第705話 男のロマン

 とりあえず、岩さんをなんとかしねーとな。


 岩さんの巨大もそうだが、海の中ってのも問題だ。


 結界で自由に動けるとは言え、オレ一人では限界があるし、宇宙に返そうと思ったら一旦海上に上げなくちゃなんねー。あと、聖金もこのままにしてらんねー。全部回収せんと後でなにが起こるかわかんねーしな。


「さて、どーすっぺ?」


 海上まで約三百メートル。岩さんの体重がうん百トン。サルベージ船もねーこの世界では引き揚げるなんて不可能だろう。


 が、この世界には魔法があり、オレには結界術がある。他にもファンタジーなものがある。それらを駆使すれば大抵のことはできるだろう。


「あ、あの、べー様。先ほどからいったいなにをなさってるのです? 岩としゃべったりこの聖金の鉱脈だったり、わたしにはさっぱりわからないんですが?」


 うおっ! レイコさんいたんかい!? って驚くくらいレイコさんの存在を忘れてました。


「……これだけ自己主張の激しい幽霊すらべーの中では存在がありきたりになるのね……」


 なにか達観したように呟いているメルヘンさん。あなたは哲学者でも目指してんのかい? 日に日にメルヘンを逸脱してるんですが……。


 まあ、考えるメルヘンは放置するとして、まず岩さんを海上に揚げることだな。


 土魔法で岩さんごと持ち上げることは可能と言っちゃー可能だが、さすがに自然破壊過ぎる。戻すのもメンドクセーわ。


「あ、あの、幽霊でも無視されると傷つくんですが……」


「なにが傷つくんだよ?」


 幽霊の生態(いや、死んでるけどさ)なんて知らんがな。つーか、あなた結構図太い神経(いや、あんのか?)からね。


「そう言や、レイコさんにもこれが見えてねーのか?」


 岩さんの壊死してない足をバンバン叩いて見せた。


「いえ、見えてますが、黄金のゴーレムなんて初めて見ましたよ」


 黄金のゴーレム? ん? レイコさんには黄金に見えてんの?


「岩さん、説明ぷりーずだよ」


 あなた、いったいどうなってんのよ?


「我の体は精神金属体。見る者の精神により我の体は違うものに見えるのだ」


 つ、つまり、宇宙的摩訶不思議現象ね。理解した。


「どう言う意味ですか?」


 探究心の強い幽霊さん。君はもっとスルー力を持ちなさいよ。


「あ、まあ、岩さんにおける第一印象が働いた、ってな感じ?」


 いや、適当に言ってみましたが、聖金マグナフェリアは精神により姿を変え、精神を具現化できる摩訶不思議金属として知られている。


 だからまあ、精神になんらかの作用をもたらすのは確か。詳しく知りたいのなら自分で調べてください。オレは学者でもなければ興味もねーわ。


 今は岩さんを揚げるのに忙しいの。話しかけないでちょうだい!


 んーと。えーと。岩さんだけを揚げることができたんだろうか? あ、小さくすればイイのか。チチンプイプイ、岩さんよ小さくなーれ。


「……ならんがな……」


 いや、微かに小さくなった感じもしないではないが、気のせいレベル。見た目、三十メートルだった。


 聖銀も土魔法や結界の効きが悪かったから、それほど期待はしてなかったが、聖金や聖銀ってこの星のもんじゃねーからなのか?


 やっぱ、直接的にどうこうはできんか……。


「なら、間接的か視点を変えるか、だな」


 岩さんの下の土を台ににして浮遊石で浮かす。ってことはできなくもないが、浮遊石の配置とか考えんのメンドクセーわ。ひっくり返ったら更にメンドクセーことになるしよ。


 間接的案は却下。となると視点を変える、か。


 ふっと自分でも呆れるくらいの案が出てきた。いや、それはさすがにねーわ。ねー……よね……。


 否定すれば否定するほど、オレの、いや、男のロマンが溢れて来る。


「……なんか、バカなことをする笑いだわ……」


「悪巧み、って感じですね」


 女子の呆れや否定に負けるようでは男は務まらねー。真の男はバカなことを全力でするもんだぜ!


「岩さん。ちょっと海の上に出るが、すぐに戻って来るわ。あ、その体、少々乱暴に扱っても崩れたりしねーよな?」


 モニターに映る岩さんに尋ねる。ちなみにモニターは岩さんが操っているようで、ずっと出っぱなしです。


「了解した。其方に任せる」


「おう。任された!」


 フフ。さあ、男のロマンといこうじゃねーの。

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