第671話 宿屋の女将
「――ふげっ!」
なにかオデコに当たり、眠りから覚醒した。
な、なんだ、いったい!?
上半身を起こして辺りを見回すが、これと言った……ものがありました。一升瓶に入ったプリッ酒が……。
「つーか、この状況、前にもなかったっけ?」
ほんと、なんなんだよ、この謎状況はよ?
気にはなるが追求はしたくねーので結界刀でパッカーン。一升瓶から生まれたプリ太郎。特に意味はなし。
「ドレミ。頼む」
泥酔プリ太郎をメイド型ドレミに放り投げた。
オレがやると水の張った洗面器に突っ込みそうなので、万能メイドにお任せです。丁重に殺っちゃってください。
拘束パジャマからいつもの服に着替え、洗面台へと向かいすっきりさっぱりさせる。
身だしなみきっちり気持ち爽快、S級村人ここに見参。キラン! とかやってるのはナイショだよ。
「マスター。プリッシュ様を洗いました」
キレイさっぱりしたプリッつあんだが、まだ酒が抜けてないのか、ぐでんとなっている。が、構わずパ〇ルダーオンさせる。ほっとくとうるさいからな。
そのまま部屋を出ると、婦人も部屋から出て来た。もしかして起きる時間、同じか?
「おはよーさん」
「おはようございます。また帰ってたの?」
婦人、夜はいろんな人とイタリア~ンなレストランで会食してるんだとよ。ご苦労さまです。
「ああ。三――じゃなく、二日後にあんちゃん主催で人魚相手に商売するんでな、その打ち合わせだ」
あれを打ち合わせと言ってイイかは謎だがよ。
「……ゼルフィング商会は、関わっているのですか?」
なにやら厳しい目を向けられます。
「いや、ゼルフィング家は関わるが、商会はノータッチ……じゃなく、関わらない。まあ、オレは関わるがな」
ゼルフィング商会の会長たるオレが関わるなら商会も関わるのが普通だが、商会を立ち上げたとき、サイフは別にしてある。今回はオレのサイフでの商売。商会は関係ねーのだ。
「関わるときは事前に報告をお願いしますよ。ベーの中では軽い買い物でも凡人から見れば一世一代の大取引なんですから」
「ハイ、関わるときは必ずご報告させていただきます!」
誠心誠意、敬礼して答えた。
では、失礼しますと、逃げるように立ち去った。
玄関まで来ると、なにやらメイドさんでごった返していた。集まるの早くね?
「おはようございます、ベー様」
ミタさんも結構早起きで、会うときはオレ以上に身だしなみ完璧で、気分爽快な笑顔を見せているのだ。
「おう、おはよーさん。もういくのか?」
感じからして今にも出発のようだが。
「はい。アバール様が朝一番からお願いしたいとのことでしたから」
さすが先生が考えた秘薬。マジで寝なくても五日は起きてられそうだな。あ、反動を殺す栄養剤を渡すの忘れてた。ドレミに渡してなんとかしてもらおう。はい、ドレミ。君に任せた。
「誰が仕切ってんだ?」
大元はあんちゃんでもメイドさんを仕切るのはメイドさんの誰かだ。副長さんでもいんのか?
「第四副長のターバリスさんが仕切るそうです」
ミタさんの指差す方向に、青鬼族の女の人がいた。ダークエルフではねーんだ。
第一陣は全員がダークエルフだったし、館で見るのはダークエルフがほとんど。たまに人族や蒼魔族がいるくらいだ。
「わたしたち、ダークエルフはベー様、サプル様の直属で、第四陣からはゼルフィング家に仕える立場です」
それになんの違いがあるのかはわからんが、まあ、好きにしたらイイさ。オレやサプルの人生に支障はねー。邪魔になるなら切るまでだ。
「ふーん。まあ、なんでもイイや。んじゃ、しっかり働いて来てくれや」
仕切るヤツがいるんならオレが口出すことはなにもねー。あんちゃんにマルっとサクっとお任せしますだ。
「ターバリスさん、それでは後をお願いしますね」
「はい。お任せくださいませ、ミタレッティー様」
「はい。ではいってきます」
なにやらメイド階級が高くなってるようで。でも、フリーダムメイドに関係ないようで、少しも偉ぶることはなかった。
外に出ていつもの習慣を済ませ、宿屋に向かった。
プリッつあんがあの状態で帰って来たと言うことは、人外どもが来ていると言うこと。オレの勘では宿屋にいると叫んでいる。
「あら、ベーさん。おはようございます」
日に日に訛りがなくなって行くドワーフのおっちゃんの嫁さん。イイ年なのに成長がスゲーこと。
「おはよーさん。アホ五人はいるかい?」
「ふふ。プリッシュさんがいるからそうだと思っただが、やはりベーさんの知り合いだったかや」
否定しねーところを見ると、やはりアホなことをやってたようだな。
「まーな。で、そのアホどもは?」
オレの知り合いと言うよりプリッつあんの飲み仲間って感じたがよ。
「まだ寝てるだよ。昨日、遅くまで騒いでいたんでね」
あのアホどもは酒盛りしか知らんのか? まあ、なんでもイイけどよ。
「なら、起きるまで待つよ。あ、なんか食うものを頼むわ」
せっかくだし、宿屋の料理でも試食するか。
「はい。すぐにお持ちしますね」
宿屋の女将の顔になって厨房に下がっていった。
なんだか、こんな辺鄙なところでやらせるには惜しくなるな。あの器量なら王都でも充分にやってけそうなのに。
だがまあ、ああ言う嫁さんだからこそ、ここを任せられるんだけどな……。
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