第646話 友情とは

 まあ、再会とは言え、去年の秋に会ってるし、この交通の便がワリー世界では頻繁に会っている方だ。


 なので、感動はそれほどなく、いつものように握手を交わした。


「疲れてるようだな」


 過酷な海の中で生きる人魚は三十くらいから老化が鈍り、死期がくると急に老化する。


 ハルヤール将軍も見た目的には三十前に見えるが、四十は過ぎている。どこかの戦闘民族のようだが、具合が悪ければちゃんと体には出る。


 去年会ったときより確実に痩せ、寝てないのか目の下にクマができていた。


「ああ。調整だなんだと苦労しておる。これなら戦場に出ている方が何倍も楽である」


 将軍とは言え、いつまでも戦場にはいられない。戦果を上げれば上げるほど政治に場を移して行く。無常なもんだ。


「そりゃお気の毒。だが、上司が少なくなるのは救いだな」


 まあ、上に行けば上に行くほど責任と仕事が増えるが、なにかやりたいのなら上にいる方がイイ。地位は力だからな。


「我としては頼りになる上司が欲しいところだ。勝てば勝つほど苦労が増える」


 勝者の……なんだ、あれだ。負けて屈辱を味わうよりはイイじゃん。ガンバれ。


「あ、すまんな、愚痴を言ってしまって」


「構わんよ。愚痴ぐらいならいくらでも聞いてやるさ」


 そのくらいなんでもねー。酒の肴みてーなもんさ。


「……ふふ。お前が人魚だったら宰相に迎えたいところだ」


「どいつもこいつもなんでオレを宰相にしたがるんだよ。オレは平和を愛する村人だぞ」


「小国な我が国を列強国までのし上げ、商業文化を発展させ、帝国の皇女まで来させる。全てお前が関わってから起こったことだ。ましてやこの数ヶ月の忙しさはお前のせいだろう。ウルからお前が異種族国家を造っていると聞いたときは我が耳を疑ったぞ。だが、お前なら可能だと思う我の正気も疑ったわ!」


「別にオレが造ってるわけじゃねーよ。やってるのはそこに住むヤツら。オレは金と仕事を与えてるだけさ」


 あれ? よくよく考えたらオレ、それらしいことしてるっけか? 完全に人任せで細かいことまったく知らねーぞ。


 計画書もねーのに皆どうやってんだろう?


「ったく。金と仕事を簡単に用意できるのお前だけだ。世の国はだいたいそれが用意できなくて苦しんでおるのだからな」


「それは能力以前に世界を知らねーだけだ。知っていれば金になるものはそこら辺に転がってる。ましてや人魚の国なんて宝の山だ。真珠一つ取ったって、地上のことを知っていればオレがいなくても列強国になる。死にたくなければ世界を知れ。己を知れ。種の限界を知れ。それを学び、受け入れたからハルヤール将軍はこうして生きている。この国は豊かになっている。オレはあくまでも切っかけだ」


 オレが命令した訳じゃねー。ハルヤール将軍が考えて選んだのだ。ならば、それはハルヤール将軍の成果。オレの成果じゃねー。


「……そうであったな。我が決めて我がやったことだ。ベーには関係ないな。すまぬ、バカを言った」


「構わんさ。いくらでも言いな。聞いてやるからよ」


 友達だ、それで救われるのならなんぼでも吐き出しな。付き合ってやるよ。


「それより、家族を紹介するよ」


 湿っぽい話は後だ。今は再会を喜び合おうじゃねーか。


「おお、そうだな。では、我からいこう。我はハルヤール・ブラング。バルデラル王国大将軍を任せられている。よしなに頼む」


「大将軍なんてあったんだ」


 初めて聞いたぞ。


「お前のお陰で連戦連勝。出せる褒美も尽きたので大将軍の位をいただいたのだ」


 なるほど。そりゃ国王も大変だ。褒美も出せないようでは王の器や資質を問われるからな。


「出世、おめでとさん。で、こっちがオレの両親。親父殿とオカンだ。サプルは上にいるよ」


 二人を前に出し、挨拶させる。


「お初にお目にかかる。わたしは、新しくベーの父親になったザンバリットラング・ゼルフィングと申します。ザンバリーとお呼びください。これは妻のシャニラです」


「新しく? ああ、そうでしたか。それはそれは目出度い。ご結婚、お祝い申し上げる。フフ。ベーの父親とは勇者ですな。尊敬致しますぞ」


「なんでだよ!」


「この世で一番なりたくないのはお前の父親だ。苦労しか見えぬわ!」


「こんな親孝行な息子、他にはいねーぞ」


 こうして新婚旅行をプレゼントするとか、この世界でオレ……とサプルだけだぞ。


「どうせなにも言わず連れて来たのだろう。結婚のお祝いだとか言って」


 んぐっ。付き合いが長いだけにわかってやがるぜ……。


「図星か。なにも知らず異種族の国に連れてこられて、その国の大将軍に会わせられたら我なら腰を抜かすわ。なんの無茶ぶりだ」


「まあ、このバカには何度も驚かされてますからな、もう魔王すら当たり前です」


「……本当に苦労しておるのだな、ザンバリー殿は……」


 なに涙浮かべながら言っちゃってんの? 


「わかってくださるか、ハルヤール殿……」


 え、いや、なに同意しちゃってんの? って言うかなに友情が芽生えちゃってんの?


「ハルヤール殿、一献傾けようではないか!」


「おお、いただこう、ザンバリー殿!」


 なにやら酒盛りを始める中年オヤジども。え、なんなのこれ?


「……あの、挨拶がまだ……」


 二人の友情に入る隙なし。え、あれ、オレとの友情どこいっちゃったの?


「……あ、これが寝とられなのね」


 ちげーよっ!!

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