第667話 歌姫の海
海老島に立つと、なにやら人魚がたくさんいた。
まあ、人魚の国に来てるんだから当然なんだが、あきらかに兵士ではない一般人(魚)。まるで市に来たかのような賑わいだ。
「なんですかね?」
ミタさんにもこの状況はわからないようで、不思議そうに首を傾げていた。
「あ、あんちゃん!」
なんじゃろほいと眺めていると、空からサプルが降ってきた。
……最近のマイシスターは空も飛べるようになったのか……?
「どうした、サプル?」
「人魚さんが買い物させろと大変なの!」
あん? 買い物? またなんでよ? 意味わからんぞ。
よくよく話を聞き、話を纏めると……どーゆー意味よ、ミタさん。オレにはマイシスターの説明がなに一つわからんかったよ。
……かろうじてドロティアちゃんの展示会をしたらこんな状況になったとしかわからんかったぜ……。
「ドロティアちゃんをきっかけに、地上のもの出したら人魚の商人に知られて押しかけたようです」
さすがミタさん。よくわかったこと。
「つーか、ここ軍事基地じゃなかったのかよ。一般人が来れるってどんだけ無防備だなんだよ」
それとも人魚の世界では軍事基地でも一般開放されてんのか?
「まあ、イイ。オレが話をつけてくるよ」
人魚との商売はあんちゃんに任せている以上、うちが独占するわけにはいかねー。ゼルフィング商会は国を相手に商売すんだからな。
魔術で花火を上げ、群衆の目をこちらに集めた。
「オレはゼルフィング商会の会長、ベーだ。ワリーがもう売るものはねー! だが、それで納得できねーだろうから、三日後、あの船の中で市を開く。ただ、こちらも予定があるので一日だけの開催となる。あと、買い取りも行うので、商人の方々はこれこそはと言うものを持って来てくれ。気に入ったものがあれば言い値で買わしてもう」
さて。それで納得してくれたら助かるのだがと、不敵な笑みを浮かべながら群衆を見詰めていると、その中の何十人(魚)が慌てたように海の中に潜って行った。
……商人だな。それも先見の明がある一流の商人……。
それにつられたのか、徐々に海の中へと潜っていく人魚たち。まあ、なんとか場は収まったな。
「あんちゃん、あんなこと言って大丈夫なの? もうあたしの持ってるものや船のものはないよ」
「なけりゃ仕入れりゃイイし、人手なら我が家に沢山いるだろう。それにあんちゃんも巻き込むから大丈夫だ」
ここは一つ、あんちゃんに儲けさせてやらんとな。
「……アバール様、死んじゃいますよ……」
「大丈夫。肉体疲労ぐらいで死なせねーよ」
これでも薬師で先生の教え子。秘術の三つや四つ、ちゃんと修得しているよ。ダメなら先生の秘薬もある。殺してくれって言ったって死なせねーよ。クックックッ。
「なんか黒いの出してるわよ」
「時々、ベー様が魔王より最悪に見えるときがあります」
あらやだ。人聞きが悪いですこと。オレは命を大切に大切に、もう充分に生きましたと泣て謝るくらい生かし抜く村人だゼイ。
「サプル。ヴィアンサプレシア号の歌姫の海を開放するから、小舟を浮かべて料理でも売れ。人魚は肉を好むから肉料理を中心に出せば大繁盛だ」
ハルヤール将軍や部下たちはソーセージを気に入っていた。焼いてやれば兵士たちも喜ぶだろうよ。
「ミタさん。カイナーズホームでこう言う小舟を沢山買って来てくれ。あと、館からメイドさんを四、五十人連れて来てくれ。執事さんにはオレの指示だと言ってな」
結界術で屋根のついた小舟を作って見せた。
香港だったかベトナムだったかは忘れたが、旅行番組で小舟を店にしてるのがあった。それを歌姫の海でやるのだ。
ちなみに歌姫の海とは、ヴィアンサプレシア号の中にある人工の海で、豪華客船を浮かべているところだ。名前はサプル命名ね。
「はぁ~。よく思いつきますね、ベー様は。わかりました。買って参ります」
できるミタさんは、直ぐに転移バッチを発動した。
「ドレミ。エリナに言ってシュンパネを増産しろと伝えろ。拒否はねー!」
なんか知らんが、エリナに一片の情けもかける気にならねー。主義主張を無視させて働かす!
「畏まりました。分裂体からお任せをとのことです」
ああ。お前に任せた。往生できるくらい働かせろ。
「プリッつあん。暇している人外を連れて来てくれ。あと、一緒にカイナーズホームで酒を買って来てくれ。葡萄酒を中心にな」
「わかった。任せなさい!」
と、素直に転移バッチを発動。頭の上から離脱した。
……断られるかと思ったんだが、やけに聞き分けがよかったな? なんなんだ、いったい……?
まあ、イイや。動いてくれんならな。
「ほんじゃオレもあんちゃんを連れて来んとな」
まったく、忙しくてしょうがねーが、それは最初だけ。あとは皆さんにお任せなのだ、後々楽をするためにもガンバれ、だ。
オレも転移バッチを発動。また村へと戻った。
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