第703話 ????

 見られている。


 そう、オレの考えるな、感じろセンサーが叫んでいる。


 相手、と言ってイイのかは謎だし、目の前にあるのは石像(?)だ。


 辛うじてわかると言うように、人型はしているが、両足は膝からしたはなく、左手はない。右腕に至っては完全に消失している。顔も上半分がなくなり、目の部分もなくなっている。


 それでも見られているとわかるくらい、これがただの石像ではないと語っていた。


「プリッつあん。まだ感じるか?」


 乙女騎士さんの胸にいるメルヘンに尋ねる。クッ。羨ましい……。


「う、うん。なんだか頭の中がごちゃごちゃして気持ち悪いよ……」


 他を見るが、そう言った感じはないようだ。オレも考えるな、感じろセンサーが揺れてはいるが、プリッつあんのような感じはない。メルヘンにだけわかる電波でも放たれてんのか?


「姫さんたち、体に異常はねーか?」


「いや、これと言ったものはないが?」


 姫商人さんと乙女騎士さんも同じようで、訝し気にオレを見ていた。


「村長さん。聖金──輝く砂は、あそこから取れたんだな?」


 困惑する村長さんに尋ねると、そうですと答えた。


 ……やはり、人魚には害はねーようだな……。


「つーか、ドレミはなんも感じんのか?」


 この中で一番の超生命体。なんか感じねーのか?


「申し訳ありません。なにも感じませんし、先になにかあるのですか?」


 ん? 見えてねーの?


「姫さんたち、あそこにあるの見えるよな?」


 石像を指差した。


「もちろんだろう」


「ああ。見えるに決まってる」


「はい。藻の山が見えます」


 人魚たちには見え……ん? 藻の山? 藻?


 ちょっと待て。ちょっと待て待てちょっと待て! え、なに? それぞれ見てるものが違うってことか!? そうなの?


 いや、落ち着けオレ。深呼吸だ、深呼吸。。まずは落ち着こうやないの。


 マ〇ダムタイムと行きたいが、さすがにこんな場面でやれねーよ。いや、そこでやってこそべーでしょう。とか幻聴が聞こえるが、買い被り過ぎです。つーか、なんの期待だよ、それ? じゃなくて、なにやってんだよオレは。ほんと、落ち着けやオレ!


「え、そこでコーヒー飲むっ!?」


 ごめん。そこでやるのがオレでした。と言うか、飲まなきゃ落ち着けねーよ!


 クソ! この世界はどこまでオレの精神(常識)を攻撃してくんだよ! オレは平々凡々に、前世よりマシに生きたいだけなのによぉぉぉぉっ!


「……こやつ、バカだろう……」


「それはべーにとって褒め言葉だから。ま、まあ、べーがコーヒー飲んだならそれほど危ないことはないわ。今はべーの中で喜劇が上映されてるから、それが終わるのを待ちましょう」


 なにかオレをわかってくれてるセリフに聞こえるが、まったくこれっぽっちも褒めてないよね? 信頼が逆の方にいってるよね?


 突っ込み倒したいが、今は自分自身を落ち着かせるので精一杯。もうしばらくお待ちください。


「はい、オレ復活です」


 よし! 完全に落ち着きました。では、オレの物語再開です!


「とりあえず、近くに下りてみるか」


 ゼロワンを発進させ、石像の足元に着地させた。


「さしずめ聖金の鉱脈って感じだな」


 まあ、鉱脈と言ってイイのかは謎だが、石像の右足から聖金の塊が覗き、その下には聖金の砂が溜まっていた。


 ……いや、石像の右足が壊死してる感じか……。


 石像が生きてるかどうかはわからんが、この状況ではそうとしか見えねーぜ。


「……しかし、こんだけ聖金があるとありがたみがねーな……」


 石像の全長は三十メートルくらい。その足は大木のようで、そこに公園の砂場くらいに聖金があった。


「世界が買えるぜ」


 まあ、買う気はねーけどよ。


 無限鞄からスプーンを取り出し、掬ってみた。直接手で触るのはおっかねーしな。


 スプーンを入れた感触は、まさしく砂と同じ。これと言って問題はねー。


「姫さんたち、これは見えるのか?」


 スプーンで掬った聖金を三人に見せた。


「あ、ああ。金の砂に見える」


「わたしも同じだ」


「わたしもです」


 そこは同じなんだ。それでなんで石像が藻に見えんだよ?


 生命の神秘に突っ込み入れてもしょうがねーが、どうやら波長とか周波数が違うようだ。


「プリッつあん。まだ頭ん中ごちゃごちゃするのか?」


「う、うん。でも、さっきよりは酷くないかな? なんだかわたしから外れた感じっぽい」


 それが確かなら他の誰かに移ったってことだよな。この状況で人魚にいくってことがなければ、オレかドレミのどちらかになるってこと。


 ……変な電波とか流してくれるなよ……。


 まあ、受信してねーってことは合わさってねーってこと。変な電波塔とかたたんでくれよ。


 なんてセリフが別なもんを立たせてしまうのが世の常。本当に藻があんのかと右手を伸ばしたら、突然、腕時計型通信機が鳴り出した。


 え? 呼び出し音とかあったんかい? つーか、誰よ? タケルか?


 海の中まで通じんのかよと思いながら通話ボタンを押すと、オレの前にモニターが現れた。


 そして、映し出されたのは……岩、だった。


「……我だ……」


 ──誰よ!?

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