あれがあったな」


 あれなら単純明快で脳筋でも楽しめんだろう。やってるうちにルールとか戦術とか生まれてきそうだし、軍隊ならお似合いだろうよ。


「丸太二本あればイイしな」


 空母の広さ……あ、ブラックサウザンガー? が邪魔か。まあ、小さくさせれば問題ねーか。


 ちなみに、もう一隻の空母は甲板がボコボコで原子炉を取ったら戦闘機の的にするそうです。なんつーか、言葉に詰まるな……。


「持っててよかった丸太さ~ん」


 とか歌いながら八メートルくらいの丸太を二本取り出した。


 なんで持ってのよ? とか疑問に思う方に答えよう 。バットに適した木があったら集めてたんですよ。


「バルナド。騒ぎたいバカを六十人集めてくれ。それ以上でもそれ以下でもイイからよ」 


 詳しいルールは知らんが、四十人も集まればやれんだろう。まあ、多いほうが迫力はあるんだろうがよ。


「わかりました。おい、暇なヤツらを呼べ。他の艦にも声をかけるのを忘れるなよ」


「了解です!」


 と、何十人かが散り、しばらくして筋肉マンや筋肉レディーが集まって来た。


 で、最終的に集まった筋肉マンと筋肉レディーは百五十名弱。どんだけいんだよ、シーカイナーズって?


「千六百八十四名です」


「壮大な趣味だな、こん畜生が!」


 己の趣味だけでそんだけ集めるとかアッパレだよ。お前にゃ負けるよ、ほんと……。


「まあ、イイわ。なら、四十名ずつ組を作れ。余ったヤツらはワリーが見物しててくれ。どうせ補充しなくちゃなんねーからな」


 これだけの筋肉が集まってんだ、無事には済むまいて。


「あ、あの、ベー様。いったいなにをなさるので?」


 バルナドの問いにニヤリと笑う。


「軍隊名物棒倒しさ」


 いや、名物かは知らんけど、自衛隊ではそんなことしてたぜ。まあ、テレビ知識だがよ。

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