第683話 強制だ

「……う、ううっ……」


 買い取り専門の船を作っていると、ミタさんがやっと意識を取り戻した。


「ドレミ。ミタさんに冷たいタオルを渡してやれ」


「畏まりました。ミタレッティー様、これをどうぞ」


 万能生命体が濡れたタオルをどこから取り出し、ミタさんに渡した。


 状況がわからないようだが、濡れたタオルを受け取り、顔を埋もれさせた。


 ミタさんなりに状況を思い出し、整理しているのだろう。声をかけずに船作りを続けた。


「……ベー様。申し訳ありませんでした……」


「ん? なにがだ?」


 なに急に謝り出してんのよ?


「主に銃を向けるなどメイドとして最低です」


「気にしなくていいわよ。メイドをた──」


 なに気に会話に割り込んで来たプリッつあんを強制捕縛。余計なことは言わないの。


「気にするな、って言っても気にするだろうからそれはミタさんの好きにしたらイイ。オレは気にしないし、忘れるからよ」


 プリッつあんの目が蔑んでますが、まったくこれっぽっちも気にしませーん。オレは都合の悪いことは忘れる主義なんで。あ、でも、心の中で謝りますよ。盾にしちゃってゴメンね。


「……申し訳ありません……」


「おう」


 そうとしか言えないミタさんに、オレは軽く返事して船作りに集中する。


 まあ、動力のない箱船なので、外観さえこしらえれば充分。あとはプリッつあんの能力でデカくし、あとは結界を纏わせればお仕舞いである。


 簡単な作業のはずなんだが、ときどき出て来る凝り性があれこれ追加させ、なにやら予想以上にデカくなってしまった。こりゃ中に入れたら邪魔になるな。


 ん~。買い取りはヴィアンサプレシア号の外でやるか。大量に持ち込まれても困るしよ。


「ベー様!」


 すっかり意識の外に出していたミタさんが、無理矢理視界の中に入って来た。な、なんだい、びっくりしたなもー!


「ベー様! ベー様はなぜ種族に偏見を持たないんですか?」


「は? なんだい突然? 意味わかんねーよ」


 オレは集中すると周りの声が聞こえなくなんだ、話なら暇なときにしてくれよな~。と、言いたいが、ミタさんがマジな顔をしてオレを見ているので、しょうがなく飲み込んだ。


「で、なによ?」


 なるべく短く頼むよ。今日中には浮かべたいんだからさ~。


「ベー様は、なぜ全ての種族をそんな簡単に受け入れられるんですか?」


「別に全てを受け入れてなんかいねーよ。話してわかるヤツなら話すし、暴力で会話したいんなら暴力で返事してやる。ただそれだけだ」


 同じ種族だからって分かり合えるなんて幻想だ。自分の思想を押しつけるバカもいりゃあ、自分の正しさを押しつけるアホもいる。そんなヤツらを受け入れたりはしないし、理解もしたくねー。


「もちろん、種族によって考え方の違いはある。環境や文化の違いもある。でも、人族のオレとダークエルフのミタさんは、こうして面と向かって話していて、旨いもんを旨いと言い、気に入らないことは気に入らないと言っている。ほら、話はできてる。人種だ種族だなんて些細なこと。話して気に入ったから受け入れただけだ」


 当然、話して気に入らなければ受け入れたりはしねーよ。お互い縁がなかった。あとは関わらないようにするだけだ。


「まあ、それはオレの考え、主義主張だ。ミタさんが従う必要はねー。ミタさんはミタさんの主義主張を貫けばイイ。だが、オレといるならオレの主義主張に付き合ってもらう。これは強制だ。だが、一緒にいることは強制はしねー。いるいないはミタさんの自由意志だ。オレはそれを尊重するよ」


 プリッつあんの強制捕縛を解き、未完の船を抱える。


「まっ、それがベーだものね」


 プリッつあんがオレの頭の上にパ○ルダーオンする。


「マスターの思いのままに」


 猫型になりオレの肩につかまるドレミ。


「あ、いくんですか。では」


 やはりオレの背後に憑くレイコさん。


 いくいかないはそれぞれの自由意志。オレがどうこう言う資格はねー。勝手にしろ、だ。


「……あ、あたしは……」


 まったく、しょうがねーな。優柔不断なんてミタさんらしくねー。でもまあ、ミタさんがいてくれるのは助かるのも事実。これが最初で最後。オレからの強制だ。


「いくぞ、ミタさん」


 ニッコリ笑って手を差し出した。


 驚くミタさん。泣き笑いするミタさん。喜ぶミタさん。まったく、手間のかかる万能メイドだ。


「はい! 一緒についていきます!」


 強くつかんだ手を握り返し、人魚の国へと転移した。

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