第704話 岩さん

 いや、ほんと、誰よ? つーか、なんで岩なのよ? 岩に知り合いなんていねーよ!


「我はヒュロポス。やっと話せる者と出会えた」


 いや、知らねーよ! なんだって言うんだよ!? 説明プリーズだよ!


「我の声が聞こえるか?」


「いや、聞こえるけど、いきなりだな、こん畜生が!」


「すまぬ。待ちに待った接触なのでな」


「知らねーよ! 接触の仕方おかしいわ!」


「本当にすまぬ。接触できる者が其方しかいなかったのでな」


 そっちの事情とか知るか。オレの精神(常識)が今にも爆発しそうだよ。


「……なんでしょうね。常軌を逸した存在相手に、ちゃんと受け答えているべーの方が常軌を逸してると思うのは……」


 そんな疑問いらねーよ! つーか、オレは普通の感覚の持ち主だわ!


 クソ! なんのとばっちりだよ。なんでオレの方が悪くなってんだよ。納得いかねーわ!


 まったくもって理不尽極まりねーな。怒りが突き抜け過ぎて逆に冷静になったよ。


「べーにかかると常軌が可哀想になるわね」


 それに打ち勝つオレを心配しろや! これでも精神がゴリゴリ削られてんだからな!


 ほんと、君はどっちの味方なのよ。少しは家主を労れや。


 ズキズキする頭に堪えながらモニターに映る岩に目と意識を向けた。向けたくはねーけどよ。


「つーか、なんで岩なのよ?」


 サイズはわからんが、丸みを帯びた岩と会話するオレ。確かに常軌を逸してんな……。


「我の核であり、この状態を維持するのが精一杯なのだ」


 なんかゴーレムみたいな存在だな。まあ、明らかにゴーレムとは違うけどさぁ。


「……ようわからんが、なんでオレら普通に会話できてんの?」


「べーが非常識だからじゃない」


 そんな素での回答いらんがな。あと、ああ、なるほど、みてーな顔で頷いてんなや、腐れ姫どもがっ! オレからしたらお前らの方が非常識だからな!


「其方がしているもののお陰だ。ここにいる生命体には念が通じず、やっと現れた小さな生命体は感じるだけで受信ができない。其方にも送ったが、受信しているにも関わらず、まったく通じない。いったいなんだと言うのだ?」


 あ、ああ。オレには精神波とか魔力波的なものを弾く結界を纏わせている。そう言うの普通にあるファンタジーな世界だからな、ここってよ。


 にしても、この岩(?)にも通じるとか結界超万能だな。神の力スゲー。


「まあ、それは気にすんな。ってか、随分と人らしい感情があんだな? 有機生命体──って言ってわかるか?」


 そこはかとなく宇宙的超生命体な感じはするが、それがどんなものかはわかんねー。こうして会話できてんのが不思議でしかたがねーよ。


「理解する。その腕輪を通じて人類との接触を学んだ。が、どうもこの星の文明からは逸脱しているようだがな」


 腕時計型通信機から? なんとも宇宙的なやり方だこと……。


「まーな。で、そんなことまでしてオレになんのようだい?」


 お友達になりたいってんなら友好を示さないまでもねーが、侵略だってんなら海峡の底に沈めるぞ。


「助けて欲しい。我は宇宙に、仲間のもとに帰りたいのだ」


 なんか壮大な願いだが、モニターに映るのが岩ではギャグとしか受け取れねーよ。もうちょっと宇宙的な視覚化しろや。


「ん~。宇宙って言われてもな~」


 さすがにS級村人でも宇宙は管轄外だわ。精々大陸間移動が精一杯だよ。


「仮に宇宙に行けたとして、岩さんの体は大丈夫なのかい?」


「常軌を逸した相手を岩さんとか、この常軌を逸した村人はなんなのかしらね?」


 ちょっとメルヘンは黙ってなさい。話が続きません。


「正直、そう長くは持つまい。だが、我は仲間のもとに帰りたいのだ」


 まあ、なんとなく状況は読めるし、その思いはわからなくはねー。できることなら叶えてやりてーよ。だが、宇宙はねーよ。オレの力でも成層圏に届かねーよ。


「頼む! 我を宇宙に、仲間のもとへ!」


 いや、そう願われてもよ……。


「よくわからないけど、なんとかならないの? べーの非常識ならなんとかなるんじゃない?」


 あなたね。オレを非常識と言いますが、非常識にも限界があるんですよ。つーか、オレは非常識じゃねーから。普通の感覚を持つ普通の男ですから。


「ったく。人類が宇宙に出るのに何万年とかかってんだぞ。そう簡単に……あ」


「……非常識でなんとかなるようね……」


 う、うん。なんか非常識でなんとかなりそうですよ。


「本当か!? 頼む! 我を宇宙に連れてってくれ!」


 そんなわたしをスキーに連れてってみてーに言うなや。岩に言われても嬉しくねーわ! 頂上から転がして雪だるまにしたろか。


「あ、まあ、やるだけはやってみるよ」


 こんな大問題、放置しておくわけにはいかんからな。


 まったく。オレの出会い運、宇宙にまで到達しちゃったよ……。

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