第682話 万能幽霊
取り合えずメイドさんがいない竜宮島へと避難する。
「ふぅ~。参った参った」
気絶してるミタさんを床に放り投げ、オレも床に座った。
ここは、竜宮島にあるオレの工房だが、家具やクッションなのど生活用品はないのでしかたがないのだ。
「まあ、コーヒーがあればそれで充分だがな。あーコーヒーうめ~」
ドロン! からのコーヒーもまた格別だぜ。
「現実逃避してないで、なんとかしなさいよ。開店は明日なのよ」
非現実な生命体からの現実論。リアルファンタジーに泣けて来ます……。
「なんとかって言われてもな~。魂まで染み込んでる歴史を覆すなんてオレには不可能だわ」
簡単に覆すことができんなら、この世はもっと幸福に包まれているよ。そうじゃねーから誰しも苦しみながら生きてんだろうが。生きんのナメんなよ。
「その幽霊さんをなんとかしらた?」
「なんとかってなんだよ? 成仏させろってか?」
まあ、それも手だが、この幽霊は先生から拝借したもの。オレの勝手ではできねーよ。
「成仏反対! 幽霊にも幽権はあるんです!」
ねーよ、そんなもの。つーか、先生にそんな優しさなんてねーわ。
「自己主張の強い幽霊よね」
あなたは自己主張の強いメルヘンだからね。
「マスター。取り憑かせるのはどうでしょうか? 創造主様なら肉体だけを創れます」
あー。確かにエリナなら可能かもな。生命を冒涜するの得意だし。
「レイコさんって、取り憑くことできんのか?」
「できませんよ。悪霊じゃあるまいし」
なんかさも当然のように返された。幽霊なのに!?
「なにか誤解があるようですが、幽霊に夢を見過ぎです。幽霊、そんな万能ではありませんよ」
いや、幽霊に夢を見たことはねーが、確かに思い込みはあったかもな。前世の幽霊とこの世界の幽霊が一緒なんて思い込みも甚だしいぜ。
「まあ、取り憑いた相手を操ることはできますがね」
なぜか自慢そうに胸を張るレイコさん。ってか、完全に悪霊の所業だよね、それ!
「あ、大丈夫ですよ。強い意志を持つ方には効かないですから」
なんの慰めにもなってねーが、オレの周りは我の強いヤツばかり。害はねーだろうよ。
「う~ん。取り憑くことができねーとなると、姿を消してもらうしかねーか?」
消えることはできるって言ってたしよ。
「ん~。どうでしょう? ダークエルフ族は霊感が強い種族ですからわたしの霊力に気づくかもしれませんよ。その霊感のせいでリッチに支配されてましたからね」
言われてみれば見るより気配を感じて恐れていたっぽい。それでなくてもミタさんは勘がよさそうだしな。
「んじゃまあ、オレの力で霊力、か。それを遮断して、オレにだけ見えるようにするか」
「それ、自ら取り憑かれにいくようなもんじゃない?」
例えそうだとしてもレイコさんの知識は必要なんだ、ここは堪えるしかねーだろう。
レイコさんを霊力遮断の結界と姿を消す結界を纏わせる。考えるな、感じろでやってみたが、どうよ?
「うん。見えなくなったわ」
どうやら成功したようだ。結界超便利、だぜい。
「で、戻るの?」
「いや、もうしばらくここにいるよ」
サプルのあの怒りからして一時間(掃除する時間ね)もすれば収まるだろう。それまではここにいるのが賢明だ。
「それに、買い取り専門船を造らんとならんしな」
あと、ミタさんの復活を待たねば。
「オレはこれから船を造るが、プリッつあんはどうする?」
趣味も趣向もまったく違うのに、なぜかオレの頭に住み着くメルヘン。どちらかと言えばサプルの頭の上に住むほうがプリッつあん的にイイんじゃねーのか?
「ここにいるわ」
頭から飛び立ち、鞄から敷物やらクッションやらを取り出し、編み物を始めた。
まあ、プリッつあんの能力はもはやオレに必要な能力。いてもらった方が都合はイイし、いろいろ役に立つときもある。
……未だによーわからん摩訶不思議生命体ではあるけれどね……。
好きにしろと意識から外し、材料庫から材料を持ち出して買い取り専門船を造り始めた。
「ベー様は、錬金術師なんですか? 錬金の指輪をしてますけど」
「いや、たんなる趣味でやってるものだよ。さすがに難しいものは造れねーさ」
設計図もなしに勘だけで造るもの。不出来なところはあるし、不具合もいろいろ出る。だから試行錯誤で造って行くのがオレのやり方だ。
「それにしては精巧ですね? まるでもとの型を知っているような手順です」
ほ~。さすが調査員。こーゆーことにも知識はあるんだ。
「レイコさんは錬金術に興味があんのか?」
「錬金術だけじゃなく薬学や学問にも興味がありますよ。わたし、好奇心が強いので」
世が世なら、じゃなく、生きていたら大賢者になってたかもな。
「まあ、ご主人様の命令でいろいろいっているうちにおもしろくなって来たんですけどね」
「幽霊でも成長するんだな」
「そうですね。我ながら不思議です」
ふふと可笑しそうに笑うレイコさん。表現は正しくねーが、活き活きしてんな。
「そうだ。薬学も好きならこれを見てもらえるか」
無限鞄からアリテラからもらったカランコラを取り出した。
いろいろ忙しくて触りしか見てねーんだよな。レイコさんに見てもらって覚えてもらうのが早いかもな。
「あ、エルフの言葉、わかるか?」
「はい。エルフの里には何度もいきましたからバッチリです」
……あなた、結構万能な方ですから……。
「そ、そうかい。なら、それに触れ……られねーか」
幽霊だしな。あまりにも存在感あるからすぐに幽霊であることを忘れるよ。
「大丈夫ですよ。カランコラは霊力でも反応しますから」
「知ってんの、それ?」
それ、秘伝的もんじゃなかったっけ?
「はい。ご主人様もこれと同じもので記録してましたから」
さすが先生。底が見えねーよ。
「んじゃ、それを見て、あとで教えてくれるか?」
「はい、わかりました。ラジニア」
カランコラを発動させ、映るものに集中し始めた。
……まったく、この世界は謎に溢れてるよ……。
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