第702話 しゃーねーな

「輝く砂は、この村から少しいったところにあります」


 と、言われたわけじゃねーが、人魚の地名とか印とか言われてもわかんねーよ。しかも、辺りは薄暗いし、海草類がいっぱい生い茂ってるしでわかれって言うほうがどうかしてるわ!


 つーことで案内してちょうだいな。


 と言ったら村長さん自ら案内してくれるそーだ。サンキューです。


「あ、ワリーが、オレは乗り物でいかしてもらうな」


 危ねー危ねー。人魚の少しをまともに信じるところだったぜ。少しと言って三十キロくらい軽くいくからな、人魚は。


 一応と持って来たゼロワンを無限鞄から取り出して乗り込んだ。


「あ、わたしも乗せください」


 と、意外にも乙女騎士さんが声を上げた。


 まあ、後部座席は空いてるし、二メートルくらいある体も収まるだろうから構わんが、ゼロワンに興味があんのかい? なにやら遊園地の遊具に乗るような感じでウキウキしてるいるが。


「マリーは地上のカラクリが好きなヤツなんで、乗せてやってくれ」


「構わんよ。乗りな」


 別に拒む理由もねーしな。


 乙女騎士さんが乗り込み、案内役の村長さんに目を向ける。出発どーぞ。


「では、いきます」


 村長さんを先頭に、姫商人さん、姫戦士と続き、オレたちが乗るゼロワンが続いた。


 ってか、今さらながら一国の姫が単独で来ちゃってイイのか? 人魚の王族ってフリーダムなんかい?


「己を守れぬようでは王族失格ですから」


 見た目、清楚で温和そうな感じの乙女騎士さんだが、中身は結構武侠なんですね。


 まあ、地上より弱肉強食な世界だし、当然と言えば当然か。


 村から出て五百メートルくらい谷沿いに進むと、当然、左右の渓谷が崩れていた。


「……なんか、唐突だな……」


 海草類が生えていることからしてかなり昔に崩れたんだろうが、明らかに不自然な崩れ方をしていた。


「海竜同士の戦いでもあったんかい?」


 まだ、凶暴な海竜は見たことねーが、ハルヤール将軍の話では亀型海竜すら砕く海竜がいるとか。それなら山を砕いても納得はできる。


「いや、アーマゼン国にいる海竜は小型のものがほとんどです。山をも砕く海竜がいれば軍が出ます」


 だよな。山をも砕く海竜ならそれは災害認定されて大騒ぎになるわ。


 と、村長さんが左折。崩れた間を進んだ。


「……なんか嫌な予感がして来たぜ……」


 村長さんたちに続いて左折すると、相当先まで道ができていた。しかも斜め下方向に。


 ……なんつーか、スーパーマンが宇宙から落ちて来た場面を思い出すな……。


「……ベ、べー。なにか嫌な感じがするよ……」


 頭の上にいたプリッつあんが脅えた様子で下りて来て、なぜか乙女騎士の胸に抱きついた。


 ……それはオレへの当てつけか……?


「羨ましい」


「は? なにがです?」


 いえ、なんでもありません。気にしないでください。


「姫戦士。止まってくれ」


 先をいく三人を止めさせる。


「どうしたのだ?」


 不思議そうな顔をする三人。また振り返ってみると、乙女騎士さんも不思議そうな顔をしていた。人魚には感じんのか?


「プリッつあんがなんか嫌な感じがするんだってよ。なんも感じんか?」


「? ああ、我はなにも感じんぞ?」


「わたしも感じないが」


「わたしも感じませんが……」


 まあ、感じてたら逃げてるか。ってことは、人魚と海竜は違う波長をしてるってことか。なんのかは知らんけどさ。


「プリッシュの勘違いではないのか?」


「いや、オレはプリッつあんの感覚を信じる」


 昔は海竜の住処だった。聞いたとき、なんか引っかかりを感じていた。


 気候の変動? それとも海水温度の変化? それとも病気? いや、だったら人魚にもなんらかの反応はあんだろう。でも、そんな様子はなかったから気のせいだと流した。


 でも、この状況を見て、メルヘンな感覚がなんらかを捉えている。オレの考えるな、感じろセンサーも聖金を見たときから振り切れている。


「……なんかある……」


 まず間違いなくなんかある。いや、なんかいると言うべきだろうか。なにか、見られている感じがするのだ。


「姫さんたちは下がれ。オレだけでいく」


 さすがにお姫さんたちを連れていくわけにはいかねーよ。なんかあったら同盟にヒビが入るわ。


「ここまで来て下がれるか。我はいくぞ」


「わたしもいくぞ」


「わたしもです」


 絶対に引かぬと、オレを睨む姫さんズ。ったく、しゃーねーな。


「わかったよ。でも、危険と感じたらすぐに逃げろよ。オレは真っ先に逃げるぞ」


 今回はマジだ。姫さんズに向ける余裕はねーからな。


「……わかった。危険と感じたら逃げる」


 姫商人さんと乙女騎士さんも同意の頷きをした。


「村長さんは下がれ。プリッつあんもだ。ドレミ。プリッつあんを連れて下がれ」


「いく!」


「お供します」


 どちらも一歩も引き気はないらしい。まったく、しゃーねーな。


「わかったよ。なら、いくぞ」


 一蓮托生。なるようになるだ。


 そして、進むこと一キロちょっと。そこには……辛うじて人型とわかる石像らしきものが、いた……。

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