第676話 守護神ズ

 転移した場所は、海老島のヴィアンサプレシア号の前に現れる。


 これと言って変化はないようだ。人魚の姿……はあるな。順番待ちか?


 別に入場制限をかけるほど狭くはねーんだが、言ったところで聞く訳ねーしな、好きにしたらイイさ。商人としての性がそうさせてんだろうからよ。


「人魚の国か。いるのは知ってたし、何度も見たことはあるが、こうして人魚が沢山いるところを見ると、世界は広いなと思うよ……」


「ああ。いろいろ見て来たと思ってましたが、こんな光景もあるのですね」


「己の小ささを感じるな」


 人外ズがどれだけ長く生きようと、世界を全て見るなど不可能だろう。世界は常に変化し、この光景は一度しか訪れねーんだからな。


「世界を観たいなら飛空船の一隻でもくれてやるよ」


 旅をするくらいなら二十メートルもあれば充分だろう。それなら大した時間を必要とせず造れるだろう。動力部は博士ドクターで骨格や外観はオレの土魔法、錬金の指輪で簡単にでき、内装はカイナーズホームで揃えたらイイんだからな。


「飛空船を一隻やるとか、大国の王でも言わないぞ」


「言える以前にそれをできる王なんていないですよ」


「それで村人とか言い張るのが理解できんわ」


 理解されなくて結構。オレが納得できればイイんだからよ。


「そんなことより、王さまと会えるように段取ってくるからしばらくそこら辺を観てろ。ただし、遠くには行くなよ。探すの大変だからよ」


 人外の行動力と行動範囲なんて知らねーし、ここら辺の土地勘なんてねーんだ、見失ったら最初からいねーものとするからな。


「そりゃお前だ。聞いたぞ、あの魔神から四日も逃れるとか、おれらでも無理だわ」


「お前の逃げ足、もはや神がかりだからな」


 なにやら藪蛇な感じ。サラッと流しましょう。では、海へダァーイブ! あ、またミタさんを置いて来ちまった。


 と、思ったら、横にミタさんがいた。もう対応したのか、このフリーダムメイドは……。


 まあ、オレもこのフリーダムのやることにはスルーする対応を以前からしてますがね。


 門まで来ると、門兵さんがオレを見て、持っていた槍を目の前に掲げてみせた。通ってイイってことかな?


 まあ、ダメなら止められんだろうと、構わず門へと進み、あっさりと入れた。顔パスなのか?


 なんでもイイやと、前に案内された部屋に向かっていると、姫戦士とばったり会った。


「おう、お邪魔してるよ」


 家主の娘(ざっくり言えば)。挨拶はせんとな。


「……神出鬼没だな、お主は……」


 はぁ? なに言ってんだ、この姫戦士は?


「王さまに会わせたいヤツらがいるんだが、会えるように取り計らってくれねーか?」


 一国の王に会わせろとか無茶なことを言っているのは理解してるが、あの王と王妃を見て敬えとか無理だろう。それに、あの王さまは、部下に仕事を任すタイプと見た。


 別に無能とは言ってねーぜ。あれは適材適所って言葉をわかっている王さまだ。どちらかと言えば、できる王さまだろう。


 ああ言うタイプとは気軽に付き合うのが一番。腹の探り合いなんてしても無駄だ。アレは物事を直感で見極めるからな。


 ……オレと似たタイプ。なら雑に扱う方が喜ばれるるさ……。


「わかった。あの父と普通に話せる者は貴重だからな」


 だろうな。自分を貶めるようでなんだが、直感で動くヤツはなかなか理解されないもの。さぞや苦労していることだろうよ。


「助かる。んじゃ、連れを呼んで来るよ」


 来た道を戻り、地上へと出る。


「段取って来たからいくぞ」


 と言ったら変な顔をされた。なんでだよ?


「どんな名外交官でもこんな短時間で一国の王と面会できるなんてあり得ないからな」


「どんな脅迫したんだよ」


「お前にかかると国の威厳とか無意味になるな?」


 なにか失礼なことを言う人外ども。脅して会いそうなのはテメーらの方だろうがよ!


「グダグダ言ってねーでついて来いや!」


 ったく、こいつらはなんか言わねーと気が済まんのか! 先に進まねーじゃねーかよ。


「つーか、海ん中入れるか?」


「まずそれがどれだけあり得ない質問か自分に問うてみろ」


「それは人に魚になれと言っているようなもんですよ」


「当たり前に言うお前が変なんだからな」


 ハイハイ、なんでもイイよ。ほら、結界を張ったからいくぞ。


 ちんたらやってたら夜になっちまう。ちゃっちゃといくぞ、ほら!


 グダグダ言う人外どもを連れて海の中へと入り、王さまのところへと向かう。


 この城の警備、ちょっと少なくね? と思うくらい兵士に会わねーな。休みか?


「話には聞いてたが、人魚の魔法はえげつないな」


「ああ。並みの魔術師では看破できんぞ」


「仕掛けたのは大魔導師級だな」


 オレにはまったく感じないが、人外ズが言うんだから相当なものが仕掛けられてるようだ。なら、兵士がいねーのも当然か。


「それを知っても微動だにしない村人とはこれいかに?」


「きっと神界にある村の住人なんだろうよ」


「いや、魔界にある村の住人じゃないか?」


「どちらにしてもおれらとは違う次元の村人なんだろうよ」


 うっせーよ! どこにでもある国のどこにでもある村の住人だよ、オレは!


 もう口に出すのもメンドクセーので心の中で突っ込んだ。


 スルーにスルーを重ねてやっと王さまのところにやって来た。なんか一日分の仕事をやった感じだよ、クソが……。


「おう、王さま。お邪魔してるよ」


「いらっしゃい。今日はどうしたの?」


 今日も呪いが絶好調。そして、横にいるヤヴァイ王妃も絶好調。ヤヴァイ度マックスです。


「ああ、なるほどな」


「確かに、あれには近づきたくないな」


 とか言いながら恐れる素振りは皆無。ああ言うのに強いのか?


「まあ、あの居候よりはマシだろう」


「だな。あれは下手な魔王より魔王だものな」


「あれにさすがに勝てない」


 い、居候さん、あなたどんなだけなの……。


 怖いことは極力スルー。聞かなかったことにしよう。うん。


「新たに異種族国家の守護神になった人外どもの紹介と、友好国へのご挨拶さ。これは土産だ。受け取ってくれ」


 酒の精霊が生み出した酒を熟成させた樽と、王さまが好きな焼酎を何種類か出した。


「悪いね。ありがたく受け取らせてもらうよ」


 これは国からのもの。さすがのヤヴァイのも無下にはできまいて。まあ、怖いのでヤヴァイものから目は反らしてますがね。


「ようこそ、守護神どの。わし、クローリッツ・リグナート・リバーブル。よろしくね」


「こちらこそよろしくだ、偉大なる王よ」 


 代表してガーが答えた。


 うんまあ、なにを持って偉大かは察してください。オレもこの王より偉大な王は知らねーしな。


「んじゃ、後は任せた。じっくりと友好を深め合ってくれや」


 オレのお仕事終わり。では、速やかに撤退。健闘を祈る、守護神ズ!

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