第665話 一時帰宅編終了

 玄関の前に出現。ドアノブに手をかけると、背中に衝撃が生まれた。


 なんだと振り向くと、メイド型のドレミが抱きついていた。


 どうしたん? と尋ねる前に今度は顔になにかが覆い被さった。なんだいいったい!?


 顔に覆い被さったものを剥がすと、泣きじゃくるプリッつあんだった。


 ……最近、よく泣くよな、プリッつあんは……。


 情緒不安定なんかい? とは思ったが、精神科医でもねーんで雄大な自然に癒してもらってください。自然は心を豊かにしてくれますよ。


「ベーのアホちん! どこいってたのよ!」


 えーと、自然と戯れてました。


 なんかその前に戯れていた気もしないではないが、深く考えると頭が痛くなるので考えないようにしてます。


「転移バッチでもいけないし、スマッグも通じないし」


 そう言う結界張ってました。


 一人を楽しむんだから邪魔をされないようにするのは当然でしょう。


 適当にプリッつあんをあやし、後ろから抱きつくドレミをそのままに館へと入る。


 執事やメイドさんズはいなかったが、ミタさんが壺を抱えて立っていた。


「お帰りなさいませ、ベー様」


 その格好に違和感しかねーが、気にしなければ気にならないもの。軽くスルーです。


「ただいま。リュケルトたちはどうしたい?」


 エリナのところに向かったはずなのに、気がついたら浜に打ち上げられていた。まったく、神隠しにでもあってたのか、オレ?


 まあ、ファンタジーな世界で生きてりゃ神隠しの一つや二つで驚いてたら転生した時点で気が狂ってるわ。そう言うこともあるんだとスルーしとけ、だ。


「リュケルト様は家畜小屋で馬の世話をしているはずです」


 まだいたのか。今回は長いこといるんだな。大丈夫なのか、帰らんでも?


「そうか。ワリーけど、呼んで来てくれるか? 食堂にいるからよ」


「畏まりました」


 大事そうに壺を抱えて外に出ていった。なにかの願掛けか?


 まあ、なんでもイイやと食堂に向かい、メイドさんにスープとパンを頼んだ。なんかパンが食いたい気分なんで。


 直ぐに焼きたてのパンとコーンスープ的なものが出て来て、スープにつけながらパンをいただいた。


 ……と言うか、ドレミが猫型になって膝の上に乗ってて食い辛いな……。


 邪険にするのも可哀想なのでそのまま食べ続けてると、リュケルトがやって来た。


「帰って来たか。皆が心配してたぞ」


 オレの性格を知っているリュケルトは、これっぽっちも心配してなさそうに笑っていた。


 これと言って薄情だとは思わねー。オレのしぶとさをよく知っているからな。


「たかだか数日家を空けただけなんだがな」


 四人暮らしのときはなるべく空けないようにはしてたが、突然、いなくなることは日常茶飯事。誰も気にしなかった。その延長でやってるだけなんだがな。


「いなくなるなら、一言言ってからにしなさいよ!」


 別に変わらんとは思うんだが、今度からは誰かに一言言って消えるとしよう。頭の上で鼻水垂らされるのも嫌だしな。


「リュケルト。世界樹の種欲しいから可能な限り売ってくれや」


「世界樹の種? 別に腐るほどあるから構わんが、どうするんだ?」


「アリザに食わせる。あいつ、大食いで腹いっぱいになると熱線吐くからよ」


 そう言えば、常に腹ペコ状態だったのに、お腹空いたとは言わなかったな? なんでだ?


「何度かお腹が満たされたら空腹感が減ったそうです。ただ、食べるとなると大量に食べて熱線を吐きますが」


 と、ミタさんが教えてくれた。


「熱線はどうしてんだ?」


「カイナ様にこれをもらい、この中に吐いてます」


 ゲロ袋――じゃなくて、なんか茶筒を一回りデカくしたものを取り出した。なんだいそれ?


「これと言って名前はありませんが、熱線を魔力に変換するものらしいです。一定以上溜まると、魔石になって出て来るそうです」


 あの熱線、魔力になるんだ。そりゃ便利だな。なら、いっぱい食わして吐かせるか。できることがあるならアリザにも働いてもらうからよ。


「魔石になったものはオレの部屋にある黒い箱に入れておいてくれ。一応、館のいろんな場所に黒い箱を置いておくからよ」


 ヴィベルファクフィニー号を造るのに魔力を大量に使うからよ。


「畏まりました。館の者に伝えておきます」


「頼むわ。で、リュケルト。あの二人はどうした? 姿が見えねーが?」


 いたのもいる理由も記憶してるんだが、それ以外がまったく記憶にねー。なぜだ?


「ああ。土地をもらったんでそこに移ったよ。暇ができたらいってみてくれ」


 いつの間にそうなったかはわからんが、まあ、なったのならなったで構わねー。森を守るヤツは欲しかったんだからな。


「そうか。わかった。暇ができたらいってみるわ」


 と言うことは、やるべきことは終わったってことだな。


「なら、そろそろ人魚の国に戻るか」


 館に戻って来たのはリュケルトに世界樹の種を頼むことと、殿様に外交員を用意してもらうため。四日――いや、五日か? まあ、そんだけ時間があったんだからもう決めてはあるだろう。


「リュケルト。人魚の国にいくからこれでさよならだ。また暇ができたら来てくれや」


「そうか。なら、おれも帰るか。結構長居しちまったからな」


 またなと握手した。


 まだまだ付き合いは続くんだから別れはこんなもんで充分。一時帰宅編終了。さあ、人魚編の再開だ。 

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