第673話 封印は解かれた
「それで、わたしたちになにをさせたいのだ?」
イイ具合に纏まり、この中でリーダー的位置にいるガーが真面目に問うて来た。
「人魚の国にいって接待して欲しい」
オレの答えに五人が眉をしかめた。
まあ、無理もねー。そんな俗世が嫌で人外になったような連中だ。あ、いや、オレの勝手な想像だが、あながち間違ってはいねーはずだ。
五人の過去は知らん。興味はあるが聞こうとは思わねー。それぞれいろいろあっただろうし、触れられたくないことの十や二十あるはずだ。
親しき仲にも礼儀あり。語るのなら聞くが、語らねーのなら聞かねー。それがオレの主義なんでな。
「まあ、接待と言っても王さまと適当に酒盛りしてくれたらイイよ」
あの王さまならそれで充分だろう。
「……随分とその王さまとやらを気に入っているようだな?」
アーガルにはそう見えるようだ。
「まあ、気に入ったってよりは、同じ男として同情した、って感じかな? 嫁さんに呪いかけられて好きな酒も飲めんようだし」
女好きの方は知らん。ヤヴァイのに恨まれたくねーもん。
「嫁さんって、王妃がなんで王を呪うんだよ。意味わからんわ」
「オレだって知らねーし、知りたくもねーよ。オレは、ああ言う女が苦手なんだ」
人それぞれの個性だ、否定する気はねー。だが、好き嫌いはどうしようもねー。なら、近づかないようにするだけだろうよ。
「お前にも苦手なのがいるんだな」
「あるに決まってんだろうが。ぶっ飛んだ女には近づきたくねー!」
害がねーのなら好きにしろだが、ああ言うのは周りに害しか与えねー。しかも、なぜだか苦手なヤツに向かって来る。
ふざけんなと言える性格だが、ああ言うのは言うだけ無駄。それどころか逆恨みされて全力で向かって来やがるのだ。
「オレは苦手なヤツには近づかねーし、逃げるよていにしている」
情けねーと言うのなら好きなだけ言いやがれ。オレは安らぎのためならどんな罵倒でもスルーできるし、手段は選ばねー!
無限鞄から護符が何十枚と貼られた小瓶を取り出した。
「王さまと酒盛りしてくれるならこれをやる」
「なんだ、その物々しいのは?」
「やけに厳重に封印されてるな。なんの厄災が入っているのだ?」
「精霊封じによく似てるな」
「それも高位の精霊術師によるものだ」
魔術だか魔法だかの系統は違くても、これが厳重に封印されているのはわかるらしい。さすが人外だぜ。
「正式名称はねー。偶然の産物で、生まれてすぐに封印されたからな」
オレも話に聞いただけで、実物は見たことねー。その力も聞いただけに過ぎねー。だが、こいつを必要とする者がいるとしたらこの人外ズしかいねーだろう。
オレには無用で、封印を解きてーと思う存在じゃねーからな。
「これは、人工的に生み出された酒の精霊だ」
人外ズの目が『なに言ってんだこのアホは?』になるが、そうなる気持ちは痛いほど理解できる。オレも聞いたときはそんな目をしただろうからな。
……まあ、実際、先生は究極のアホだしな。突っ込む気にもなれんかったよ……。
「この人工精霊を創った者もなぜ酒の精霊になったかはわからんようだが、酒の精霊としては特級らしい。生み出す酒は例えようもねー美酒となり、千差万別の味を生むらしい」
らしいと言ってるが、酒の飲めねーオレには美酒がなんなのかもわからんし、味に違いがあることもわからん。どれも先生の談だ。
「実験で黒竜王に飲ませたらしいが、一口で虜となり、無類の酒好きになったらしい。で、これが黒竜が封印された壺な」
なんでも飲めないのなら一緒に封印してくれとお願いしたらしいぜ。つーか、もう呪いだろう、それ。
「一緒に酒盛りに混ぜてやってくれ」
暴れん坊な黒竜だったようだが、虜となってからは丸くなり、ただの酒好き竜になったってよ。うん、呪いだわ。
「……なんと言うか、お前を見てると自分がちっぽけに思えてくるよ……」
「人工精霊を生み出す者と知り合いとか、そりゃ、グレン婆に気に入られる訳だ。もう次元が違うわ」
「なんかこいつに人外とか言われるの、侮辱に思えてきたぜ」
「ですね。わたしたちなんて一般人もいいところです」
「酔どれ黒竜、昔、寝物語に聞いたぞ。まさか本当に実在してたとは。お前、魔神かなんかか……?」
人外ズからの失礼なお言葉。封印を頼まれただけのオレに関係なくね?
「まあ、なんでもイイよ。受け取るのか受け取らねーのか決めやがれ」
オレはどっちでも構わねーよ。好きにしろと言われてるからな。
「その、酒の精霊は、害はないのか?」
「精霊の格としては大きいらしいが、できるのは酒を生み出すことぐらいだ。生まれて直ぐに封印されたからな。長く生きたら酒の精霊術が使えるんじゃねーの?」
酒の精霊術がなんなのかは知らんがよ。
「どうする?」
「どうするって、どうするよ?」
「もらうしかないだろう。黒竜を酔わせた美酒だぞ」
「ですが、虜となったらどうするんですか?」
「それも今更だろう。あの魔神が出す酒の虜となっているのだからな」
目と目で語り合う人外ズ。どうやら答えは出たようだ。
言葉に出す前に小瓶をアーガルに向けて放り投げた。
「護符を外せば封印は解かれる」
また、目と目で語り合う人外ズ。そして、封印は解かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます