第650話 姫商人
さて。落ち着いたし船にいきますか。
肩に乗るプリッつあんがウザいが、まあ、気にしなければ気にならない。鞭を振るって来るのをハイハイといなしながら向かった。
改造した港――名前がねーのも不便だし、海老島港と命名しよう。不評なら変えればイイんだしな。
浮き輪が配布されたようで、数十人の人魚が浮き輪を使用していた。
「随分、慣れた感じですね」
荷の降ろしを見ていた婦人の横に行くと、そんなことを言ってきた。
婦人の他にスラ~・キュッ・スラリ~ンの人魚さん。ってか、どちらさんでしたっけ?
「まーな。昔、オレの力で作ったものが元になってるし、白銀鋼の鎧には同じ機能をつけてある。それで練習したんだろう」
いずれ人魚との商売をするから練習しておけってハルヤール将軍に言っておいたのだ。まあ、まさかこんなに早く訪れるとは思わなかったがよ。
「……まったく、ベーはどこまで先を見ているんです?」
「見えるところまでさ」
そうなったらイイな~ぐらいの未来(妄想)だけどよ。
立ってるのも疲れるので土魔法でテーブルと椅子を四人分作り、皆に座るよう促した。
もちろん、スラ~・キュッ・スラリ~ンの人魚さんが座れるように作りました。ん? ミタさんも座ったら。
「いえ。あたしはベー様のメイドですから」
別にそんな一般的なことしなくてもイイんだが、ミタさんなりのアイデンティティーがあるのだろ。好きにしな。
ミタさんが出してくれた茶菓子とコーヒー牛乳を口にしながら荷降ろしを眺めた。
「今どのくらい降ろしたんだ?」
積んでる量も種類も知りませぬもので。
「まだ半分も降ろしてませんよ。数が数ですし、手作業ですからね」
まあ、海の中に運ぶとなると、あの一メートルくらいの貝に入れなくちゃならない。手間はかかるだろうさ。
「しかし、人魚に野菜ですか。何度聞いても違和感が拭えませんね」
人魚がいることは知っていたようだが、人魚の生態なんてなんも知らねー婦人にはそう簡単には受け入れることはできんだろうさ。人魚だって野菜を食うようになったのは最近だって言うしな。
「地上のように煮たり焼いたりまではいってねーが、生で食うんだよ。人魚のアゴは人より強いし、胃も丈夫だ。カボチャだって丸かじりさ」
海竜の肉を生で食い、ちょっとした貝など簡単に歯で砕ける。だからって味覚が粗野って訳でもなく、料理したものもちゃんと旨い旨くねーがわかるのだ。
……まったくもって神秘だよ、人魚の舌って……。
「人魚は料理はしないのですか?」
と、オレではなく、スラ~・キュッ・スラリ~ンの人魚さんに尋ねた。ほんと、この方どちらさん?
チラッとミタさんを見ると、ポケットからメモ帳を取り出し、さらさらさら~。オレにだけ見えるように見せた。
なになに。隣の国のお姫さまで商人か。なるほど。
「姫商人ね」
「え? はい?」
自分の書いた文字を確認するミタさん。どったの?
「どうかしましたか?」
婦人も不思議そうに首を傾げた。
「あ、いえ、なんでもありません……」
首を傾げながら一歩下がるミタさん。なにか納得できなそうな顔をしてるが、よーわからんので自分で解決してください。あーコーヒー牛乳うめ~。
「我らも料理はするさ。それこそ煮たり焼いたりな」
それは身分のある者。空気のある空間を作り出せる貴族か金持ちだとハルヤール将軍は言っていた。平民はよくて混ぜるかすり潰すかぐらい。ほとんど生食だ。
「人魚の料理ですか。食してみたいですね」
んー。馴染みのない婦人にはちょっと厳しいんじゃねーかな。まあ、海竜の料理なら大丈夫だろうけどよ。虫系や深海魚系は泣くよ、絶対……。
「あーあれね。わたしは遠慮したいわ。見た目がダメだもん」
人魚の料理を食ったことがあるのか、プリッつあんが渋い顔して首を振った。あ、アイドル人魚……なんって言ったっけ、あの人魚さん? つーか、豪華客船のプールに入れたままだったっけ。誰が面倒見てんの?
「プリッシュは食べたことあるの?」
「ええ。マリーンたちとね。そうだ、ベー。マリーンたちの練習具合を見てよ。サプルたちにも見せたけど、凄いって言うだけでいまいちなのよね。わたしとしてはもっと華やかにしたいんだけどさ~」
いつの間にそんなことしてたん? 全然知ら……いや、気づきもしなかったオレのセリフじゃないですね。ご苦労様です!
「商談が終わったら見るよ。もし、余裕があるなら踊りとかも頼むわ。できれば団体芸で」
結界術でミニ人魚を六人作り出し、シンクロ芸(?)を見せた。
「へ~。おもしろいじゃない。やってみるわ!」
と、ヴィアンサプレシア号へと飛んでいった。うん、オレの知らないところでプロデューサーやってたのね。知りませんでした。
「プリッシュ、なにをしてるんです?」
おや。プリッつあんから聞いてませんでした?
「商談が終われば見せるよ。帝国にいったときに披露するからよ」
「わかりました。それでなんですが、レシュ様とも通商を開きたいのですが構いませんか?」
「イイよ。やりな」
任せる。好きにやりな。
「よ、よいのか、そんなあっさりと……」
姫商人が目を丸くして聞いてきた。
「構わんさ。ただ、あんちゃんとの住み分けはしてくれな。恨まれるからよ」
食糧や雑貨はあんちゃんに卸すようにしている。それ以外なら好きに売ってくれや。
「わかっております。ドロティアシリーズなら構いませんよね?」
「ドロティアシリーズ? サプルのか?」
「ああ。あれが欲しいのだ。我が国、特に令嬢の間で流行っておってな、今回の商談はそれが目的に来たようなものだしな」
……サプルの趣味、どこまで広がってんだよ……?
「ま、まあ、それならサプルに通してくれ。今回、初期シリーズを持って来たからよ。ミタさん。サプルを呼んで来てくれや」
なんとか解決したか飲み込んだかのような顔をしたミタさんに頼んだ。
「畏まりました」
と、転移バッチを使って呼びにいった。
「ところで、姫商人。あんたはどれだけの権限を持ってる?」
「ひ、姫商人? 我のことか?」
他に誰がいんだよ。
「すみませんレシュ様。ベーは名前を覚えられない性質でして。気にしないでください」
婦人の言う通り、気にすんな。オレは気にしないぜ。
「ま、まあ、納得できんが、フィアラがそう言うのなら……」
婦人の人望に乾杯!
「それで、なぜそんなことを我に聞く?」
「姫商人の国の未来を決めるからさ」
ハルヤール将軍の国だけで計画を進めていたが、せっかく隣国の姫がいるのなら巻き込むまで。同盟は多い方がイイからな。キシシ。
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