第651話 姫戦士

 しばらくして、サプルとメイドさんズがやって来た。


「あんちゃん、なーに?」


「こっちの姫商人さんがドロティアを買いたいそうだから、少し売ってやってくれっか?」


「わかった。こんにちは、姫商人さん」


「え、それに決定なのか!?」


 決定でイイんじゃね?


「ミタレッティーさん。ベーをお願い」


「はい。畏まりました。さあ、ベー様。あちらにいきましょうね~」


 と、無理矢理立たされてどこかへと連行された。なぜに!?


 なにかよくわからんが、ゼルフィング商会での仕事は婦人の独断と偏見に任せているし、オレがいなくても問題はねー。


 なので、気の向くままにダッーシュ! そして海にダーイブ! 結界術で潜水~。城へと進んだ。


 え、ミタさん? そのうち来んじゃね? 水陸空万能メイドなんだしさ。


 人魚の兵士はいたが、これと言って呼び止められることなくオレ入城。テキトーに城を散策する。


 途中、案内された部屋を覗いたらまだ酒盛りしていた。イイんかい。とは思ったが、ハルヤール将軍も戦場に出れない鬱憤が溜まってんだろうと、そのまま中に入らず散策を再開させる。


「いや、ベー様、また放置ですか!?」


 と、技術少佐とその仲間たちが駆けて来た。


 一応、海の中で動けるようにはしておいたが、そこまで軽やかに動けるようにはしてねーんだがな?


「どうしたい?」


「いや、どうしたじゃなくて、我々なにしに来たんですか?」


「水竜機の実験だろう。そう説明したじゃん」


 なに言ってんのよ、この人ったら。


「でしたら実験させてくださいよ! あんなところに放置しないでください!」


 とは言ってもハルヤール将軍があれじゃ話もできん。酒盛り始めたバカ野郎どもに文句を言えよ、とは言っても確かにこのままでは埒が明かんな。


「わかった。ハルヤール将軍の上に話をつけるか」


 どのみち会うようにはなるんだから今か後の違いだ。


 さて。どこに行けばイイ? ん、ムム。あっちにいけとオレの勘が言って……はいませんが、取り合えずあっちに行ってみますかね。


 技術少佐とその仲間たちを連れて城を探索する――と、ムキムキ姫が現れた。


「その方、確かベーであったな」


 そーゆーあなたはなんてお名前でしたっけ? まあ、なんでもイイか。


「ちょうどよかった。王様んとこに案内してくれや、姫戦士」


 さすがにムキムキ姫は失礼だし、それでイイだろう。姫戦士も気にしてなさそうだし。


「わかった。ついて参れ」


 話のわかる姫戦士さま。見た目も中身も姫ではねーが、一人の戦士としては好感が持てるぜ。


「そう言えば、さっきの乙女騎士はどうしたい?」


 まあ、治癒魔法は体力を使うから休んでいるんだろうが、意識があるなら胃に優しいものを食えよ。


「今は休んでもらっている」


「休ませるだけじゃなく、体力を回復させるようにしろ。人魚の世界にもあるだろう、体力を回復させる薬なり食いもんが」


 下手に治癒魔法が発展してるだけに回復に意識が向かない。ちゃんと手段があるって言うのによ。


「……わかった。そう伝えよう」


 通りかかった人魚の侍女(かな?)さんにコワの滴と言うものを飲ませろと命じた。


「コワの滴って、サイラの実と同じ効果があるものかい?」


「サイラの実の上位だな。まあ、なかなか採れるものではないが」


 だろうな。サイラの実も深海になる摩訶不思樹。百年に一度しか実らない生命の実。それを口にしたら瀕死の者でも完全回復すると言われ、失った腕も治しやがった。


 ……それの上位かよ。海はどんだけ神秘なんだよ……。


「詳しいのだな」


「ハルヤール将軍にいろいろ聞いたからな」


 まあ、サイラの実のことハルヤール将軍の部下に聞いたんだがよ。


「そうか。お主はなぜハルヤールに力を貸すのだ? 種族も国も歳も違うのに?」


「そんなもんどうでもイイ。気に入った。それが全てだ」


 それで充分。他に理由などいらんよ。


「……そうか。つまらぬことを聞いた」


「ふふ。姫さんは根っから戦士なんだな」


 それもハルヤール将軍のように誇り高き戦士なんだろう。脳筋ではなく自分の目と考えで物事を判断できる、立派な戦士だ。


「お主は我を戦士と呼ぶのだな」


「戦士にしか見えねーからな」


 断固、それ以外とは認めねーぞ、オレは。


 ……これで聖女とか言ったらオレは暴れるぞ……。


「……そうか。我は戦士にしか見えぬか……」


 傷ついた、って感じじゃなく照れたように呟く姫戦士。なんなんだい、いったい?


 それから無言になり、城の上層部へとやって来た。


「父陛下に会いたい。とりなしてくれ」


 廊下に立つ(浮かぶか?)二人の衛兵に声をかける姫戦士。人魚の世界もメンドクセーんだな。


 わかりましたと一人の衛兵が廊下の奥へと下がり、しばらくして戻って来た。


「お会いするとのことです」


 結構あっさり許可が出たもんだ。軽い王さまなのか?


「では、いこうか」


 姫戦士の後に続き、廊下の奥へと進んだ。

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