第684話 ノリと雰囲気と勢いです
ヴィアンサプレシア号の甲板へと出現する。
「……雨か……」
まあ、お伽話の世界っわけじゃねーんだ、天候くらい変わるわな。
嵐、ってほどではねーが、海上だけあって風が強いし、波も高い。さすがの人魚も海の中だろう。
「って、いるよ」
つーか、増えてね? なんか烏賊船まで停泊してるし。
「ふわぁ~! 人魚がいっぱいですね~。海上にいる人魚なんて初めて見ましたよ」
背後で驚きの声をあげる万能幽霊レイコさん。ワイルドワイドでワールドワイドなレイコさんでも初光景はあるんだな。
「レイコさんって、人魚の国には来たことあんのか?」
「北海の国ならいったことありますよ。南海に来たのはこれが初めてですけど」
言っておいてなんだが、本当にワールドワイドな幽霊だったのね……。
「人魚って結構広く分布してんだな」
海の中、意外と文明開化してんのか?
「そうですね。どちらかと言うと人魚は寒さに強い種族で、北半球に多いですかね? 反対に南半球は魚人が多いですよ」
この世界の地図なんて見たことねーが、隊商からの話や気候から見て、うちの村は北半球っぽい。そこから飛空船で四日ほど南下。一日約二百キロだからまだ北半球に入っている感じか?
「まあ、魚人にもいろんな種族がいますから、一概には言えませんけどね」
だよな。帝国付近にも魚人の帝国があるし。
「この世は命に溢れてんな」
その分、弱肉強食が激しいけどよ。
世界の大きさはもっと暇なときに感じるとして、買い取り用の船を浮かべますかね。
結界を展開しているので雨風関係なし。甲板から海に飛び降りた。もちろん、皆でな。
「びっ、びっくりした~! 飛び降りるなら言ってくださいよ!」
……レ、レイコさん。自由意志でついて来てるんですよね? マジ憑いてるのとかなしですよ……。
「幽霊に止まる心臓ねーんだ、死ぬことねーだろう」
「びっくりするものはびっくりするんです。幽霊をなめないでください」
あなたの存在が生命に対してナメてますからね。幽霊の生態(?)なんて一生知りたくねーわ!
憤懣やるかたない気持ちを無理矢理押さえつけ、買い取り用の船を海に浮かべた。
「うん。ちゃんと浮かぶな」
結界で波や風を塞いでいるが、静かな状態ではちゃんと浮いている。あとは錨を下ろして固定すれば問題あるまい。
「おもちゃなんて浮かべてどうするんです?」
「おもちゃじゃねーよ。まあ、見てな」
論より証拠。百聞は一見に如かず、だ。
五メートルくらい離れ、プリッつあんの能力で買い取り用の船──名前がねーのもしまらねーな。よし、海宝丸かいほうまるにしよう!
意味は? んなもんノリと雰囲気と勢いだぜ!
「この船の名は、海宝丸。何でも買い取り店一号店だ!」
ハイ、ノリと雰囲気と勢いです!
十五メートルまでデカくなった海宝丸へと乗船する。
海宝丸は、基本船だが、人魚に合わせて買い取りは海の中で行う。なので、船底に円筒形の筒を取り付け、そこで買い取りをするようにした。
まあ、結界で海宝丸を囲むので店は広くなり、大量のものを買えるように工夫はしてあるし、対応できるようにしてある。
「浸水はねーな。よしよし」
各所を見て回り、ヒビや穴がないことを確認する。
「ベー様は変な能力を持っているんですね。物を大きくさせる能力なんて初めて見ましたよ」
「これはプリッつあんの能力だよ。オレはそれを借りてるだけさ」
「あ、共存契約ですか。そう言えばプリッシュさん、妖精でしたね」
そう言えばって、レイコさんにはプリッつあんがどんな風に見えてたの?
「ベー様。人魚の方が集まって来ました」
甲板でヘタっていたミタさんが、下りて来た。
「人魚が? なんだってんだ?」
「開店したと思われたんじゃないんですか?」
あ、ヴィアンサプレシア号でやるっては言ったが、中でやるとは言ってねー……よな? まあ、どっちにしろ告知不足だったな。
「ちゃんと告知しておくか」
甲板へと上がると、続々て人魚たちが集まって来るところだった。
結界拡声器を創り出す。
「あーあー。テストテスト。本日は暴風なり。本日は暴風なり。おし。感度良好~」
「なんです、それ?」
ノリと雰囲気と勢いってヤツです。
「集まってくれてワリーが、開催は明日。あの船の中で行う。ただし、買い取りはここで行うので間違えないように」
繰り返して告知するが、これだけでは不充分だな。もっと広く告知しねーとトラブルの種になるかもしんねー。
「ミタさん。コーラン持ってるか?」
何台か無限鞄には入れてるが、操縦が下手なオレには宝の持ち腐れ。肥やしとなってます。
「はい。持ってます」
「んじゃワリーが、今言ったことを人魚たちに広めてくれや。オレは明日の用意をしなくちゃなんねーからよ」
レイコさんに脅えて手伝いになんねーし、告知してくれや。
「……わ、わかりました……」
普段なら断るところだろうが、レイコさんの存在を受け止められねーようで、今は距離を置くことを選んだようだ。
「わたしもいくわ」
と、プリッつあんがオレの頭の上からミタさんの頭の上へと乗り換えた。気配り上手なメルヘンだ。でも、ありがとよ。
コーランを出して飛び立つミタさんとプリッつあんをしばし見送り、視界から消えたところで開店準備に取りかかった。
「……優しいんですね……」
レイコさんの呟きに、肩を竦めるだけで応えた。
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