第666話 よがった~
と、その前に殿様に連絡入れなくちゃ。ぴっぽっぱっと。
「あ、殿様? 今大丈夫か?」
「お前、どこにいるんだ? 行方不明になったって騒いでたぞ」
家出に行方不明って、オレがいないくらいで大袈裟だな、まったく。
「それは解決したからイイよ。それより外交員の選定、できたかい?」
「ああ、できとる。いつでも向かわせられるぞ」
「わかった。人魚の国までの航路は大丈夫なんだろう?」
黒髪の乙女さんが指標を設置したとか言ってたが。
「ああ。問題はない。急ぎなら今から出発させるが?」
「いや、明日の朝でも構わんよ。そう急いではいねーからよ。んじゃ、頼むわ」
通話を切り、スマッグをポケットに戻した。
「執事さん。風呂に入ったら人魚の国に戻るからまた留守を頼むな」
いつの間にかそこにいた執事さんに伝える。
「はい。いってらっしゃいませ」
頼もしい執事さんで助かるよ。
風呂場へと向かい、久しぶりの風呂を堪能する。あ~ビバノンノン。
すっきりさっぱり爽やかオレ。これならサプルに汚いとは言われんだろう。おっと。花人族からもらった爽やかフローラルをシュッシュッと。これで万全だ。
汚れてはいないが服も一応替えておくか。何日も着てたしな。
ちなみにポケットの中身は入れ換えです。ん? あれ? 殺戮阿吽がねー!? え、無限鞄に入れたか? ……ねー!
脱衣場から飛び出して自分の部屋に。片っ端らから探すがどこにもねー。なんでだよ?!
「どこだよ。どこにあるんだよ。つーか、どこで出したんだ?」
出した記憶がまるでねー。ポケットから出せるのはオレだけなのに……。
「どうしたの、ベー? そんなところで四つん這いになって?」
プリッつあんが目の前に立つが、今はそんなことに意識を向けてる暇はねー。大事で大切な殺戮阿吽が優先だ。
「ねー。ねー。ねー。どこにもねー。どこいったんだよ?」
クソ! こんなことなら一定時間か距離を離れたら戻るように設定しておくんだったぜ!
「なにがないんです?」
「殺戮阿吽だよ。出した記憶ねーのに、なんでだかねーんだよ。大切なもんなのに……」
思い出せ! オレしか出せないんだからオレが出したんだ。なら、知ってるはず。思い出すんだ、オレ!
「もしかして、これのことですか?」
ミタさんの声に振り返ると、その両手に殺戮阿吽を握っていた。
「殺戮阿吽っ!」
弾丸のように飛び出し、殺戮阿吽を抱き締めた。
よがった~。ホントによがった~。戻ってこなかったらどうしようかと思ったよぉ~!
「ありがとな、ミタさん。助かったよ」
もう抱きついてほっぺたにチューしたいよ。いや、しないけど。
殺戮阿吽の存在を確かめるためにブンブン振ってみる。イイ感じだ。やっぱりサリネの腕はサイコーだぜ!
「ふふ。おもいっきりノックしたくなってきたぜ」
今なら千でも二千でもノックできそうだ。いや、気持ちだけでしないけど。
満足したので殺戮阿吽をポケットに戻した。うん、やっぱあるとしっくりくるな。ふふっ。
「あ、あの、ベー様。その細いこん棒はなんですか? やたらと硬いし、わたしの力でも岩を砕けましたよ」
「なんだい、使ったのかい。あれにはインパクト――衝撃を生み出せるようにしてあんだよ。たぶん、ミタさんでも本気で振り下ろしたら土竜くらいなら殴り殺せるんじゃねーか?」
魔剣バットのときでも飛竜の鱗でもカチ割れたし、今の殺戮阿吽なら黒竜の頭でもカチ割れんじゃねーかな? 結構本気で結界を纏わせたから。
「……わたしたち、結構危なかったんですね……」
「は? なにが危なかったって?」
なにやら青い顔をするミタさん。いや、褐色でよくわかりませんけどね。
「いえ、なんでもありません」
オレから視線を外した。なんなんだい、いったい?
まあ、イイや。殺戮阿吽もポケットに仕舞ったし、新しい服にも大抵のものは入れてある。不都合はねーさ。
「よし。今から人魚の国に戻るが、なんか用があるなら後から来な」
特にそのそのミタさんが大切そうに脇に抱えている壺のこととかさ。
「わたしは、いつでもいいわよ」
プリッつあんがオレの頭の上にパイル〇ーオン。そして、なぜかドレミが猫型にトランスフォームして胸に飛び込んで来た。
まあ、じゃれたい日なんだろうと抱えてやる。
「わたしも構いません」
ミタさんがオレの肩に手を置いた。
なら人魚の国へ行きますかと、転移バッチを発動させた。
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