第672話 守護神
イタリア~ンな店主が作った朝食をいただき、ドワーフのおっちゃんの嫁さんが淹れてくれたお茶を飲みながらゆったりしてると、ピンク髪のガーがやって来た。
「おう。おはよーさん。早いな」
昼前までは待つ覚悟はあったんだが、思いの外早く起きて来たな。
「いや、寝坊さ。わたしは、もっと早く起きる質だからな」
酒の気配はねーが、あまり爽快な感じはねー。早寝早起きのタイプか?
「そうかい。で、他は?」
「豪快に寝てるよ。あれはしばらく起きないだろうな」
「ふふ。イイ人生でなによりだ」
人外ズの過去は知らんが、今を楽しく生きてるのはよくわかる。他人の人生ながら心地好いぜ。
「……お前さんは本当に壁を作らんな……」
「作りたいときは作るさ。作らなくてイイのならわざわざ作ってらんねーよ。メンドクセー」
オレにだって好き嫌いはあるし、好きなヤツより嫌いなヤツの方が多い。聖人君子じゃねーんだ、全てを愛するなんて無理だ。
だが、気に入ったヤツにメンドクセーことはしたくねー。素直に、思いのままに相手するのが楽ってもんさ。
「そうだな。確かに面倒だな」
爽快ではねーが、楽しそうに笑うガー。イイ顔するぜ。
席に座ると、女将が出て来てお茶を出した。
「朝食にしますか?」
「いや、お茶だけでいい。あまり食べたくないのでな」
わかりましたと、お節介なことを言わず、笑顔で厨房に下がっていった。
「いい宿屋だな。清潔で居心地がよく食い物や酒が旨い。なにより 刺激があっておもしろい。今になって人生が楽しいよ」
人外ズは、オレより遥かに年上だが、人外社会ではまた新参者。まだ若い分類だろう。
グレン婆やご隠居さんが活躍した時代どころか、人外国を建国した時代も知らねーはずだ。知っていたら今の状況を懐かしむはずだからな。
異種族国家を創るのはオレのスローライフを守るためだし、バンベルの頼みでもあるが、別に国を創りたいからやっている訳じゃねー。そこに熱い思いも強い意志もねー。なるようになるの気持ちでやっている。
国を創る。前世の記憶があり、平和で恵まれたオレには国がどれほどの価値があるかピンとこねーってのが正直な感想だ。
だが、国を創り、守るには力が必要なのは知っている。
力は金だったり人だったり武力だったりいろいろだ。どれが大事ではなく全てが大事だ。
これはオレの勝手な持論だが、力は総合的にあるこそが一番強いと思っている。
別に特化してることに否定はねーが、特化型はジャンケンだ。必ず負かす手がある。
個人ならまだ逃げもできるが、国となったら逃げもできねー。必ず一対複数の戦いを求められる。グー一つで勝てるヤツがいるんならそれは神さまだ。人じゃねー。
だがと思う。この世には、人でもなく神でもねーヤツがいる。人の外。神の外。でも、人の世にいる外の者。自らの意志で外にいるものが。
そんな者をオレは自由だな~と思う反面、寂しいな~とも思う。
まあ、これはオレが人の世にいるから。人でいることに誇りを持っているからだろうがな。
「ガーたちに故郷ってのはあるかい?」
「故郷? まあ、あるにはあるが、もう捨てたところだ。今は根無し草さ」
その言葉に含まれた感情はわからねーが、今の自分の判断に後悔はねーのはわかった。
「なら、故郷を持ってみねーかい。今なら目の上のタンコブがいねーぜ」
ご隠居さんたちが聞いたら激怒しそうだが、ガーたちにしたら頭の上がらない存在のはずだ。ご隠居さんとは明らかに力の差、格の差、経験の差、なにより故郷に対する思いの差がある。
でなければあんな過保護にはなったりしねー。思い入れが強過ぎて王都に縛られているもの。
まあ、だからって否定はしねーし、ガンバれと応援もするぜ。ただ、協力はしねーぜ。だってそこはオレの守りたい故郷じゃねーんだからよ。
そんなオレの考えを探るようにガーの視線が痛いが、お茶を飲みながら好きにさせた。
「その話、乗った!」
と、忽然とアーガルが現れた。
「わたしも乗りますよ」
ナッシュも忽然と現れる。
「余も乗るぞ。あの老人たちが創った故郷よりおもしろくしようではないか」
「そうですね。あそこは刺激が足りませんし」
バックスとマイノも現れる。酔い潰れてたんじゃなかったのか?
「なら、わたしも乗るとしよう。こいつらにやらせたら潰れかねんからな」
「王さまやってたからって威張んな」
「まったくです。内政は部下任せだったクセに」
「危うく財政難になりかけてグレンに泣きついてたっけ」
「うるせー! あ、あれは若かりし頃の失敗だろうが! 中盤からは盛り返しただろうがよ!」
なんて高校生のノリで騒ぐ人外ズ。なんか羨ましいな……。
まあ、なんにせよだ。守護神ができてなによりだ。これなら帝国にも強気で出れるぜ。ククッ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます