第644話 超解せぬ!
まず海の上に結界を敷き、皆さんに搭乗してもらい、結界ドームで包みます。
で、海の中へとご案内。しばしの絶景をお楽しみくださ~い。
「……あまり透明度がよろしくねーな……」
人魚の町とは大違い。視界がくすんでよく見えなかった。
「海も地上も都市は変わらんな」
親父殿が達観したように呟いた。
あー確かにそうだな。人魚だって出すもんは出すし、集まればゴミもでる。ましてや城壁都市なら水の流れも鈍り滞る。ちょっと夢見てたぜ……。
まあ、それでも海の中に初めて入る者は驚きが勝るようで、食い入るように見ていた。
にしても結構深いな。もう百メートルは潜っているぞ。と思ったら底に着いたようで、人魚の兵士が並んでいた。
オルグンに結界線を繋ぎ、なんだいあれ? と聞いてみた。
「申し訳ありません。保守的な者がいましてベーさまを威圧しているのです」
なるほど。ハルヤール将軍にやった白銀鋼の鎧を纏ってねーや。
「まあ、どこも一枚岩とはいかねーもんさ。気にせんよ」
たかだか三十の兵でどうこうできる結界ではねーし、こちらには元A級冒険者の親父殿。S級村人のオレ。万能メイドミタさん。万能生物ドレミ。不思議メルヘンプリッつあん……はいらねーか。まあ、オレの結界を纏わせた完全武装したメイドさんがいる。
これを相手に戦えとか罰ゲームだよ。兵士さんたちには同情しかねーわ。
「そう言やここって軍事施設とか言ってたが、なにに対しての軍事施設なんだ?」
と言うか、ただ岩をくり貫いただけのものだよね。海老となにが違うんだよ?
「ここは、北の砦で主にグライールやソネットが王都に近づかないようにするための場所です」
グライールとかソネットとかなんぞや?
「グライールは群れで獲物を襲う巨大魚で、ソネットは群れで獲物を襲う小魚です。どちらも我々の天敵です」
よくよく聞くと、グライールが昨日の魚でソネットはビームバルカンで殺戮した魚らしい。
「んじゃ、殺してイイもんなんだな」
「はい。と言いますか、それを難なく倒すとかやはりベーさまですな」
昔、海竜を一緒に捕った(乱獲とも言うがな)仲。オレの殺戮技を見ているので苦笑だけで済まされた。
「あ、親父殿。昔、オレと初めて会ったとき、海竜捕獲に協力してくれたのはオルグンたちだよ。礼言っときな」
先生の依頼でやって来たときがハルヤール将軍と出会ったとき。でなきゃ海竜捕獲は苦労しただろうな。
「そう言うことはもっと早く言えよ。ったく!」
ポカリと叩かれた。今思い出したんだからしゃーねーだろうが。
「その節はお世話になりました。お陰で依頼を達成できました。ありがとうございます」
深々とお辞儀をする親父殿。それ、オレと付き合いのある人魚か地上の風習を知らんヤツには通じないからな。
「あのときの冒険者どのか。なに、こちらもベーさまからいただいた武具を慣らすために捕獲したまで。礼など不要です。……ところで、ベーさまが親父殿と申してますが、確か、ベーの父君は亡くなったはずでは……?」
「ん? ああ、そう言や言ってなかったな。オカンが親父殿と再婚したんだよ。今回の訪問は親父殿とオカンの新婚旅行が主な目的さ」
「ベーさまの父君でしたか、これは失礼致しました!」
「あ、いや、頭を上げてください。それほどの者ではないのですから! と言うかベー! 新婚旅行ってなんだよ? 初めて聞いたわ!」
まあ、言ってなかったしな。
「息子と娘からのサプライズイベントだよ」
「サプライズイベントがなんだか知らんが、まさか、それだけのためにあの船を造ったのか?」
「ああ。どうせ贈るものなら立派なものにしたいじゃねーか」
まあ、新婚旅行のためだけに造ったわけじゃねーが、きっかけは新婚旅行だ。訂正する必要もねーさ。
「……ほんと、お前は飛び抜けてるよな。だかまあ、ありがとうよ。楽しい新婚旅行だったよ……」
「まだ新婚旅行中だ。礼をもらうには早いよ。オルグン。ワリーが、観光案内をつけてやってくれるか? 人魚の街を親父殿とオカンに見せてやりたいからよ」
メルヘンの世界の人魚とはいかねーが、それなりにおもしろいものはあるはずだ。なんでも五百年もの歴史があり、人魚が信仰している教会や王族の墓は結構荘厳らしい。城も見事だそうだ。観光するには充分だろうさ。
「わかりました。用意します。まずは城へご案内します。ハルヤール将軍もベーさまとの再会を心待にしておりますので」
「そうだな。まずは自己紹介しておくか」
そんなことをしてたら城壁の門へと辿り着いた。
どうやら軍関係の門らしく、一般人(ここにいる者は全員槍を持っています)はいないようだ。
ちなみに保守派な兵士さんたちら後ろからついて来ます。って言うか、意識しないと忘れそうだな。もうちょっと存在感出せや。
オルグンの先導で王都に入るが、入ったところも軍事施設で、城は遠くに霞んで見えた。
「ハルヤール将軍って城にいるのか?」
「はい。ベーさまのお陰でハルヤール将軍は、バルデラル王国になくてはならぬ人物となりました。が、そのため気軽に出れぬようになり、城での仕事が多くなりましだがね。わたしもヤルブも大隊長になり大忙しですよ」
それが偉くなるってこと。ご苦労さんです。
「つまり、ハルヤール将軍一派が最大派閥ってことか。王家に恨まれそうだな」
まあ、負けたら港に来ればイイんだから好きにやれだ。
「いえ、そうでもありません。ハルヤール将軍は、王家に忠誠を誓ってますし、陛下とは幼なじみの間柄。至って良好な関係です」
背後を見るオルグン。その後には、保守派には大層嫌われてますがと続きそうだ。
「国にはそう言うのも必要さ。イイ重石になってイイだろうよ」
ハルヤール将軍に限って独裁にはならねーだろうが、周りがそうならないとも限らねー。気に入らなくてもブレーキはあったほうが健全だし、利用はできるもんだしな。あってイイもんだろうよ。
「ベーさまが宰相になったらよい国ができそうですね」
「宰相なんてメンドクセーもんになりたくねーよ。つーか、オレが宰相になったら敵には容赦しねーし、利用できるものはなんでも利用する。そして、面倒事は部下にお任せ。優雅にコーヒーを堪能してるよ」
「まんま、今の状況だろう、それ」
親父殿の突っ込みに、なぜか全員が頷きました。
「オレはアーベリアン王国の民で村人。そして、ゼルフィング商会の責任者。宰相じゃありませーん」
別にエリナの国の民じゃなければ金をもらってるわけでもねー。やってるのはオレの勝手でありボランティア。宰相だと名乗ったらそりゃ自称だ。そして、詐欺だわ。
「まあ、黒幕に肩書きなんて必要ないしね」
プリッつあんの呟きにまったくだの大合唱。超解せぬ!
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