第701話 聖金の対価
「……深いな……」
以前、ハルヤール将軍から聞いたことがある。
人魚も朝起きて夜に寝る生き物だと。だから住む場所は陽の光が当たるところに造ると。
でも、村人人魚さんの村は陽の光が届かない谷の間。絶壁に巨大な貝を幾つも張りつけていた。
……深度百二十メートルと言ったところかな……?
「姫商人の国は、こんな感じなのかい?」
「いや、この地域だけだ。地上で言えば山岳地帯だな」
さすが姫商人。地上のことを勉強してるぜ。
「ここではなにが採れんだい?」
見た感じ、海竜とかはいねー……どころか、魚もいねーな。海草類は豊富なんだがな。
「昔は海竜の住処だったらしく、狩人の村が多くあったそうだ。だが、今は廃れるばかり。この村のようにハルム等がなければ生きてはいけんだろうな」
ハルムとは海草の一種で、拳大の実をたくさん生らし、人魚の主食となっている。
まあ、地上で言うところのイモか豆に該当するもので、人も食することができる。味としては豆に近く、潰して薄く伸ばし、窯で焼くとナンみたくなる。
もっとも、食感がいまいちで、うちでは不評なので保存庫の肥やしとなっているがな。
「見た感じ、そんなに食糧難には思えねーんだが?」
ハルムも結構生ってるし、年中実るもの。他にも食べる海草が見て取れる。豊ではねーが、国を越えてまでの難ではねーと思うんだがな……。
「人魚は肉を食わないと力が出ない。ハルムだけでは体が悪くなるのだ」
生命の神秘だな、その辺は。
人魚の村に到着。結界を広めて絶壁にくっつける。
まずは地上の生き物のために空気がある場所を創り、土魔法で覆う。海竜がいないとは言え、こんな場所に村を造るからには天敵がいるはず。そこに住む者のためにも偽装しましょうね。
「……お主はなんでもありだな……」
「人魚の魔法師より魔法師してますね」
「非常識な男だ」
なんだろうね。女三人揃ったら連携突っ込みをする決まりでもあんのか? まあ、股間がキュッとしないからイイけどよ。
「まずは、村長に話を聞くか」
調整役がいねーので、この国の者である姫商人に仕切ってもらう。よろしくねっ。
それに異論はないようで、わかったと言って結界から出ていった。
なら、来るまでティータイムといきますか。あ、姫さんたち、なんか飲む?
「……自由だな、お前は……」
「べーはどんなときもべーなのよ。気にしたら負けよ。それに、慌ててもしょうがないわ。わたし、白茶ね」
「そうね。ここまで来て騒いでもしかながないわね。わたしは、コーヒーをお願いします」
「我もコーヒーをいただこう」
なにやら男前なプリッつあんの言葉に気持ちを切り替えた姫さんたち。やだ、うちのメルヘンにオレの存在が消されそうだわ!
なんて言ったら鼻で笑われそうなので止めておこう。はい、白茶にコーヒーです。
茶菓子にクッキーを出し、パリポリ食ってると、姫商人さんと村人人魚さん、そして、おば──じゃなく、大きなおねーさんがやって来た。
「べー。こちらがこの村の村長だ」
「バレアと申します。お見知り置きを」
なにやら品のある自己紹介。こんな辺境の村の長とは思えねー雰囲気を持ってんな……。
「兵士だったのかい?」
「……よくおわかりで。はい。昔は騎士として国に仕えてました」
なんとなく、姫戦士と似てたからな。そうかと思ったんだよ。
「まあ、それはイイや。で、これのことを教えて──いや、その前に聖金を返しておくよ」
村人人魚さんが気絶してしまったので、オレが預かってたんだよ。
「話はカルバから聞きました。ですが、わたしにはいまいちわかりません。そんなに危険なものなんでしょうか?」
懐疑的な目を見せるが、それを無知と言うのは酷だろう。オレだって人魚の世界でなにが常識でなにが非常識かなんて詳しいわけじゃねー。知れと言うほうが無茶だわ。
「ああ、危険だ。海竜が何万匹も攻めて来るくらいにな」
結果、通りすぎた後はなにも残らないって状況になるだろうよ。
「まあ、それを知っているのはここにいる者だけだ。まだ手は打ちようがある。で、だ。姫商人。これをあんたの国で管理したいか? それならオレはスッパリと手を引くぜ」
正直言って関わりたくねー。任せろと言うなら熨斗をつけて渡してやるぜ。
「騙されちゃダメよ。べーがこう言うときは厄介事を押しつけるときだから」
キミはどっちの味方よ。オレの頭の上に住んでるなら家主の利になるよう発言しなさい。
「レシュ。我もプリッシュの言に同意だ。これは我々の手に余る。目先の欲に走れば国を滅ぼすぞ」
ほ~ん。なかなか先を見れるお姫さまだ。ハルヤール将軍の国は安泰だな。まあ、それまでの道は棘だけど。
「わかっている。今の我々では宝の持ち腐れだ。べーに任せる」
と言うので任されましょう。野放しにしたらオレの人生に波乱を呼びそうだからな。
「なら、聖金はオレが全部もらう。が、それ相応の対価はちゃんと払う。この村には百年先まで困らない食料を。姫商人さんの国には海竜機を優先させる。どうだい?」
海竜の肉は腐るほどあるし、海竜機は量産する。オレの手間はねーに等しい。
……なんつーか、盗っ人猛々しいな、この状況は……。
だが、その分、計り知れない苦労がついてくるんだ、安いとは言わせねーぜ。
「……わかった。承諾しよう。村長もそれでよいな?」
「は、はい。姫様の意に従います」
ならば、これは解決な。では、聖金の話を聞こうか。
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