第700話 艦隊司令官、レガノ

 陽が顔を出し、辺りを明るく照らし出した。


「海の上で見る朝日もまた格別だな」


 まあ、視界の隅に入る艦隊がなければ、だがよ……。


 前世でも見たこともねー艦隊を今生で見るとか、なんの逆転現象なんだろうな。意味わかんねーよ。


 カイナがドッグファイトをするための艦隊の割には統制が取れているようで、五百メートル先当たりで停止し、戦闘機やらヘリやらを発進させた。


「戦争じゃねーっうの」


 空を覆わんばかりの戦闘機とヘリに思わず突っ込んでしまった。


「べー様。小型の船が来ます。どうやら艦隊司令官のようですね」


 なにをもって艦隊司令官と判断したかは謎だが、まあ、それっぽい服を着ているところからしてミタさんの言葉通りなんだろうよ。


 ……まあ、なんかやたらと小さいセイワ族の方のようだが……。


「アダガさんの種族もいろんなのがいんだな」


 アダガさんは結構高身長なのによ。


「たぶん、セイワ族のサネド氏族の方かもしれませんね。サネド氏族は、皆さん小柄ですから」


 そう言やミタさん、魔大陸の出身でしたっけね。なんかいろいろ適応してたから忘れったわ。


「見た顔はあるかい?」


 こちらへとやって来る小型船には、六人ほど乗っていた。


 まだ距離があるのでオレの目では判別できんが、ミタさんの顔の広さ──って言うか、カイナーズホームでは、一目も二目も置かれてるんだよね、この万能メイドさんは。


「いえ、知っている方はいません。あたしもシーカイナーズは噂でしか知りませんので」


 ふ~ん。まあ、カイナの話では魔大陸を本拠地としているそうだからな。そうそう出会わないか。


 五分くらいで小型船が結界島へと到着した。


 使用能力範囲内なので小型船を固定させてやり、出迎えに向かった。


「初めまして。シーカイナーズ艦隊司令官、レガノと申します。お見知り置き」


 司令官と言うくらいだから五、六十を想像していたら、なにやら若い──いや、十代半ばじゃね? この司令官さん……。


 どーゆーこと? とミタさんに説明を求めた。


「カイナーズは実力があれば種族性別年齢に関係なく出世できます」


 艦隊で出世することにどんな得があるかは謎だが、まあ、カイナの自由。オレがどうこう言う資格はねーか。


「知っているとは思うが、オレは、べー。べーと呼んでくれや。司令官さんよ」


 頭の上からため息が聞こえるが、それ以上は聞こえてこなかったので話を続けます。


「さっそくでワリーが、司令官さんたちは空を飛んでいる飛竜艦を空母に降ろしてくれや。後は、待機してくれ。うちのミタさんを残しておくんでなんかあったら従ってくれ。ミタさん、知ってるよな?」


「はい。ミタレッティー様は、カイナーズで唯一の名誉部長ですので」


 なにやら突っ込みどころ満載だが、そこはスルーするのが礼儀です。なんのだよ! って突っ込みはノーサンキューダヨ。


 まだ村人人魚さんが来る気配がないので、友好を深めるために司令官さんたちとティータイム。なかなかおしゃべりが上手な方々だった。


「まあ、カイナ様の趣味で成り立ってますし、別に戦争している訳ではありませんから」


 なんでか聞いたらそんな答えが返って来た。


「部活かサークルのノリだな」


 あっし、これでも前世では大学を卒業してるんですぜ。まあ、だからなんだって話ですけどね。


 艦隊での日常を聞いていると、海から姫さんズが顔を出した。


「べー。来たぞ」


「おっ。早かったな」


 昼過ぎてもよかったんだが、流れるままに生きますか。


「わかった。用意するよ」


 まあ、用意ってほど用意はないんだが、そう急ぐこともねー。今のお茶を飲み干し、司令官さんたちに後のことを再度頼んだ。


「ミタさん。臨機応変に頼むわ」


 あれこれ言うより臨機応変に動いてもらった方がイイ結果に繋がる。それがミタさんクオリティーよ!


「はい。お任せください」


 優雅に華麗にお辞儀して見せる万能メイドさん。この人も進化がハンパないよね……。


「姫さんズは全員いくのか?」


 ここは、姫商人さんの国。他国の者が関わってイイんか?


「これは一国の問題ではない。そう思ったからべーが出張って来たのだろう?」


「まーな。人魚の、ってより三国同盟の危機にも等しい。これがバレたら人が大挙として襲って来るだろうよ」


 前世でも今生でも人の欲は変わらねー。聖金を持つ者が王者となる、なんて伝承が各地にあるくらい。絶対に来ると断言できるわ。


「ならば、我々も行く。異論はないな?」


 姫商人さんも事情がわかったらしく、真面目な顔でオレを見ていた。


「好きにしな」


 自分の国のために動いてんだ、オレに止める権利はねーさ。


「んじゃ、人魚の村にいきますか」


 嫌な予感を押さえ込み、海へと飛び込んだ。 

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