第645話 ハルヤール将軍との再会

 まさに見世物である。


 城壁内へと入り、城に向かっているのだが、軍事施設から城まで通じているわけでもなく、一般道(?)を進まねばならなかった。


 まあ、人魚の集団が通りを進んでたらオレでも見物する。無理もねー。


 こちらを興味深そうに見る人魚の子どもに手を振ってやる。乗りは凱旋パレードだな。


「よく手が振れるわね。恥ずかしくないの?」


「恥ずかしい生き方はしてねーからな」


 前世だったら顔も向けられなかっただろうが、今生のオレは生きたいように生きて、後悔しない人生を歩んでいる。どんなものでも向かい合えるぜ。あ、エリナ系は無理です。それ以外で向かい合うんで勘弁してください。


 手を振りながら人魚の街を眺める。


 都市なだけあって古い巨大貝や珊瑚で造った家や空気玉(東屋的なものらしい)があり、なかなかファンタジーな光景である。


 しかし、外から見たときも大きいと思ったが、中から見るとさらに大きく見えるな。一国の王都とは言え、海の中にこれだけのものを造るんだからスゲーよな。


「ベーさま」


 おっと。見とれ過ぎて結界ドームが止まってしまった。移動に集中せんとな。


 手を振るのは止め、オルグンの後に続いた。


 ……海の中を移動できるもんを考えねーとな……。


 人魚が地上を移動する方法は考えたのに、その逆をかんがえないとかマヌケ過ぎる。帰ったら博士ドクターに作ってもらおうっと。


 しばらくして城が見えて来た。


 地上とは違い、門はなくどこからでも入れるようだが、城の周りに竜宮の使いのような細長い魚が何百匹と泳いでいる。なんだいあれ?


「城の護衛魚です。知能は高くありませんが、訓練すれば役に立つ魚です」


 さすが海の中。地上の常識は通じねーよ。


 城の敷地内に入ると、兵士たちが整列していた。また保守派の兵士か?


「アズリュー騎士団です」


 騎士団がいるとは聞いてたが、装備は革鎧に一本刺しの槍かい。いくら実戦主義とは言え、華がねーな。戦士団の方が騎士団っぽいだろう。


「魚人の方がまだ立派なもんつけてたぞ」


 魚人姫の護衛も革鎧だったが、まだ華があり性能がよかった。いくら小国だからってもっと軍事費に回せよ。そんなんじゃ他国に侵略されんぞ。


 だいたい四百近い白銀鋼の鎧や槍を渡している。いくらか騎士団に回せばイイだろうがよ。


「あ、いや、防衛だけで精一杯か」


 見栄を張るよりは国防に回した方が利はあるし、そんな余裕もねーか。相手は一大帝国。一つの戦場に万を出すところだ、見栄なんか張ってる場合ではねーわな。


「なあ、オルグン。帝国はまだ襲って来んのか?」


「数ヶ月前からは極端に減りましたが、海獣兵器や魚使いによる攻撃かゲリラ戦を仕掛けて来ます」


 海の中ではゲリラ戦とかあんだ。戦いに関しては地上より先に行ってんだ。まあ、羨ましくはねーがよ。


「なるほど。ならイイ商売ができそうだな」


「商売、ですか?」


「それはハルヤール将軍と会ってからだな」


 そして、決めるのはハルヤール将軍。いや、バルデラル王国だ。ダメなら諦めるし、今ある力でガンバれだ。


「ベーさま。これより城に入ります。狭くなるので小さくしてください」


 人魚が泳げるように通路はデカく造っているようだが、結界ドームには狭過ぎる。二列にして城へと入った。


 外観は派手だったが、中は呆れるくらい質素で、地下牢のようだ。まだオレんちの保存庫の方がおしゃれだぜ。


「なあ、オルグン。今さらだが、オレらを城に入れてイイのか? 他国どころか他種族。保守派のヤツらに文句言われたりしねーか?」


 本当に今さらですみません。今の今気がつきました。


「大丈夫です。陛下からベーさまたちを国賓として迎えよと命を受けてますので」


 王様まで話が通ってんのかい。そりゃ大事になってんな。こりゃ謁見もありそうだな。


 質素な通路を進むと大ホールと言うか、吹き抜けと言うのか、なにやら光りを取り込むように造られた場所へと出た。


「ティーゲの回廊です。地上で言えば礼拝堂に近いでしょうか? 六海神が一神、ティーゲの道を模造したもので、いろいろな式に使われたりします」


 上を見れば海面まで吹き抜けになっているのか、太陽の光りがキラキラと降り注いでいた。


 まさに幻想的。人魚の国と思わせる絶景であった。


「ベーさま」


 うおっと。余りのことに見とれ過ぎてたわ。さすが海は魔性。危うく引きずり込まれるところだったぜ……。


「申し訳ありませんが、人数が人数なだけにハルヤール将軍の部屋には入り切れませんので別室でお願いします」


「あいよ。場所なんてどこでもイイさ。気にせんよ」


 海の中で地上の生き物がゆっくりできる訳ねーし、人魚の体に合わせた部屋だ、豪華な部屋より広い部屋に案内してくれたほうがありがたいぜ。


 で、通されたのが四十畳ほどの大部屋。なにかあった跡からしてオレたちのために用意してくれた部屋のようだ。


「部屋の半分、結界を張るな」


 皆を壁側に集まらせ、結界を広げて地上の環境に合わせた。もちろん、空気循環もさせてまっせ。


「ミタさん。メイドさんたち、テーブルや椅子を頼む。ハルヤール将軍が来るまでお茶にしよう」


 客の礼儀に反するが、こればかりは種としての違いがある。いくらオレとの付き合いが長いとは言え、そう地上の者をもてなす用意なんてできるわけもねー。精々が広い部屋を用意するくらい。求めるほうがワリーよ。


 優秀なメイドさんたちによりあっと言う間に用意ができ、各自席へと座りお茶にした。


「オルグンも飲むかい?」


 結界を広げてやり、上半身だけを空気にさらした。


「お、コーヒーですか?」


「ああ。今度は本物のな」


 個人差にもよるが、人魚は苦いものを好む傾向があり、ブラックコーヒーなど想像以上に旨く感じるらしい。


「前に飲んだものとは明らかに違いますな。こんなものが地上にあるとは羨ましい」


 ラーシュからもらったコーヒーをやると、なんとも幸せそうな顔になった。


「気に入ったならまた持ってくるよ」


 まだ手をつけてないものがあるし、来年になればまた送られて来る。


暇ができたら行くかもしれない。まあ、なんにせよ定期的には供給は可能だ。


「是非ともお願いします。最近人気が出てきまして、港から送られて来る量では賄いきれないのです」


「そうなのか? 結構来てるって話だが」


 あんちゃんや人魚の町で聞いたところによると、毎日のように隊商が来てるって話だが。


「あそこが隣国にも知られましてな、そちらからも商人が流れているのです」


 なるほど。それなら入って来んわな。人魚の商人も商売熱心だこと。


「婦人。また忙しくなりそうだけど、あんちゃんと調整して商品を卸してやってくれや」


 港はあんちゃんの領分。血ヘド流して人魚の商人に応えてやんな。


「ふふ。アバールさんも大変ですね。わかりました。調整します」


 そんなたわいもな……くはない話をしていると、部屋のドア(ちなみに人魚のドアはスライド式です)が開いた。


「ベー! よく来た」


 入って来たのはハルヤール将軍。久しぶりの再会であった。

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