第664話 楽しい我が家へ
――ふがっ!
目覚めると、なぜか浜辺に打ち上げられていた。
なぜに? つーか、ここどこ? オレは……なんだっけ? あれ? 記憶がねーんだけど……?
まったくもって状況がわからねー。なんだって言うんだよ!!
いや、落ち着けオレ。こう言うときこそマ〇ダムタイム。あーコーヒーうめー!
「うん。落ち着いた」
単純な、と自分でも思うが、これがオレ。気にすんな、だ。
コーヒーをおわかりして、改めて周りに目を向けた。
「海だな」
なぜ海にいるかわからんが、たぶんここは、港から六キロほど下った(カムラから王都へと海流が流れているのだ)ところにある浜だと思う。
海岸線をルククに乗ってなぞっただけだから下りたことはねーが、見覚えはある。
さざ波を聞きながらぼんやりしてると、遠くに竜機が編隊を組んで飛んでるのが見えた。
海部落の方は飛ぶなと言ってあるはずなんだが、なんで飛んでんだ?
まあ、もう今更か。館にはいろんな種族がいて、隠してもいねーんだからよ。
バレたのならバレたで、なんか言ってくる国はカムラぐらい。言われたところでなんら響くことはねー。カムラ側も人が住む村はなく、険しい山が連なっている。攻めて来るのも命懸けだ。
この国の場合は、人外が裏で仕切っているから攻めなければ黙認はしてくれるだろう。つーか、人外が結構な頻度で遊びに来てるがな!
「落ち着いたら腹が減ったな。ドレミ……はいないか……」
常にいるはずのドレミすらいねーこの状態。まあ、少し前まではこれが日常だった。これと言った感慨はねーよ。
「たまに一人になるのもイイさ」
男には一人になりたいときがある。一人を楽しめだ。
そうと決めたら環境作り。浜を結界で包み込み、土魔法で小屋を建てた。
簡素なものだが、住めば都のなんとやら。コーヒーが飲めて作業するスペースがありゃ充分だ。のんびりする空間なんだからな。
「しばらく読んでねーラーシュの手紙を読むか」
夜の一間に読んではいたが、日記のように書いているようなので量が多いのだ。
「あーそろそろラーシュに送るものを纏めねーとな。今回はなにすっぺ?」
今回は博士ドクターから無限鞄をいただいた。今までは決まったサイズのものしか送れなかったから、デカいのを送ってみるか。
手紙を読みながらなにを送るかを考え、飽きたら工作を楽しむ。所々にマンダ〇タイム。優雅な一時であった。
陽が暮れ、夜になる。空には満点の星。それを観ながらのコーヒー。オレは今、素晴らしいときを生きている。
ときは緩やかに流れ、心は穏やかに満ちる。
……このままときが過ぎればイイんだけどな……。
なんて思うと破られるのがこの世の摂理。万全のはずの結界を越えてカイナが現れた。
「家出少年発見」
「それをなぜオレに報告する? つーか、いつの間に迷子のお巡りさんになったんだよ」
お前はいったいなにを目指してんだよ?
「いや、家出少年はベーのことだから」
はぁ? なんでだよ。オレは勘当されても家に居残るぞ。
「はぁ~。まあ、ベーだしね」
なんの納得だよ。意味わからんわ!
「それで、なんのようだ? お前、忙しかったんじゃないのか?」
なにをしてるかはわからんがよ。
「忙しいよ。ジオ・フロントを造ってるんだからね。やっと四十七層目に到着して港に水路を造くろうとしたらミタさんがベーがいなくなったって騒ぐし、あのスライムの子もわからなくてピョンピョン跳ねてたしね」
最後のピョンピョンってなんだよ。ドレミ、跳ねたりしねーぞ。
「まったく、ベーの結界、悪辣過ぎるよ。村周辺にあるし、どれからもベーの反応がする。しかもえげつない仕掛けしてるし。見つけるのに四日もかかったよ」
「四日? 一日じゃなくて?」
オレの感覚では一晩くらいなんだがな?
「四日だよ。ベーの感覚、のんびり過ぎるよ」
「スローライフに時間の概念はねー」
「いや、あるから。どこの仙人の発想だよ!」
「村仙人?」
「知らないよ!」
「オレもよー知らん」
だってオレ、仙人じゃねーし、村人だし。
「はぁ~。たまにベーのボケについていけないよ」
いや、お前のボケのほうがついていけんからね。この平成生まれがっ!
「……は~。皆心配してるよ。帰ろう」
傍若無人なクセに、たまに父親の顔を見せるカイナ。人の親になったことがある者にしか出せねー笑みだな……。
「あいよ。んじゃ帰るか」
平和で穏やかな日々もイイが、家族がいて友達がいる、そんな賑やか日々もまた楽しい、だ。
広げたものをパッパと片付け、小屋を土に還し、結界を解いた。
「我が家へ」
転移バッチを発動。楽しい我が家へと飛んだ。
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