第647話 第二王女、フィレーラ

 ボク、思うんだ。夢って叶える間が楽しいんだって。


 夢を求める。


 それは人の原動力。心の支え。それを持つことがどんなに幸せなことか。そして、願いが叶うときの満足感。生まれてきたことに感謝したくなる。


 ……な、なのに、なのにこれはねーだろう。あんまりじゃねーか。こんな夢の叶え方ってあんまりだろう。


「オレはこんなもんを求めてたんじゃねー!!」


 ヌオオオォォォォォォッ! なぜだ! なぜなんだ! 神は我を見捨てたもうたかっ!


「……えーと、なんであろうか、これは?」


「発作みたいなものよ。すぐ終わるわ」


 ちょっとソコ。うるさいわよ。オレの悲劇を邪魔しないでちょうだい。ヌオオォォォッ!


「巻きで頼むわ」


 なにがだよ! つーか、オレのモノローグに入ってこないでっ!


 えーと、なんだ。中年オヤジの酒盛りが本格化したからオルグンに話のわかるヤツのところに連れてけって言ったら、この国のお姫さまが会いたがってるって言うじゃなーい。ハイ、喜んでと来たわけですよ。


「我はバルデラル王国第二王女、フィレーラじゃ。よろしく頼む」


 現れたのは腹筋バキバキ、胸筋ムキムキ、歴戦の戦士が現れました。


 オレは逃げました。でも、回り込まれました(なににかは知らん)。そして、叫びました。ヌオオォォォォッ!!


「ってなわけですよ。お姫さん」


「……す、すまぬ。貴殿がなにを言っているかさっぱりわからぬのだが……」


「あ、気にしないで。ベーのベーによるベーにしか理解できない寸劇だから。わたしは、プリッシュ。これのお守りよ。こっちはミタレッテー。ベーのお守り。そこにいるのはドレミ。ベーのお守りよ」


 いや、オレの周り、お守りしかいないんですが。つーか、なに気にトラブルメーカーみたいな扱いになってね?


「そうか。プリッシュにミタレッテーにドレミか。よろしく頼む」


 なんかもうオレ抜きで進めてイイ雰囲気だよね。オレ、新しい夢に向かって進むから適当にやっててよ。じゃ。


「ベー。いい加減戻って来てください」


 誰かに襟首をつかまれ、戻されてしまった。


「婦人? いたの?」


 会わせたかったのはハルヤール将軍なので部屋に残して来たのになぜここに?


「ハルヤール様からこうなるだろうからベーの面倒を頼まれたのです」


「あの腐れ将軍、人魚姫のこと濁してたからなんかあると思ってたが、まさかこれとは。オレの純情を弄びやがって、許せん……」


 後で一発殴っちゃる。この罪は重いぞ。 


「初めてまして、フィレーラ姫様。わたくしは、ベーの下でゼルフィング商会の会頭をしておりますフィアラと申します。代表者たるベーがしばらく使えませんのでわたくしの方からお話致します」


「そ、そうか。なら、頼むとしようか。フィアラ……でよろしいか?」


「はい。そう呼んでいただければ幸いです」


「そうか! ならばわたしもフィーと呼んでくれ」


「はい。フィー様」


 なにやらここにも友情が芽生えてます。オレ、いらない子です。帰ってもイイですか。


「ベー。ちゃんとついて来てくださいね。プリッシュ。ミタレッテーさん。お願いね」


「任せなさい」


「畏まりました」


 えーと、ミタさん。なぜ腰をつかむの? プリッつあん、なぜ鞭で頬をぶつの? これなに状況なの?


「では、フィー様。まずはお土産をお渡しします。量が量なので、兵士の方か荷を運ぶ方を用意していただけますか?」


「土産とな? それはありがたい。そうだ。レシュン姫も呼ぼう。誰か、レシュン姫をお呼びしろ」


 んお? 姫とな。新たな夢が間近にあるのか? いや、期待するのは早い。この流れからしてまた腹筋バキバキ、胸筋ムキムキの戦士姫が現れそうだ。


 見てから。見てからオレの夢かどうかを判断しよう。全てはそれからだ。


 心を強くし、なにか連行される形で海面へと向かった。


 と言うか、オレの扱い酷くね? 

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