第713話 男と男の勝負

 まずは軽くキャッチボールと行きますか。


 硬球を不意打ちで副司令官さんに放り投げると、その運動能力を示すかのように余裕でキャッチした。


「これは?」


「ボールってもんさ。こうやって投げるものさ」


 まずは手本とばかりに海に向けて投げた。が、オレの力とボールの軟弱さに破裂してしまった。


「やべー。本気を出しすぎたわ」


 いつも鉄球を投げてたから、その感覚でやっちまったぜ。


「……さ、さすがカイナ様と義兄弟を結ぶだけはあらりますな。戦闘機でも落とせそうです……」


 飛竜は落としたがな! との余計な情報はいらんか。つーか、鉄球だけでは撃ち落としてねーや。結界弾で撃ち落としたんだったわ。


「ワリー。手加減忘れてた」


 いかんいかん。硬球だと二割以下じゃねーと、相手が死ぬわ。


 何度か投げて加減を確かめた。うーん。二割以下にすんの、むずいないな……。


「こんなもんか?」


 多分、時速百七十キロ以下には押さえられたはずだ。


 五トンのものを持っても平気な体で日常を生きるために訓練はしたが、七割以下、三割以下にすんのが意外と難しいのだ。


「これも訓練しなくちゃなんねーな」


 自分でもびっくりだが、どうも三つの能力の五トンのものを持っても平気な体が使いこなせてねー感じだ。一割以下で暮らすことに慣れすぎたか?


「訓練ですか?」


「あ、いや、こっちのことさ。それより、副司令官さんも投げてみろや」


 と言うか、下半身狼で上半身人だとどう投げんだ?


「はぁ? ではやってみます」


 硬球を受け取ると、これまた奇妙と言うか、上半身の力だけで投げやがったよ……。


 なかなか器用な投球だが、それでもオレの二割は出ている。想像以上にスゲー身体能力を持ってやがるぜ。


「槍とか投げてたのかい?」


 どうも感じが槍投げに似てたが。


「よくおわかりで。うちは槍を使う氏族なんで」


 ……槍、か……。


 確か、ジーゴんとこで全てを売ってねーはずだから……あったあった。まだ百本近く残ってた。


 テキトーに槍を出し、一本を副司令官さんに渡した。ちょっと投げてみてくれや。


「はぁ? わかりました」


 と、やはり上半身の力だけで投げる副司令官さん。なんとも奇妙で器用な身体構造だこと。


 硬球より重さがあるからか、それとも副司令官さんの腕からわからんが、百メートルは軽く越えたな。下手したら二百メートルも可能なんじゃね?


「今の本気かい?」


「いえ、軽く投げました。槍がいまいちなんで」


 まあ、三流品だしな。しょうがねーか。


「じゃあ、もう一回、投げてくれや。あ、ちょっと待ってくれ」


 と、副司令官さんから二十メートルくらい離れる。


「イイぜ。投げてくれ」


 首を傾げながらも槍を投げる副司令官さん。力加減は同じか。なら、このくらいだな。


 一割八分くらいの力で硬球を投げる。もちろん、槍に向かって、な。


 副司令官さんはオレの一割五分くらいの力で投げたようで、七十メートルくらいのところで追いつき、槍を弾き飛ばした。


「おしっ! ナイスコントロール、オレ!」


 思わずガッツポーズをして喜んでしまった。


 フフ。やっぱオレの野球センス、今生もバツグンだぜ!


「……ほぉう。なかなかですな……」


 副司令官さんの声に目を向けたら、先ほどの情けない顔はなくなり、戦士の顔になっていた。


「イイ顔になったじゃねーか」


 それこそ男の、いや、闘争心を持つ戦士の顔だぜ。


「もう一回、投げてみな」


 オレの挑発にニヤリと笑い、槍を投げた。今度は一割七分に上げてな。


 フッ。まだまだオレのコントロール内だぜ。


 硬球は八十メートルくらいで追いつき、槍のど真ん中をヒットさせた。


 ドヤと副司令官さんを見ると、不敵な、いや、獲物を見つけた獣の眼をオレに向けていた。


 ゾクゾクと背筋を電気が走った。


 これは、好敵手を前にしたときの高揚感。魂の咆哮。体の奥底から溢れ出て来る男の本能が戦えと叫んでいるのだ。


「副司令官──いや、バルナド。勝負といこうじゃねーか」


「ええ。喜んでお受けしましょう」


 ニヤリと笑うと、バルナドもニヤリと笑い返した。


 男と男の勝負。男はそんなものに熱くなれるアホな生き物なのさ……。

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